2007年04月02日

「世界屠畜紀行」内澤旬子 解放出版社

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かなり特殊な本と言えるだろう。著者が関連するテーマを本で調べようとしてなかなか本が見つからなかったというだけあって、レアな部類の本だと思う。

食肉全般とかそういったテーマならもっとあるかもしれないが、食べるために動物を『しめて』『解体』する部分を扱ったものになると、やっぱり珍しいのだと思う。

著者は世界中を旅しながら、世界各国の屠殺(本書内で、著者は『殺』という語感を避けて『屠畜』と表現している)の状況を紹介している。宗教儀式の一環として、神への生贄として家庭内で行われるものから、いわゆる屠殺を行う食肉市場まで実際に足を運んで具体的にその屠殺に至るまでの過程をイラストの描写と関係者からの話を元に自ら理解した内容を説明している。

勿論、著者の理解を経たという点で一定程度のバイアスがかかっていることを割り引いても、滅多に知ることができない話であり、大変興味深い。

また、日本における状況についても説明があり、都内や一部の地域ではそれらの仕事をしている人が公務員なのを初めて知りました。と同時に非常に厳しい管理と膨大な手間がかけられていることも知りました。BSE対策と口では言うものの、こんなに大変だとは・・・。本当に大変そう。同時に輸入肉では、やっぱりここまでの衛生・安全管理って難しそうな気がしてなりません。

もっとも、これって食肉だけではなくどこの現場でそうですが、人がやることであり、いくらルールを厳しくしても現場って守らないことが往々にしてあるんだよねぇ~。最近、原子力関係の不祥事等いい加減な対応が報告されてるけど、この手のって本当にありがち。私が研修の一環で工場の現場実習を経験したときでさえ、危険な薬品の取り扱いがルーズだったしなあ~。半導体工場でこれだもんね。

難しいもんです。かと言って、何もかも神経質になり過ぎてたら、今時食べるもんなんて何にも無くなってしまうしねぇ~。私はこの本を読んだ後も平気でもつ鍋の店とか行ってましたけど。

まあ、そういった心配は置いといて。本書では、実に詳しくどうやって屠殺し、解体するかまでの手順を説明しています。手で動脈をひねってしめるやり方やら、内臓各種をいかに手際よく、効率的に腑分けして洗浄するかなども初めて知ることばかりでした。そうそう、日本に限って言えば、屠殺だけではなく、皮を鞣して革にする過程まで説明があり、革製品大好きでバイヤーをやっていたこともある私としては、実に面白くて興味深い話でした。こうやって原皮ができるんだあ。

しかし、著者自身がどこの国でもこの取材のことを話すとびっくりしたり、気味悪くならないか尋ねられたというのももっともでしょう。文字やイラストでさえ、かなりグロイです。苦手な人だと、これ読むと肉食べれなくなるかも? 海外旅行に慣れ過ぎた女性の方でこの手のタイプの異様にバイタリティーあふれる方がいますが、著者もそういった感じの方のようです。

良くも悪くも異文化に対して非常に寛容で抵抗感なく、すっと受け入れられるタイプかな?犬を食べる話なども普通に出てきますし、大切に飼っていた犬や鳥などをつぶして食べる話などがドンドンでてきます。失礼ながら、口先だけで動物愛護を訴える方には我慢ならない本かもしれません。学校で魚の解剖とかさえ、やらない歪んだ教育の成果で、自己欺瞞的な動物愛護を唱える方にはね。

今の日本だと精神がタフであるか、精神的に成熟して寛容な人でないとこの本は辛いかもしれません。嫌いな人は、まじめな話吐き気を催すような気がします。

それとは別次元の話ですが、本書を読んでいてどうしても嫌な感じがするのは、やたらとそうした職業をする人達への差別について関心を持ち、ところかまわず聞いてまわっていること。確かに、そういう職業的差別があるという話は、実際に知り合いから聞いたこともあるが、著者が執拗に聞くのは何故?

ふと思ったのですが、ここの出版社の名称の『解放』って被差別部落解放運動とか、あの手の関係する出版社なのでしょうか? あてずっぽうで私が思っただけですが、だったら、その手の広報活動の一環みたいで嫌だなあ~。

勿論、職業とかそんなんで差別するのは論外だと思うし、差別は反対だけど、その手の差別を逆にネタにして機関紙を購読させたり、特別な権益を得ている団体とかあるでしょ。ああいうのって大嫌い!! 以前も大阪府だったか、大阪市役所でもその手の不正な金の問題があったけどね。腐ってるね、本当に。

本書がその手の関連でないことを祈ろう。本の内容自体は、拒否反応がない人なら、十分に面白いと思う。写真じゃなくてイラストによる説明も、写真撮影が拒否されたという事情もさることながら、リアルさを軽減してくれるのでかえっていいのかもしれない。絵自体はあまり好きな絵ではないけどね。
【目次】
第1章 韓国
第2章 バリ島
第3章 エジプト
第4章 イスラム世界
第5章 チョコ
第6章 モンゴル
第7章 韓国の犬肉
第8章 豚の屠畜 東京・芝浦屠場
第9章 沖縄
第10章 豚の内臓・頭 東京・芝浦屠場
第11章 革鞣し 東京・墨田
第12章 動物の立場から
第13章 牛の屠畜 東京・芝浦屠場
第14章 牛の内臓 東京・芝浦屠場
第15章 インド
第16章 アメリカ
終章 屠畜紀行その後
世界屠畜紀行(amazonリンク)

関連ブログ
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ラベル:書評
posted by alice-room at 01:44| Comment(5) | TrackBack(1) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お察しの通りというところのようです。

(株)解放出版社
http://www.kaihou-s.com/
Posted by 藍 at 2007年04月02日 09:39
藍さん、こんばんは。そうなんですか・・・やっぱり。改めて、本書をパラパラと目を通してみたら、本文中に本書の内容は雑誌「部落解放」というものに連載されていたという記述を見つけました。
う~ん、ある程度いろんな意味で割り引いて読むべきかもしれませんね。情報どうも有り難うございました。
Posted by alice-room at 2007年04月02日 18:09
はじめまして。「世界屠畜紀行」で検索してたらこちらに来ました。
この、世界屠畜紀行の企画は、著者本人が出版社に持ち込んだ企画だそうです。著者は個人的にこういったことにかなり前から興味を持っていたようですね。持ち込んだ出版社がこういう出版社だったのは、他では扱ってもらえなかったのかもしれません。あくまでも、私の推測ですが・・。
ところで、私は著者の内澤さんの製本トークショーに行ったことがあります。製本は皮革を使うことが多いのですが、その皮革を自分でなめすところからやってみたいと、はいだばかりの牛(だったと思います)の皮を一枚の皮革にするまでの工程を体験するというハードなワークショップに、アメリカの田舎(どこだったか忘れました)まで行ってきた話しもされていました。ご自身の製本ワークショップでも色々な種類の動物の皮を持って来て見せてくれたり、そういうの(皮とか骨とか)が好きみたいです。ちょっと(いやかなり?)変わってますが、すてきな方でした。
なので、著者の内澤さんがこのような本を出版されたのを知った時も、妙に納得したものです。
私は著者と知り合いというわけではないので断言は出来ませんが、部落解放とかそういうこととは関係ないと思いますが・・・
Posted by kuroyon at 2007年07月03日 17:41
kuroyonさん、こんばんは。著者ご自身が持ち込まれた企画だったんですか、全然知りませんでした。情報どうも有り難うございます。

内澤氏って製本関係のこと、実にいろいろやられていらっしゃるんですね。私が読んでこのブログに書評を書いた活版印刷に関する本のイラストも描かれていました。個人的に私も本の装丁には関心があるので実に興味深いです。

確か内澤氏の関わった本で製本に関するものまだいくつかあったように思いますので、今度はそれらも読んでみたいと思いました。コメント有り難うございます。
Posted by alice-room at 2007年07月03日 21:19
本当にひどい本です。
著者は屠殺シーンを「おもしろそー」と言っていましたが、全く理解出来ないです。
共感性や慈悲心は微塵も感じられず、動物はもの扱いですね。
Posted by りんご at 2013年03月05日 12:05
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