安く海外旅行へ行く為、大学生の集団を中心にした乗客を乗せた軍のチャーター便が天候の悪化や数々の不運やミスが重なって、冬期のアンデス山中に墜落してしまう。幸いにして多くの乗客が落下時点では一命を取り留めるのだが…。
不運に不運が重なる。パイロットが落下時の現在地点を勘違いしたが故に、事故機捜索は暗礁に乗り上げて中止され、また、遭難者達も自らの場所が分からない為に、自力で救助を求めに行くのが遅れ、悲劇を増長することになった。しかしながら、誰もが彼らの生存を諦め、捜索隊が既にその活動を断念したのちも彼らは自らの知恵と強い生存の意思から、生き続けていた。最終的に、彼らのうちの一部が自力で山を降り、救助を求めて生き残っていた人全てが救出されるのだが…。
あまりに遅過ぎた…体力の無い者、運のない者が次々と亡くなっていく中で彼らは、通常の高山病になるような高い山に食料の蓄えも無く、防寒服も無く、水さえもない中で必死に知恵を絞り、助け合い、励まし合って生き抜いたのは驚愕に値する。但し、誰かが生きる為には何かを食べ無かればならない。生物界の掟がシンプルに規律する極限状況の中で、死者を食べるというタブーを破らなければならなかったとしても…。
【ここからは、具体的な食人に関する記述が出てきますので、気の弱い方やその手のものに嫌悪感がある方は絶対に読まないように】
日本人以上にカンニバリズム(食人主義)に過敏なキリスト教国の人達故、さらに彼らの苦悩は大きい。何よりも彼らの学校はカソリック系の大学で上層階級の子弟の通う学校だったらしい。多くはラグビー部に属し、今回の海外旅行のラグビーの試合の為にという者が多かった。逆に、その団結心があったので彼らはより強固に励まし合えたのかもしれないが、救助後の彼らの扱いは、一時の英雄から、食人報道後の忌み嫌われ誹謗中傷の渦中に置かれた悲劇まで、その後も苦悩から逃れられない一生を負う羽目となったそうだ。(但し、この本では救出された直後までで終わり、その後の苦悩については触れられていない)
死人の肉なんて食べられないし、そんなもの食べるくらいなら自殺するなんていうのは、本当に飢えた事のない人であり、日常生活の枠内でしか物事を判断できない真の想像力を欠如した人なんだと思う。私も飢えたことなど無いので、想像の範囲内でしかないが、人間は追い込まれればなんでもするし、常識のタガなんてちょっとしたきっかけですぐ外れるのは知っている。本当に信念を持ち続けられる一握りの偉人以外、たいていの人は、何でもしますから。
大岡昇平の「野火」だったと思うが、戦争中に極限までの飢えで、死んだ敵国兵士を食べて生き延びる話がありましたが、それをまず第一に思い浮かべました。映画だったら「ひかりごけ」なんてもありましたね。
まあ、他の作品はおいといて、とにかく生き延びるっていう本能は何よりも強力ですね。一切の妥協が無いし、その為になら、他者を裏切り・出し抜き・踏みにじることまで平気でできる。人には良心があるのも事実だし、素晴らしい感情だと思いますが、良心や思いやりだけだったら、人類はとうの昔に自然界の生存競争に残れなかったでしょうし。NHKスペシャルの生物の進化を見るまでもなく、他よりも強欲で卑怯でなかったら、物理的弱者の人類は現在の繁栄を為し遂げられなかったのだから、複雑な気持ちです。
この本読んで改めて、そういったことを感じました。勿論、生き残った彼らは、不幸中の幸いで既に死者がいたので生きる為に殺し合うという最悪の場面だけは避けられましたが、救助隊が全員を救助した後の現場は、ある意味地獄だったようです。生き残った彼らは5日で1体の割合で死者を食べていたそうですが、カミソリで薄く剥がし、それを事故機の機体の上に張って乾燥させたうえで食べていたそうです。付近には綺麗に肉をそぎ落とした骨が散乱し、脳ミソも綺麗に無くなっていたそうです。実際の文中の表現は、もっと淡々としてよりリアルですが、それ故にもっと切迫した極限感があります。
また、救出後、彼らが一番気がかりだったのが神父に告解して自らのした行為を許してもらうことだったというのも、彼らの苦悩がいかばかりであったのかを想像させる。この本は人によって見方が180度変わるでしょうが、真実の記録として知っておいていい話しだと思いました。まず、会う訳はないのですが、そういう目に合わない事をつくづく願わずにはいられません。私はヨーロッパ行く時にチューリッヒ空港を何度か経由したことがありますが、これまでも眼下にある雪に覆われたヒマラヤ山脈に落ちたらどうなるんだろうと考えることがあります。今度からは、この話を思い出さずにいれれないかも知れないです。う~む。
生きている実感のない人。完全自殺マニュアルとかしょうもないもの読んでる人(私も初版で持ってますが…自爆)はこういうのでも読んでみるといいかも? 生きるということを改めて考えさせてくれます。ただ、絶版みたいですが…。
あっ、苦手な人は間違っても手を出さないように。思いっきりブルーになるし、気持ち悪くなってしまうかもしれません。あと、特殊な嗜好の人も興味本位で読まないように、そういう本ではありません。真面目な話です。当時、アンデスの奇跡と呼ばれたのも当然なくらい。
アンデスの聖餐(amazonリンク)
これ,映画化されてなかったかな?と思ってクリックしてみたら・・・。
なんで私の興味を引く本ばかり紹介してくれちゃうんですか。これで3連続ですよ(笑)
調べてみたら,1973年と1993年に映画化されてますね。
1973年版が「アンデスの聖餐」
1993年版が「生きてこそ」
でした。
1973年版が「アンデスの聖餐」の映画はgoogleで調べた時に気付きましたが、もう一つ映画まであったなんて知りませんでした。93年だとそれほど古くないですね。情報有り難うございます。
今度TSUTAYAで探してみよっと。もし、見たらまた感想書いてみたいと思います。でも映像だとちょっときついかな?