
植物の葉と人間が組み合わさったデザインである通称『グリーンマン』。本書はこのデザインが象徴するものを読み解くイコノロジー(図像解釈学)という話なのだが、イコノグラフィー(図像学:図が意図するものを把握する)まで達していないような気がしてなりません。
ただ&ただ、グリーンマンとおぼしき図像があるものを採り上げて紹介・勝手な推測しているだけで、自分の知識を広める役に立ちません。まず図像が直接的に意図している内容自体の説明がかなり適当で、一応は脚注で文献を示していてもいきなり著者自身の独自解釈を入れてるうえに、複数の図像を提示しつつもそれらがどのように関連するのかの論理的な説明がほとんどありません。
別に引用なら引用で明示したうえで著者自身の見解を表すとか、そういった基本的な姿勢がなくて主張がかなり混乱して記述されています。また著者独自の解釈なら、それはそれで良いと思うのですが、単なる類似性だけで論理的な説明や根拠となる文献等も示されないまま、いきなり結論的な見解を出されてもきっちり1分間思考停止してしまいます。「はあ~?なに言ってるの?」ってなカンジ。
およそ合理的ではなく、だらだらと列挙と引用と独断が続く文章には嫌気がさしてきます。
グリーンマンが異教的な要素を残したままキリスト教的美術に取り込まれたという一般的な見解に対し、著者は異教というよりも十分に取り込まれて一体化したうえで更に発展したというようなことを主張したいようなのですが、本書全体を通して、一貫した論理展開が見られません。エッセイとしても論外なカンジがしてなりません。
話はあちこちに飛ぶものの、それが最終的に著者の論旨に収束することがなく、かえって論点を分散するだけでいっこうに要領を得ません。これってヒドくないかなあ~。
第五章にいたっては、ゴシック期のグリーンマンとしてシャルトル大聖堂内の彫刻内のものがたくさん出てきて頁数も結構占めてるものの、全然意図不明です。もったいない。デザインの一次的な意味するものさえ、明確に特定できないままに解釈とか、歴史的な大きな意味で捉えようとしても論外でしょう。方法論の時点で致命的に欠陥有り。
個人的には絶対にお薦めしない本です。狙いは面白くてもねぇ~。ただ&ただ、たくさんの本を読みましたというレベル。それだったら、単なる引用とそれの整理だけでも十分に価値があるのに、無理して独自の解釈の真似事等した為に何の役にも立たないものに仕上がってるようです。実に、実にもったいない・・・。ちなみに図版もそれほど多いとは思いませんし。
これを読むなら、図像学の大家エミール・マール読みましょうね! パノフスキーは私には難しくて理解できませんが(涙)。
【目次】グリーンマン―ヨーロッパ史を生きぬいた森のシンボル(amazonリンク)
プロローグ グリーンマン登場
第1章 グリーンマン狩り
第2章 古代のグリーンマン
第3章 暗黒時代のグリーンマン
第4章 ロマネスク期とゴシック初期のグリーンマン
第5章 ゴシック期のグリーンマンの凱旋
第6章 グリーンマン作品の謎
第7章 グリーンマンの再来と消滅
エピローグ グリーンマンはよみがえる
関連ブログ
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「ゴシック建築とスコラ学」アーウィン パノフスキー 筑摩書房
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社ここでいう「葉人間」が「グリーンマン」のこと。
「キリスト教図像学」マルセル・パコ 白水社
二十代前半に読んで色々と刺激的だった覚えがありますわ(笑)
後から思い直すと、とにかく葉っぱ塗れのデザインのをとにかくグリーンマングリーンマンと呼んでまとめてて、かなり恣意的だったなあと。
当時はキリスト教的な建築物の中に異教のシンボルが!というだけでなんか楽しかったのですが、そこはかとなく世間の裏側を垣間見た的な愉悦というか、これではゴシックではなくてゴシップだと(苦笑)
あと、リングレットという漫画で、ゴシック様式の教会は森を模していて、ステンドグラスは木漏れ日のイメージだとか書かれてたを読んだばかりだったので、なんとなく脳内で繋がって相乗されていたのかもです。まあ今から考えれば、仮にそれが本当だとしても、木の葉男たちは森をイメージした時についでに出てくる精霊とか妖精の類の記号化にすぎず、異教的シンボルとかどーこーとみなすには無理があるのかもと自己突っ込みとかしたり。ゴシック様式には全然詳しくはないんですけど。
ちなみにこの本は妹の友達が歴史関係の本が好きというので、日本の土木遺跡とか、確か白水から出ていた昔のイギリスの牢屋番の日誌とか貸してあげたんですが、半年ほどして返してもらいにいったら、「なんのことです?」としらばっくれられました(涙
可愛い女の子だったのにっ
グリーンマンは内容はどうあれ、個人的には表紙の写真が好きなので、手元においておきたかったんですがねえ…。
努々、本は貸すもんじゃーないですよ。
とかそんな愚痴みたいなこと書いてすみませんでした。
面白いテーマなので、もっと&もっと知りたいと思ったことを思い出しました。すご~くぼんやりした記憶でしかなくて恐縮ですが・・・。
貸した本は、返ってきませんね。私の経験からも同じです(笑)。
可愛い子や美人の子には、お気に入りの本ほど貸してあげたくなるものですが、本は変わりませんが、人の心は変わりますので・・・(苦笑)。
少なくとも絶版もので入手が困難なものは、貸さないようにしております。好きだった相手を本の件でうらむのは、更に嫌ですからねぇ~。
(性格の件でこじれるのはしょうがないですが・・・)
くおんさん、同感です。