
本文中にも触れられていますが、読書好きというよりは、本そのものを愛するビブリオマニア向きの本ですね。非常に軽く、さらっと書かれていて大変読み易いのですが、これがベストセラーになった英国ヴィクトリア朝時代って、素敵な時代だったんですねぇ~。現代では、一部の好事家というか書痴系の人以外は読みそうにない本だと思われます。私は結構好きでした。値段以外は満足ですね。
内容はタイトル通り、目次の通り、本の『敵』に関するエッセイです。火や水などの被害甚大だけど、歴史的にみてどうやっても防げない不可抗力的なものはまだしも、人災とかはねぇ~。
物の価値、なかでもとりわけ『書物』の価値を知らない人達によって無残に惨殺されていく可哀想な本達の実例などが紹介されています。あのキャクストンによる『黄金伝説』初版が無知蒙昧なお手伝いさんによって暖炉の炊き付け用に燃やされていたんだとか。すみません、普段冷静な私でもとっさに殴って突き飛ばして、泣きながら本を奪うかもしれません。つ~か、マジでやってしまいそうですね。
他にも貴重極まりない手彩色装飾写本が屋根や壁が壊れて進入したつたを伝ってきた雨水によって表紙を濡らしているのを見たら、息が止まることでしょう。
稀稿本収集家が亡くなった後、その家族はご丁寧にもその稀稿本をばらして一頁一頁で、トイレの紙として使用していた等々。ほとんど悲劇ではなく、喜劇です(合掌)。
更に、更に自称愛書家が稀稿本の気に入った扉絵だけを切り取り、それを集めたスクラップブックで本を作ったりする奴がいるんだそうです。その上、悪辣非道な事に扉絵を切り抜いた残りはゴミとして捨てるんですよ。インキャナブラ(初期印刷本)とか彩色写本といった稀稿本をゴミとしてね。
まあ、日本だって廃仏毀釈の時に貴重な仏像を思いっきり壊したり二束三文で売り飛ばしてたんだから、えらそうなこと言えないでしょうが、歴史って怖いですねぇ~。
実に明るく読み易い陽気な本なのに、愛書家にとっては、時々異様に深刻で心臓に悪いところがある本です。子供や奥さんに関するところは、是非とも他山の石とすべきことでしょう。本に関する限り、普段なら何よりも大切な彼らでさえも、まぎれないない『敵』です、悪魔の使者です(笑顔)。どんな甘言や天使の表情でも騙されてはいけません。油断したばかりに、悔やんでも悔やみ切れないお話などが紹介されています。
そもそも愛妻家と愛書家は、同一人内で共存しえないのではないかと個人的には真面目に思ってしまいますが、家族から浪費や収蔵スペース占領で白眼視され、更には蔵書への明示的圧力などいやはや怪談以上の恐怖でしょう。他人事とは思えません、ハイ。
そういった点なども含めて「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」つ~ことで本書でお勉強するのもいいでしょう。同好の氏なら思わずニヤっとさせられることでしょう。
う~ん、しかし、今日もアメリカのamazonからエアーメールで時祷書が届いたが、最高の状態で大満足だけど置く場所がな~い(号泣)。積んでる本が崩れそうで怖い。むき出しのままだと日に焼けそうで怖いし、段ボール箱も重ね過ぎ。部屋が狭くなるばかり。なんとかして欲しいなあ~。
さてさて『書物の敵』とどう闘おうか! ちなみに私が一番恐れる『書物の敵』のうなり声ってご存知? 「その本いつ読むの~?」これを言われると心臓が瞬間止まりますってば。これってかなり効果的な呪文攻撃だったりする(笑)。
応用編に「前の本読んでないのに、また買ったの?」というのがあるが、ここまでくると生死に関わるので知り合いの書痴に間違っても言わないように気をつけましょう。最低でも殺人未遂くらいの殺意はあると思うし、構成要件満たしてない?・・・(笑)。
【目次】書物の敵(amazonリンク)
第1章 火の暴威
第2章 水の脅威
第3章 ガスと熱気の悪行
第4章 埃と粗略の結果
第5章 無知と偏狭の罪
第6章 紙魚の襲撃
第7章 害獣と害虫の饗宴
第8章 製本屋の暴虐
第9章 蒐集家の身勝手
第10章 召使と子供の狼藉
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