2005年05月26日

「吉原御免状」隆 慶一郎  新潮社

これは、吉原関係の本を読んでいた時にlapisさんから、御紹介頂いて読んだんですが、面白い! 面白過ぎる!作品でした。おかげで読み始めたら、他のが何もできなくなってしまい、困ってしまいました。週末に読むべきでした。それだけが失敗(苦笑)。(lapisさん、有り難うございました)

勿論、舞台が私の関心を惹き付けて止まない吉原というのもその理由の一つですが、そこに描かれている世界がなんと生き生きとしていることか。それこそ、おとぎの国にでも紛れ込んだ感じでいながら、今いる世界と変わらないものを感じさせる筆力は凄い!古めかしい時代感ではなく、まさに今現在の小説になっている点も驚きです。

一応、予備知識があるせいかもしれませんが、さりげなく且つ的確な解説で知らず知らずに頁を読み進めていくだけでいろんな時代的な知識が付くのも素晴らしいオマケです。いやあ~、ただ読んでいるだけでそこそこの知識がついてしまいますよ、ホント。勿論、そういったのはむしろ余禄の部分で、裏柳生VS(宮本武蔵の)二天一流の剣戟もまさに目前で繰り広げられるかのような鮮やかさで大娯楽活劇としても楽しめてしまいます。

しかし、しかし、一番の眼目はなんと言っても吉原設立に関わる大御所様(家康公)との密事でしょう。表向き、当時の遊女屋の元締めが幕閣への多額の賄賂と懇願、風紀的な必要から吉原の認可が下りているのは、私も知っていた有名な話ですが、その裏にこんなことがあったとは・・・・あくまでも小説です(笑顔)。やっぱり、ストーリー作りがうまいです。謎の天海僧正の正体とかね。すっごい楽しめる作りになってますよ~。超一流のエンターテイメントです。これだったら、ほとんどの人が楽しめる作品でしょう。私がここ数ヶ月読んだ中でも1・2位の面白さです。たいていの人にお薦めします。

でね、どっかでこの大御所様の話を知っていて、考えてみたら漫画で読んだ事があるんですよ。先に。その時もすっごく面白かったので、小説がちょっとという人はそちらの漫画もお薦め。小説には小説の良さが、漫画には漫画の良さがありますよ。どっちも私のお気に入りです(満面の笑み)。

あとね、小説の方はとにかく楽しくてしょうがないようなネタがたくさん含まれているの。八百比丘尼や漂泊の民なんて、民俗学の本にも良く出てくるし、私も好きでいくつかも資料持ってますが、うま~くその特性を生かしつつ、小説に溶け込んでて感動しちゃうぐらい。ちょっとその辺りの本をかじられた方なら、お分かりでしょうが「蝉丸」を暗示するような話が出てきてなるほどなあ~と頷いてしまいます。これ自体の名称は出せれていませんが、その背後にあるのは明白ですね。詳しく説明すると小説の面白みが半減するので、これ以上は書きませんが…知っている人には、より一層感慨が深いかもしれません。

とにかく、この小説のあちこちに巧妙なというか、くすぐるようなものが散りばめられてもう、堪らないですね! ポン、ポンと出てくる単語から目が離せません。仙台高野、花柳病、湯女等々、キリがない。それに普段から都内に出ると、上野や浅草でぶらぶらしている(働け!働け!って)私としては、聖天様やドジョウの駒形とか今でも違和感無いですしね。さすがにこの本には、神谷バーは出てきませんが…。真昼間から電気ブラン(オールド)を飲んでいるのは堪らないですね。タンのシチューとか、生ハムを食べつつ、ビールと電気ブランを交互に飲んで本を読む。至福の時ですね。

う~ん、どうしても話がそれてしまいますが、いい本です。本好きで未読なら、読んで間違いないです。と、自分も教えてもらったくせに太鼓判を押す、知ったかぶり。まあ、浮世の世界にはこんなとこで宜しいかと。

粗筋としては、宮本武蔵に山中で獣と共に育てられた天涯孤独の若者が、武蔵の遺言で吉原にやってきます。そこで知らず知らずのうちに、巻き込まれる柳生一族との争い。次第に自分が吉原にとっても、将軍家の天下にとっても重要な人物であることが分かってきます。そして、自らが何者か知らなかった若者は、自分がこの世に生まれて何をすべきかを悟る、という筋書きです。

ただ、この本の魅力はこのレベルではすみませんよ~。本当は、この本の魅力についてこの10倍ぐらい書きたいことあるけど、ただでさえ冗長なんでこの辺で我慢します。でも、間違いない!

吉原御免状(amazonリンク)

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posted by alice-room at 03:41| 埼玉 ☀| Comment(7) | TrackBack(0) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
「吉原御免状」、気に入っていただけたようで、とても嬉しいです。
また、拙ブログまで、ご紹介いただきありがとうございました。
隆慶一郎の小説は、完成度の高い物が多いです。 alice-roomさんさんが、言及されている「影武者徳川家康」も面白いですし、「捨て童子・松平忠輝」や「花と火の帝」も面白いですよ。隆氏には、もっと長生きして、もっと多くの作品を書いて欲しかったです。
Posted by lapis at 2005年05月26日 23:19
私も隆慶一郎さんの好きです
私は、少年漫画誌に掲載されていた「花の慶次」(原作は「一夢庵風流記」)で知ったのですが、元々、フランス文学を学び、翻訳もされてたかと思いますが、テレビの脚本を長い間されていたたせいか、映像が浮かぶような書き方をされてるので、浅学な私でも十分楽しめ、alice-roomさんがおっしゃるように、風俗についての手引きにもなります。あくまで、隆慶一郎の視点というフィルターは掛かっているわけですが、その部分に共感するところが多いので好きだというのが大きいです。
Posted by 印南野きつね at 2005年05月27日 02:54
シナリオライター時代の名前はたしか「池田一朗」だったような。いよいよこれから,という時に亡くなってしまったのが残念。
『花と火の帝』は未完だし。
隆氏行きつけの古本屋って,神保町の高山本店じゃなかったですか?
Posted by うりこ at 2005年05月27日 10:39
こんばんは
lapisさんや印南野きつねさんも書いてますが、「一夢庵風流記」・「影武者徳川家康」も面白かったですよ。私的に家康は嫌いですが、影武者の家康は好きになりました。前田慶次郎も熱くかっこ良い人物でした。ではまた
Posted by ミントン部員 at 2005年05月27日 20:28
>lapisさん、本当に良い作品を御紹介頂き、有り難うございました。他にもたくさん面白そうな作品があるんですね。ゆっくりいろいろと楽しんでみたいと思います。亡くなられてしまったんですか? 全然知りませんでした。う~ん、残念ですねぇ~。

>印南野きつねさん、「花の慶次」あれも面白かったですね!私も好きでした。そうなんですか、あれも隆慶一郎氏のだったんですか。

う~ん、何も気付かない私って…。脚本とかも書かれていたんですね。本当にいろんなことをされていた方なんですね。どうりであの描写力納得しました。教えて頂き有り難うございました。

>うりこさん、そうなんですか高山本店に出没されていたんですか。もしかしたら、拝見していたかもしれませんね。いろんな方がいらっしゃいますから神保町は。

今日は駒場の古書店街をハシゴしてまた、本をゴソっと仕入れてしまいました。いつ読むのやら???(自爆) 滅多にいかないとこですか、結構素敵な本がたくさんありましたよ~。

>ミントン部員さん、私も影武者と前田慶次郎、大好きです。人物が非常に魅力的ですよね。自由闊達に人生を生きていきたいです。
Posted by alice-room at 2005年05月28日 00:18
「影武者徳川家康」「捨て童子・松平忠輝」も漫画劇画化してたように思いますので、意外と接してる人は多いと思うのですが、映像化はされてないように思います。
「柳枝の剣」は衆道の話題が入ってますが、たぶん、綱吉の代あたりから、戦国以前の風俗が消されていったんじゃないかな・・というのとも関係してきてると思います。
うりこさんが書いておられるように「花と火の帝」って未完なんですね。
後水尾天皇は八百数十年ぶりの女帝誕生させたりしましたが、隆さんは、今の状況も予想してたのでしょうかね・・
江戸時代初期の作品が多いですが、大きく時代が変わって、前時代の色々なものが消えていくけど、新しい時代の骨組みの中に、しっかり残っていく・・
現代の日本を江戸時代末から明治維新になぞらえる人もいますが、江戸時代初期とも似ていると思います。
Posted by 印南野きつね at 2005年06月01日 04:57
印南野きつねさん、結構漫画化されている作品って多いんですね。武断政治から文治政治への転換と共に、荒々しい(=力で幕府転覆を図るような)風俗は馴致されていったのかもしれませんね。

時代の変わり目というのは、いつでも混沌と猥雑さがつきものですし、既存の社会システムが行き着くとこまでいって壁にぶつかった時の急変革を個人的にはある程度期待していたりします。

まあ、ベンチャー系をうろうろしている私的には乱世はチャンスなんですけどね(笑顔)。いつもコメント有り難うございます。
Posted by alice-room at 2005年06月01日 19:43
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