
「澁澤龍彦ー幻想美術館ー」展:埼玉県立近代美術館
おおっ、もう澁澤さんが亡くなられて没後20年になるとは・・・。なんとも隔世の感がありますね。私の中では、まだお亡くなりになったことが実感として思えないのだけれども・・・。最近、いささか忘れられてきたようで澁澤氏の初版の価格が一時の高騰から、恐ろしいまでの下落に至っているのを古書店で見るにつけても、溜息ばかりです。
個人的な蔵書の価格が下がるのなんてどうでもいいのだけれど、澁澤氏の評価が忘れられつつあるようでなんとも寂しいとしか言いようがない。少年期から青年期にかけて、私の精神の大きな部分を形成してきた必須要素であるが故に、どうしても思い入れが強いのです。
そんな折も折。たまたま澁澤氏の展覧会をしているのを知ったのは、偶然なのでしょうか? 私には必然のような気がしてなりません。昨日、初めて知り、あわてて今日行ってきました。何が展示されているのか、かつての熱狂を抱けない自分を見出さないか、一抹の不安を抱きながら・・・。(以前、池袋西武の澁澤展に行き損なって以来の後ろめたさを覚えつつ・・・)
杞憂、杞憂、杞憂。
私は愚かでした。実際に行ってみた展覧会は、実に澁澤さんらしい。否、澁澤さんでなければ、思い描けないような内的宇宙空間(ミクロコスモス)の渦巻く濃密でいて、どこか透き通って達観した、でもいたずらっ子の混沌を孕んだまさにどこにもない、ここだけの世界でした。
澁澤さんが生きられた空間の断片でしかありませんが、それは決して過去のものではありません。澁澤さんの著作を読んできた読者なら、きっと!おそらく絶対に!たぶん間違いなく! ――― 感じられるものがある展覧会です。
確かに澁澤さんゆかりのものが展示されているのですが、単なる展示会以上のものを感じます。まさに世界観というか、空間自体の一部を切り取った観があります。
見学者が少なかったせいもあるでしょう。私はこの世界に十分に浸ることができました。もし、貴方が澁澤龍彦という作家の名前を知っていて著作を読んだことがあるならば。そしてその作品から何かしら感じることがあったならば。
迷わず、この展覧会には行く価値があります。学生なら、学校休んで行きましょう♪(貴方にとっての学校が自分自身より大切だと思えるなら別ですが・・・) 社会人なら身内の不幸を捏造して行きましょう♪(身内の不幸なんて、そんなことでしか有効な使い方は無いのですし・・・)
それだけの価値があると思うのです。それぐらいの気持ちで見たいほどのものなのです。この澁澤展を見た後、私は川越に行きました。澁澤さんにもゆかりのある土地ですし、私が澁澤さんの作品に浸かり切っていたのは、川越市立図書館の蔵書そのものだったから。気がつくと展覧会の余韻の赴くまま、図書館にへ向かい、懐かしい図書館で澁澤さんの本を探していたのでした。薄っぺらい郷愁じみたものかもしれません。でも、やっぱり澁澤さんは私にとってなんとも思い出深い作家さんなのでした。

なんか久しぶりに感極まってしまい、いささか突っ走った文章を書いてしまいましたが(苦笑)、具体的な内容なども紹介しますね。
本展覧会では、澁澤龍彦氏にとっての生活空間、身近なもの、知人・友人・関係者との関わりなどなどを圧倒的物量で所狭しと展示しています。そのどれもが、澁澤さん自身の一部と言ってもよいかもしれません。
膨大な展示品故に、展示品名が全て紹介されていたら、それだけで貴方もきっと見に行かねばと思うこと間違い無しでしょう。まずは、私が個人的に強く関心を惹いたものを列挙してみます。
サド侯爵の自筆の手紙。池田万寿夫「聖澁澤龍彦の誘惑」。ジュゼッペ・アルチンボルド「ウェイター」。横尾忠則「劇団状況劇場公演~腰巻お仙忘却編~」。ギュスターブ・モロー 聖セバスティアン 群馬県立近代美術館。ギュスターブ・モロー ダヴィデ(エッチング)。ギュスターブ・モロー ユピテルとセメレー(エッチング)。ギュスターブ・モロー 出現(エッチング)。ポール・デルヴォー 森。金子國義 花咲く乙女たち。四谷シモン 未来と過去のイブ。伊東若冲 付喪神図。酒井抱一 春七草。アタナシウス・キルヒャー「シナ図説」。「高丘親王航海記」自筆原稿・自筆地図。野中ユリ「狂王」。アルブルヒト・デューラー 四人の御者。土方巽の写真等々。
これでも本当にごく一部でしかありません。まさかモローの本物や伊東若冲があるとは思いませんでした。キルヒャーまであるし・・・凄い、凄過ぎる!! でも、ほとんど人がいない。な、なんでだ~!!
正直言って場所が悪過ぎるんですけどね。駅から近いけど、都内からだとちょっと不便でしょう。そして、それ以上にいけないのがこの展示会の告知・広報。これだけの展示会をするのは、すっごく大変だったと思うですが、それにしても宣伝なんとかしてよ~。

私の手元に出品リストがあるけど、総計(延べ)310点。一部は前期後期での入れ替えがあるけど、ごく一部。とにかくこのリストは、ネット上ですぐ分かるように紹介すべきでしょう。だって、私がネットで検索しても何が展示されるのか、イマイチ分からなかったもん!これだけのものが展示されているとなれば、見に行く人が絶対に増えるはず。
ただ、出品リストをネット上に載せるだけで見に行く人の数が大幅に伸びるような気がします。せっかくの企画展なんですから、手数を惜しまず、一番基本的な展示品のリストを公開すればいいのに・・・。
モローの本物とエッチングだけでも十分に見に行く価値があると思う。あの若冲だってあるんですよ~。当然、ハンス・ベルネールもあるし、佐伯俊男まである。私だって、ここに展示されているもの全てが好きなわけでもないが、絶対に何か好きなものが見つかるはず!! ツボをしっかり押さえた何かが・・・。
東京国立博物館にはご存知のようにダ・ヴィンチの「受胎告知」が来ています。これは、私も見たけど大変素晴らしいと思います。世界的にも評価されていますし、もっともだと思います。でもね、それに勝るとも劣らないだけの展覧会がこれだと私は密かに思っています。
誰もが見て納得がいき、素晴らしさを実感できるダ・ヴィンチに対し、ごく一部の人が人知れず、ニヤリと心の奥底で舌を出す展覧会。いささかやましいような、理由のない(?)後ろめたさを覚えつつ、見に来ている他の見学者とは視線を合わしたくないような展覧会。ダ・ヴィンチの100分の一どころか千分の一、恐らく万分の一くらいしか見る人のない展覧会でしょうが、好きな人にはどんなことをしても観て欲しい展覧会でした。
私も絶対にまた見に行くつもりです。そして、良くも悪くもごく一部のご同好の士、貴方は絶対に見ておくべきです。何があっても、見ないといけないと思いますよ~。心からそう思います。
今、他のところでも澁澤龍彦に関する展示があるようです。そちらも是非行きたいと思いますが、合わせて紹介しておきますね。
「澁澤龍彦の驚異の部屋」展:ギャラリーТОМ
没後20年 「澁澤龍彦 カマクラノ日々」展 (4/28~7/8):鎌倉文学館
【追記】
手元にある澁澤龍彦集成(桃源社)、澁澤龍彦全集(河出書房新社)、「血と薔薇」などの初版本の数々。もう一度ダンボール箱から取り出して読みたくなってしょうがありません。本箱が崩れ落ちそうで怖い・・・誰か、助けて・・・!
関連ブログ
企画展「澁澤龍彦 カマクラノ日々」鎌倉文学館
「黒魔術の手帖」澁澤 龍彦 河出書房新社
「神聖受胎」澁澤龍彦 現代思潮社
「図説 地獄絵を読む」澁澤龍彦、宮次男 河出書房
澁澤龍彦氏の書斎を紹介するサイト
以下、ギュスターブ・モロー関係:
「ギュスターヴ・モロー」ギュスターヴ・モロー 八坂書房
ギュスターヴ・モロー展 Bunkamura
オルセー美術館展~東京都美術館(2月3日)
国立西洋美術館にあるマグダラのマリア
聖チェチリア(モローの画像有り)
よかったですね。
日本に居たら是非見たいと思いますが。。。残念です。。Alice-roomさんの興奮が伝わってくる記事でした!
評判どおり、素晴らしい展覧会だったようですね!
alice-roomさんの記事を拝見したら、新幹線に飛び乗りたくなりました。(笑)
仰るとおり、場所が悪いので、もう少し行きやすいところで開催して欲しかったものです。
5月6日の巖谷國士の講演会も面白そうですね。
さて、どうしたものか。。。
宇月原晴明『安徳天皇漂海記』に登場したので、『高丘親王航海記』を読みました。
もっと読んでみたいですね。
lapisさん>いささか扇情的というか、感情的な文章で展覧会の良さを適切に表現できているか自信がありませんが、想像以上に良かったです。
お仕事等お忙しいでしょうし、実際問題、結構難しいですよね。あまり無理しない範囲で見れたら最高ですね!! ただ、アクセスがおっしゃる通りネックですよねぇ~。う~ん。
大阪のマリアさん>私の場合は、たまたま澁澤さんの本がよく出回っていた時期と自分の感性の嗜好が偶然一番合っていたからだと思います。
澁澤さん自体はメジャーであり、同時にメジャーでない微妙な位置だったかも知れません。タイミングが合わなかったら、知らない方も多いと思いますよ~。
小説の翻訳から、博物誌的エッセイや評論、創作等々多彩な活動をされてますし、書かれた本のジャンルも多岐にわたりますので好みにあった本があると思いますよ~。自分にあった面白い本が見つかると素敵ですね♪
一頃夢中になった人ですが、実はもともとは毎日新聞で連載していた「東西不思議物語」がきっかけという
コアなファンには怒られそうなものです。
あ~あ、私もSeedsbackさんの気持ちよくわかります。
これもそうだし、新宿伊勢丹のローリング・ストーンズ元ベーシスト、ビル・ワイマンの写真展(ファンには垂涎もののプライベートショットの数かず)も逃してしまったし。
ドラえもんのどこでもドアがあったら、と嘆くのは
(前にも言いましたよね?!でも、しつこく!)
こんなときです。
そうですね、好きな人確かにいると思います。でも、最近はイマイチ下火みたいですよ~。一時異様な盛り上がりしてましたから、その反動かもしれませんが・・・。残念です。
どこでもドア、あったら嬉しい反面、旅行の楽しみがなくなりそうで怖いかも?難しいですね、あったらあったで問題で、なければないほど欲しくなります(笑顔)。
でも、今回の美術展は本当に興味深いものが多くて楽しめました&勉強になりました。よしさんは、対談も行かれたのですね。羨ましいです。(私は対談が終わってから知ったの行けませでした。大失敗!)
しかもそんなに人が多かったのですか・・・、う~ん、ますます惜しいことをしました。澁澤さんの残されたものってやっぱり大きかったんでしょうね。改めて本を読み直したくなりました。
巖谷さんの講演は「澁澤龍彦★美術の旅」といって、それこそ展示作品をすみからすみまで案内してくれるというもの!あれは面白かった。
その前に巖谷さんが澁澤さんとのプライヴェートな話をしてくれましたが、それもなんだか切なくなるくらい。15歳年がはなれているというけれど、澁澤さんは本当に巖谷さんを信頼していたんだろうな~。あとを頼む……なんて遺言、なんだか涙があふれてきました。
だって、巖谷さんは長年にわたって全集関係やほかにもたくさん澁澤さんの仕事を引き継いでまとめているし、今回の展覧会やら雑誌の特集だって(なんだかいろんなところでやっているもんな~)本当にすてきな、再発見させてくれるようなすてきな文章で澁澤さんにオマージュを捧げていますもんね!
「澁澤龍彦考」とか「裸婦の中の裸婦」なんかも復刊して、買っちゃったりしました~。
ついつい昨日の講演会の余韻に浸ってつらつら書きましたが、埼玉の展覧会、あれはもっと宣伝するべきですよね!内容がすごすぎ!あんな展覧会見たことない!(この構成も巖谷さんがやったんですって!マルチな先生!巖谷さんの本もよんでみよ~っと!)
ま~新聞社とかもついてないし、こうしたネット上の口コミしかないのかな~。展覧会に感動したので、私も一役買えればと思って、こんな風に書き込みしちゃいました!
まだ見ていない人!必ず出かけていって下さい!
東京駅から40分もあれば着いちゃうし!北浦和駅!
カタログもすごいゴージャスな表紙で、ちょっとした宝物を見つけた気分です。
おじゃましました~
うわあ~、頑張って都合をつけてやはり行くべきだったなあ~と後悔しちゃいます。ホント。
>ついつい昨日の講演会の余韻に浸ってつらつら書
>きましたが、埼玉の展覧会、あれはもっと宣伝
>るべきですよね!内容がすごすぎ!あんな展覧会見たことない!
本当に私もそう思います。この展覧会、もっと&もっとたくさんの方に知ってもらいたいですね。そして是非、たくさんの方に足を運んでもらいたいです!!
改めて、私もまた行きたいと思いました。コメントどうも有り難うございました(お辞儀)。
感動をどのように書いたらいいのか…盛りだくさんの作品に圧倒され、来てよかった!
と思いました。懐かしい物もあり、本当によかった。一言残したくて…では
コメント有り難うございました。
とても一言では言い表せない展覧会でしたね。
若冲目当てに行ったのですが、澁澤の毒に
かなりやられてしまったようです。
TB送らせていただきます。
既に行かれていた方々からの情報で、とにかく気合を入れて出かけましたが、やはり二時間はかかりますね。
澁澤はリアルタイム時に何を読んでいたかちょっと思い出せなくなってます。
中学生の頃ナマイキに埴谷雄高とか読み始めていて、そこから澁澤も読み出したのですが、色々な影響を受けたように思います。
唐十郎、シモン、金子に目が向いたのは間違いなく澁澤からでしたし、石川淳に熱狂したのも澁澤の『至福千年』の解説からでした。
来月鎌倉文学館に行きます。
とても楽しみです。
ところで空いていたのですか。
タイミングでしょうか、わたしは5/5の一番客でしたが、後から後から続々お客さんが来られて、出るときには熱気に満ちていました。
めでたいことです。
そんなこともあり、本当に今回の澁澤さんの展覧会は嬉しかったし、楽しかったです。遊行七恵さんも鎌倉文学館で楽しめるといいですね♪
>タイミングでしょうか、わたしは5/5の一番客で
>したが、後から後から続々お客さんが来られて、
>出るときには熱気に満ちていました。
>めでたいことです。
私の時は平日だったこともあり、本当に少なくて10数人というところでした。ちょっと悲しかったです。でも、たくさんの方が見に来られているんですね。本当に良かった! あまりに混み過ぎるのも困りますが、ある程度はたくさんの方に見て欲しいですね。そういえば、今日の日経新聞に大きく澁澤さんの展覧会が採り上げられていました。更にたくさんの方が行かれるのではないでしょうか(笑顔)。来週、また私は行ってくるつもりです。