2005年05月31日

「西洋暗黒史外伝」吉田八岑 桃源社

gomon1.jpgもう、この本も定番中の定番の部類ではないかな? 日本において悪魔っていったら、まず筆頭に挙げられるでしょう吉田八岑氏。悪魔学の泰斗ってところでしょうか。私も何冊か著者の本を持っていますが、これは読んだこと無かったような気がして先日、古書店で購入した一冊。

タイトルの通り、西洋史及びキリスト教会史上の恥部である宗教裁判を具体的な事例や裁判の審理過程、裁判の根拠法令、法令実施状況等を当時の資料を引用(or 孫引き)しながら、丁寧に解説を加えています。

どこぞの嫌らしい低俗な悪魔本等とは一線を画し、可能な限り、その当時の事実を明らかにしていこうとする姿勢が大変好ましいです。引用に際しても、かなりの部分は文献が明記されているし、数々の事実の延長線上に当時の社会情勢を再構築するべく、理路整然と書かれた文章は、時代を経ても色褪せるところがないですね。(書かれたのは昭和46年)

最近、悪魔を取り扱った百科全書的な本で翻訳物を散見するが、どれも内容がイマイチだった気がする。そのうちの幾つかは読んだが、正直値段に比した価値のあったものは少ない。本書は十分に値段に合った、否、値段以上の価値ある本だと断言する!

本書ではまず、異端審問がいかにして始まり、それが世俗の裁判権と棲み分けを果たしながら、西欧に広まっていく歴史を説明している。同時にそれがどのような世界史的情勢下でなされ、その異端審問の内容が時代に沿っていかに変容・拡大していくかも合わせて物語っている。当然、それを支える法的根拠にも説明がなせれ、「審理」「自白」が有する意義・内容についても解説されている。

また、具体的に資料が残っている裁判事例を挙げながら、各国別の異端審問の模様や差異についても触れている。当時の異端審問が当初、宗教的な情熱から生まれながらも、いつしか被告の財産没収という付加的価値から徐々に変質し、各種制度の整備とシステム化に伴い、体のいい金儲けの為の産業、ひいては国家的経済政策にまで増長する有様を如実に示していて、巨観深い。

フランス拷問図十字軍の目的が聖地奪回から東方貿易の伸張へ、と変質にしていくのにも似たその姿は、つくづ人の業の深さを感じさせずにはいられない。裁判の証拠が往々にして自白に拠った為、いかにして被告を殺さずに、苦痛を生ぜしめて有罪につながる告白を引き出すかに躍起になった人々の姿が心に痛い。その為に生み出された拷問道具の数々。本書では、それにも詳細な説明や効果が挙げられていて知識的な欲求としては惹かれるものの、ここではあえて詳しく説明しない。

貧しい人々に限らず、大法官、貴族、聖職者、市長等の社会的成功者クラスであっても、続々と嫌疑をかけられて異端とされ、火刑に処せられたのはまさに、財産没収が裁判の目的であったことを裏付けていて悲惨このうえない。わずかな報奨金目当ての密告・偽証が相次ぎ、相互不信の渦巻く社会。裁判にかかる費用(各種拷問別の費用一覧表まであった)が全て、被告持ちであった理不尽さが酷薄さを増す。たとえ裁判に無罪になっても裁判費用が支払えず、奴隷として売り飛ばされた人もあったそうだが、儚(はかな)いもんです人の命・人生。今の時代は、少しはマシになったのかもしれませんが…。

内容の空っぽの悪魔辞典を読むよりは、人間の内面に潜む悪魔を歴史から学ぶのもいいかもしれません。歴史の本としても面白かったです。異端審問に関する資料で日本語文献なら押えておくべきものでしょう。但し、残念なのは文献名はあるのですが親切にも日本語に訳してくれているのが…困った! だって原資料を探すのに相当苦労するはず。巻末に原文の文献名が欲しかった!!
【魔女裁判の為の訊問条項】
1、被告は魔法使いになって、何年になるか。
2、如何なる理由で魔法使いとなったのか。
3、魔女になった動機について説明せよ。
4、誰が魔女の仲間に入信させ、教唆せしめたのか、その名を明らかにせよ。
5、お前が主人として崇めている悪魔の名を明らかにせよ。
6、どのような理由で悪魔に誓いを立てたのか。
7、悪魔への誓いと、その条件を明らかにせよ。
8、お前はどの指を立てて誓い、またお前の養成はどこへ連れていって悪魔の仲間に加えたのか。
9、その場所に居た悪魔と、集合していた仲間たちの名を思い出すのだ。
10、お前は参集した宴会で何を食したか。
11、夜宴のご馳走はどのように配膳されていたか。
12、夜宴の食事に手をつけたか否か。
13、夜宴ではどのような曲が演奏され、またどのような舞台を行ったのか。
14、悪魔のなかだちであるお前の妖精と、どのような方法で連絡を取るのか。
15、その妖精はお前の体に、どのような悪魔の刻印を付けたか。
16、世間一般の人間に、今までどのような弊害を与えてきたか、その方法を説明せよ。
17、何故、そのような弊害を与えたのか。
18、また魔女の引き起こした弊害を取り除くことはできるものかどうか。
19、魔除けの薬草はどこから手に入れ、如何なる方法で、毒薬を作り出したか。
20、誰の子に魔法をかけ、何故その子供を悪魔の犠牲として選んだのか。
21、如何なる動物たちに魔法をかけ、疫病を起こさせて死にいたらしめたのか、その理由を挙げよ。
22、悪事を行うに当たって、誰が共犯者となったか。
23、悪魔が何故真夜中にお前のところに連絡を取りにきたのか。
24、夜空をとぶ”箒”の柄に、お前はどのような膏薬を塗り付けたか。
25、どのような方法で空中をとぶことができたのか。またその時に、どのような呪文を唱えたのか。
26、悪魔の力を借りて、如何なる嵐を巻き起こさしたか。またその助力をした者は誰か。
27、疫病のもとになった蛾は、どのように作り出したのか・
28、その外にどのような有害になる創造物を作り出したか、またそれを何に使用したか。
29、お前の悪行について、悪魔との間に如何なる契約が取り交わされているのか。

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posted by alice-room at 23:54| 埼玉 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
魔女狩りの話は幾つか読んだことがあります。
2,3年前どういうわけだか知りませんが、魔女テーマの本がたくさん店に並んでいた時期がありました。ミュンスターという町に行くと魔女と判決を下された人を入れて吊る下げておいた鉄籠が今もぶる下がっています。
暗黒時代ですね。
ところで、ふとお天気マークがずっと雨なのに気がついたのですが、日本はもう梅雨ですか?
Posted by seedsbook at 2005年06月01日 16:47
ドイツもかなりこの手の裁判が長く続いていたそうですが、やはりいろんな資料がありそうですね。seedsbookさんのおっしゃられていた鉄籠見たいかも。好奇心だけは旺盛な私、勇気は過少なんですけど。そういえば、プラハでもこの手の拷問道具の展示を見た覚えがあります。あそこは、プラハ城の皇帝自体が、錬金術に手を染めていましたし、物騒です。

昨日、おとといと雨だったので、納税に町役場(田舎だあ~)まで行くのが大変でした。自転車なので、雨が止んだ瞬間を狙って5キロほどサイクリングをかねて。でも、まだ梅雨に入っていないようです。

今日は晴れて気温が30℃近くまで上がってるかも?昨日は最高気温で20度ぐらいだったんですが。最近、天候が不安定で温度変化も激しいです。

Posted by alice-room at 2005年06月01日 19:53
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