
カトリック教会における、聖人且つ女性である『聖女』に絞って採り上げたもの。黄金伝説や基本的な説明の後で、具体的にどのように信仰されているのか、実際の聖地での崇拝のされ方なども含めて著者なりの考察を加えている。その際には、キリスト教(カトリック内)にとどまらず、日本や中国など西欧諸国以外や異なる宗教である仏教など多面的な比較文化論的なアプローチをしている。
なかなかボリュームがあり、内容が盛りだくさん、同時に読み易い。実際に聖地であるルルドやカスシアへの巡礼した体験記もあり、この手のものを詳しくない人には十分過ぎるくらいの内容だと思う。
しかしながら、著者自身が後書きで書かれているのだが、「聖母マリアの生涯」部分はご自身の著書「聖母マリア」(講談社メチエ)からの流用であり、聖母信仰や聖人信仰の部分は、上記の本と「聖者の世界」(青土社)に多くを拠っているそうだ。
私的には、本書の中で一番使える、というか読んでいて有用であると思ったのはまさに聖母信仰や聖人信仰の部分であるので結論から言うと、本書以外の本を読むべきであった。
著者が書かれている比較文化論的な説明(死後の肉体の扱い方や桜型聖女VS薔薇型聖女等)は、正直どうでも良い。特に有意義な指摘があるわけでもなく、不要。巡礼部分も本質的な意味で価値はない。肝心の聖人信仰部分は、よくまとめてある反面、明確な典拠をつけておらず、最後にまとめての文献一覧はあるが、個別に確認できない。また私が他の本で知ったこととは異なる説明もあった。どちらが正確かは、確認できていない。
色々と不満足な点もあるものの、聖女リタの話などは、もっと簡単な説明しか知らなかったので大変勉強になった。部分部分では、他にも初めて知ることも多かった。もっともルルドの実在した少女ベルナデッタなどについての説明などはイマイチ。その後の不幸とも言えるような境遇にあったことや、秋田のマリア像の経緯なども他の本で詳しく知っていただけに本書の記述と、ちょっと異なる印象を受けたが、この辺は微妙かもしれない?
なお、本書のタイトルである「聖女の条件」はあくまでも切り口でしかなく、結論として何か有意義な内容が示唆されるようなことはない。あくまでも、切り口以上のものではないので注意!
そうそう、本書の中で私が始めて知ってことをメモ。
カナの結婚に関する奇蹟における代願(←マリアとイエスが結婚式に呼ばれたが、酒が足りなくなった時、イエスが水をワインに変えたというあの有名な奇蹟のこと)代願自体は勿論、知っていたけど、こんな根拠は初めて知りました。でも、これってイエスである神の全能の否定のように感じるんだけど・・・どうなんでしょう? 今度、他の本を読むときに意識してみようっと。
マリアが女性らしい気配りでブドウ酒の量をチェックしていなかったら、イエスがわざわざこの奇蹟をなすことはなかっただろう。これが後に、たとえイエスが見落とすことでもマリアを通して頼みさえすればイエスに取り次いでもらえる、という「代願」の根拠となった。
まあ、暇があったら目を通しておくといいかも?って感じでしょうか? 本書だけでは、肝心のマリア崇拝が分かりません。もっと他の本も読まないと足りませんね。昨今のマリア神学の動向についても教えて欲しかったなあ~。
【目次】聖女の条件―万能の聖母マリアと不可能の聖女リタ(amazonリンク)
序章 聖女の意味するもの
第1部 聖母マリア
第1章 聖母マリアの生涯
第2章 「聖処女」信仰の話―聖マリア・ゴレッティ、福女ラウラ・ビクーニャ
第3章 近現代の聖母信仰―パリ、ルルド、ファティマ、メジュゴリエ、秋田、ナジュ
第2部 聖女リタ
第4章 聖女リタの生涯
第5章 腐らぬ遺体の話
第6章 聖痕の話
第7章 桜型の聖女と薔薇型の聖女―ジャンヌ・ダルク、リジューの聖テレーズ、マザー・テレサ、シスター・エマニュエル
第3部 巡礼
第8章 ルルドで考えたこと
第9章 カスシアで考えたこと―聖女リタを訪ねて
終章 聖女の条件
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「聖母マリアの系譜」内藤 道雄 八坂書房
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動く聖母像の奇跡を録画しようと信者が集結
巡礼者がネイプルの動く聖母像を見に集まっている
「芸術新潮1999年10月号」特集「黒い聖母」詣での旅
「黒マリアの謎」田中 仁彦 岩波書店
アリスさんのところで得た知識のおかげでとっても楽しかったです。今1コルナが7円ちかくて何でも高かったのには参ったけれど。
ストラホフ修道院も写真撮ってきました。でもなにかこちらの写真と印象がちがうなあ・・・と思ったら、じゅうたんの色があざやかな青になってました。
竹下節子さんの本は前に読んでおもしろかったので、これもぜひ読んでみたいと思います。
やっぱり物価高くなってましたか。私の時は、共産主義から資本主義に変わったばかりで初めてマクドナルドが出来たと騒いでいた時とは、だいぶ変わっているんでしょうね。
>じゅうたんの色があざやかな青になってました。
絨毯が青ですか・・・相当イメージが変わりますね。へえ~、改めて見に行きたいです。
しかし、あそこの図書館は本当に圧巻ですよね!初めて見た時は、これぞ『図書館』と思いました。
そしてこの本ですが、結構読み易いと思います。で、内容も豊富でおおまかにいろんな事を学べる本だと思います。聖人伝に関するものは、基本的に何でも好きなんで私。
勿論、ツッコミを入れようとすると、いろいろあるんですが、私自身も著者の本を何冊か読んで割合好きなので期待が大き過ぎたのかもしれません。私もいささかひねてますので(苦笑)。
普通に読むならば、他の本よりも楽しく読める本だと思います。