2015年02月22日

「ルポ 雇用劣化不況」竹信 三恵子 岩波書店

今のご時勢、どこも大変というのが身に沁みて感じられる。

ご他聞にもれず、どこの職場もやはりひたすらコスト削減でグループ会社にアウトソーシングして固定費を変動費化し、同じ仕事内容ながら、会社の給与水準で当然かかる費用が変化するわけでより安い賃金で済むところへと水が高きから低きに流れるようにして仕事が流出していく。

本来、正社員がすべきところを請負に丸投げしたり、非正規社員に代えることで費用削減となり、管理職はそれを進めることによって、評価され、給与が上がる(あるいは下がらないで済む)。

確かにどこか納得がいかない感は、日本中のどこの職場でも広がっている。
そして、正社員であってももうかつてのような職場で人を育てる余裕もノウハウもなくなってしまっている。
いきなり、名ばかりOJTで即戦力を求められ、適当なやっつけ仕事で現場を回していくだけに終始してしまっている。

本書で書かれている実態には確かに首肯できるし、共感できる部分が多々ありました。
同一職種、同一職務内容に対して同一賃金というのは、確かに非常に好ましいし、実現を願うものでもあります。

その一方で、実際に何を持って同一職務内容とみなすか、綺麗事ではなくて大変難しいとも思います。
それに・・・ね。
同じ仕事内容といっても、その仕組みを一から試行錯誤して、その業務フロー等に仕上げる苦労をしたうえで形にした人と、ただ、それを引き継ぎ、まわしている人を同列に評価されたのでは現場はつぶれるでしょう。

最初の立ち上げ時の試行錯誤の生みの苦労は申し訳ないが、誰にでも出来るものではないし、通常のまとまった形になってやる人では労力も時間もその何十倍も、場合によれば何百倍もかかる仕事だと思う。

そういったところを無視してベスト・プラクティスをつまみ食いされて、効率良く仕事してますなんていう輩も増えてきたが、はてさて、それが公平な評価と言えるのか?はななだ疑問ではある?

あとね、仕事を失えば住まいを失うとかあるが、本来、職にその部分を求めるのはおかしいとも感じる。
生活の糧を得る為の仕事、そこはわかる。寮完備の期間労働等、それはそれでいいでしょうが、だからと言って、そこにプラスαがあったとして、それはあくまでもおまけでしょう。
それを前提としていること自体に何か勘違いを感じてしまいます。

正規だろうと非正規だろうと、努力して仕事上の成果を出している人には、相応に評価し、それに報い、よって職場・会社の活力を増していく、というのは正論です。私も勿論、大賛成だし、そうあるべきだと思います。

でもね、逆に言えば、そうじゃない人も非常に多い。
単純に時間を切り売りして、決まった賃金をもらえればよくて、それ以上の努力とか増して時間外にも頑張って職業的知識の習得に励む、な~んて人は正直あまりいない。

それが悪いとは言わないし、思いませんん。
でも、それが大多数である以上、人を管理する側ではその多数をメインにした人事管理、人事政策をとるのも合理的であろうということは想像に難くない。むしろ、それが普通でしょう。

その場合、今の日本の職場の現状が生まれてしまうような気がする。
うちの職場も1年前にいた正社員が何人、残っているでしょうか?
派遣社員さんの方がよほど古くから残っています。

下もかわれば、上も出向で来ては戻ったりでかわるし、かつての上司はいつのまにか業務委託先にかわっている。たった1、2年前の事でさえ、職場では誰も覚えておらず、とても事務ノウハウやスキルの蓄積が進むとは思えない。

私もいつしか疲れ果て、ほとんど研修することさえやめた。というよりも担当する職務内容が膨大になり、研修や新しい仕組みを生み出す為に割く時間が取れなくなった。

肩書きだけは管理職扱いになり、確かに管理関係の事務処理仕事が膨大に振られる一方で、現場仕事も未だに丸抱えされ、その反面、属人化のリスクをどうにかしろとか言われて、呆れ果て、幾つか希望を断念する羽目に。

かくして、うちの職場で起るべくして起る、職場の中核人材がドンドン退職(or転職)し、そこを何も知らない中途や新人で埋めるという悪循環を繰り返す。

しかし、これは認めなければならないだろう。
ビジネスモデル自体は一定の合理性を持っているのだろう。
未だに会社は成長し、継続し、利益を出し続けているのだ。
内在するリスクは、そのまま温存され、いつ顕現するかは神のみぞ知るだが・・・。

総論賛成、各論反対をいくら主張し続けても私には意味があるように思えない。
ミクロ的視野で個人としてできることは、現在の状況下で与えられた諸条件を加味し、考慮したうえでより良い環境を求めていくことだと思う。

そのまま残るリスクとそこで将来得られるであろう期待所得を、転職等に伴うリスクと期待所得を比較するしかないだろう。

当面は働きながら、種銭を貯めて、資本収益で暮らしていけるようにするというのがピケティさんの話に便乗する訳ではないが(苦笑)、まあ、正解だと思う。
バフェット本を平行して読みながら、改めて思った。

そうそう、本書でいう妥当な生活できる賃金が必要というのは分かるが、業務委託することでサービスの質が向上し、行政サービスの費用低下で財政難の中で難しい課題を達成しているところも多々あることを付け加えておく。

競争はある程度必要でしょう。
ただ、そこでロストしていく部分を認識したら、今度はそれを防ぎつつ、どうやって競争を維持していくか、そういった好循環を目指すことを考えるべきでしょう。

本書にもある、初めに雇用ありきで新しいことを実施して、一部の問題があるとそれみたことか、従来のやり方に戻せ、では今の世の中では成立しない考え方だと思われる。

しかし、現実は過酷で、努力している人が身体を壊したりしているのも身近なだけになんともやりきれない切なさが残る。
【目次】
序章 賃下げ依存症ニッポン
第1章 津波の到来
第2章 労災が見えない
第3章 しわ寄せは「お客様」に
第4章 「公」が雇用をつぶすとき
第5章 「名ばかり正社員」の反乱
第6章 労組の発見
終章 現実からの再出発
ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)(amazonリンク)
ラベル:書評 雇用 労働 新書
posted by alice-room at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類B】 | 更新情報をチェックする
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