2015年03月14日

「満州と自民党」小林 英夫 新潮社

以前から満州関係は好きだったので革新官僚として有名だった岸信介の名前があったのでとりあえず読んでみました。

基本、重要な項目で本書で目新しい事はなかった。
ただ、岸が満州で働いた期間が正味3年とあまりに短かったのは、正直予想外でした。あれだけの事を成し遂げ、満州で経験したことを戦後の高度経済成長期へ繋がるべく日本でも実施した岸が直接、その地に滞在した期間としては、やはり異例の短さと思える。

そうそう、満州重工業株式会社を始めとする新興財閥の日産コンツェルン。
あの鮎川氏と岸が親戚関係にあったというのは、初めて知りました。

戦後の傾斜生産方式がソ連の五カ年計画同様の統制経済であり、満州時代のノウハウと人脈が活用されていたのは、周知の事実ではあるが、 岸との関連で書かれていたのはあまり読んだことが無かったので新鮮だったかも?

でも、満州でその存在が圧倒的であった軍部との関係の中での言及がほとんど無くて、かなりバランスを欠く記述であることも否めない。

勿論、新書である為に紙幅の制約があり、あえて割愛しているのだろうと思われるが、全ての活動に対して軍の了承無しに成し得なかった状況下で軍との関わりを触れねば机上の空論とは言わないまでも無理があるだろう。

その制約下でいかにして、岸をはじめとする人々が思い描いていた満州国を作り出していったのか・・・。
理想が常に現実の圧力の下で、歪められて本来の姿からかけ離れたものになるか、それを知っている組織(あるいは社会と言ってもいい)で生きる自分としては、そこが大いに不満が残った。

モスクワ大学出のエリートや後に満州国ナンバー2になる綿花栽培を夢見て農大出などを抱える満鉄調査部などの一大勢力が岸をはじめとする勢力に容易に制御できたとは思えない。

どうにも上っ面的な感じがしてならなかった・・・。
NHKスペシャルの「海軍400時間」とかとは、調査の質が違いますねぇ~。比べちゃいけないのかもしれませんが・・・。

あっ、でも岸が社会主義とは言わないまでも個人の私有財産などにはほとんど目もくれず、戦後のソ連や中国の5カ年計画よろしく、統制経済を主導していった信条というか、思想的背景については知らなかったこともありました。

また岸が首相の時代に、アジア各国との戦時賠償や経済協力を一気に進め、後のODA等での経済支援とアジアの発展の中で日本がそれをリーダーとして担い、引っ張っていく的な発想は確かに戦中、戦後を通じて一貫しているなあと思いました。

大東亜共栄圏の名称は変わっても、本来目指すところは不変であり、普遍なんでしょう。
中華思想の下での朝貢外交の時代は帝国主義の焼き直しに過ぎず、破綻するかと思いますが、それまでの間、あちらも重々承知のうえでのパワーポリティクスである以上、大きな波乱と混乱が生じるのは避けられないんでしょうね。

まあ、小市民の私は早く資産を増やして、早々にリタイアして自分の書庫に籠もるか、世界を放浪して人知れず天寿を全うできれば何よりですが・・・・。

そのためにも早く今の仕事は辞めないとなあ~。
【目次】
第1章 偉大なる遺産
第2章 敗戦、引揚げ、民主化
第3章 経済安定本部と満州組の活動
第4章 「満州人脈」復権の時
第5章 五五年体制と岸内閣
第6章 見果てぬ夢の行方
満州と自民党 (新潮新書)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 20:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史B】 | 更新情報をチェックする
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