2015年03月21日

「遥かなるケンブリッジ」 藤原 正彦 新潮社

以前、著者の本を読んだことがあるが、肩肘張らず、すんなり読めて書かれている大変読後感も良かったことから、今回もそれを期待して読んでみた。

当時の文部省の制度で英国のケンブリッジへ研究員として渡った際のエッセイである。
彼女からも伺っていたイギリスらしさが、本書にも実に溢れている・・・・!

寄宿舎出身の人は、靴磨きを徹底的に習得させられているらしく、どんな靴でも僕はすぐにピカピカに磨けるよとか・・・まさに英国紳士の身だしなみは、そういうところからなのかなあ~と思いましたが、そういえば江田島の日本海軍の兵学校でも至るところに鏡が設置されていて、常に自らの身なりを整えていることがリーダーたる基礎として教え込まれていたそうですが、本書の中にもそれに類する話がたくさん出てきます。

飛び級制度の存在を、有能な人間を早く育て卒業させることに価値を見出すアメリカの大学に対し、社交界の常識を含め、全人格的教育を目指して飛び級自体を否定するイギリスの大学、もっとも・・・時代は変わりつつあるのでしょうが・・・。

根本的に違うんでしょうね。

本書では「pubish or perish」という言葉で表現されていました。
学者としての業績評価として、論文を出すか、そもなければ滅びるか・・・・いかにもアメリカ的な効率主義的発想で吐き気を催す不快感を感じますが、日本の社会が(企業が)まさにそれで良き伝統や価値を損ない続けているのを実際に日々、目にし、実感していると更に嫌悪感を覚えます。

もっとも、そういう自分がまさにその効率主義を実践し、それを先導するような仕事をしているのが自己矛盾を抱えていて、憂鬱になります。

昨日も3/23リリースの新システムの為に今週いっぱいかけてサバ管もどきのフォルダ移行のスクリプト作成や更にVBAのアドホックなツールを4、5本作成や改修して、うんざりしてきたばかり。

現場では業務委託が進み、業務を知らないプロパー社員ばかりが増えて、誰1人として業務の全体像を掴めていないまま、形式的な効率性が向上し、リスク管理として実質の伴わないエビデンスだけが用意されていく。

本当の意味でのリスク管理は、短期的な費用対効果では評価されるはずもなく、経営陣は数年で替わっていく中、誰も本当の長期戦略を生み出されるはずもなく、また、優秀であれば優秀であるだけ、短期的な視点で行動するので、長期的な企業価値向上に資する提案が採用されることもない・・・。

まあ、どこの世界も一緒です。

そういえば、本書ではイギリス的経験論と大陸的抽象論の対比も描かれていて、そういえば・・・と改めて頭では分かっていたが、本書を通じてより具体的な感覚的なものも感じられました。

そうそう、ハリポタではないが、やっぱりイギリスはカレッジなんだねぇ~と思い知らされました。
是非、食事会に招待されてハイテーブルで経験してみたいです(笑)。
まあ、私には格式が高過ぎて浮いてしまい、かえって食事やお酒を楽しめないでしょうが・・・。
根が庶民なもんで。

役に立つ学問。
それはそれで非常に素晴らしいことではあるが・・・、全く社会に貢献せず、ただただ自己満足の為だけに勉強するのって素敵ですよねぇ~。大英図書館で戦争中も含めて何十年も通いつめ、いつも同じ場所に座り、いつもひたすら勉強をし続けてそれを一切、発表することもなく、死を迎える。

そんなことができるならば、やってみたいものです。
大概の俗人は、やたらと自己アピールばかりするが(あるいは自分を他人から褒めてもらおうと求めるが)、浅ましい限りです。

でも、そういう部分が確かに自分の中にもあることを強く認識しつつも、人は人、自分は自分として、好きなことだけを一心不乱にできたら、凄いことですよねぇ~。

まあ、私は好きな本に囲まれて、本を読み、知りたいことを好奇心のおもむくままに知識していきたいです!!

研究者にならなくても装飾写本を自由に見れたら、いいよねぇ~。
まあ、今はデジタル画像で見れるだけでも幸せですけれどね。

本書は少し前の話ではあるが、今でも十分に興味深いです。
自己啓発病の病からは、少しづつ抜け出す人もようやく増えてきた日本の社会ですが、より良い仕事の為にTOEIC頑張ろうとか思っている人とは対極的な価値観の本かもしれません。

努力することは素晴らしいことで、それについては勿論、私も全面的肯定論者ではありますが、あくまでも自分の好奇心の為にやる、その見返りのない無償の情熱にこそ、憧れてやまないものを感じます。

まあ、私自身も仕事に必要な勉強は最低限に抑え、そんな暇があるなら、労働生産性とかには全くつながりそうもないゴシック建築や中世哲学、装飾写本の知識でも増やしてもっとたくさんのことを知りたいですね。
そして、たくさんの書籍を読み漁りたいです・・・・。

そうした思いを特に強くした本書でした。
あ~長期休暇取りたい!!
世界遺産見に行きたいな。

おっと、本書に描かれている英国は問題を多く抱えながらも大変魅力的なのですが、おうちとかはやっぱり効率的というか快適なのがいいなあ~。暖かくて、便利なものに強く惹かれてしまいます。
この辺がなんとも凡人である自分自身を痛感させられます。

でも、今のおうちの方が快適で良いです。
本もまだまだ置くだけの余裕あるしね(満面の笑み)。
【目次】
第1章 ケンブリッジ到着
第2章 ミルフォード通り17番地
第3章 研究開始
第4章 ケンブリッジの十月
第5章 オックスフォードとケンブリッジ
第6章 次男が学校でなぐられる
第7章 レイシズム
第8章 学校に乗り込む
第9章 家族
第10章 クイーンズ・カレッジと学生達
第11章 数学教室の紳士達
第12章 イギリスとイギリス人
遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス (新潮文庫)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類B】 | 更新情報をチェックする
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