2015年04月19日

「東京難民」上・下 福澤 徹三 光文社

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NHKスペシャルとかで時々やっているような内容を小説にしたもの・・・というと想像しやすいかもしれない。

普通に働いても普通に生活できないワーキング・プアとはベーシック・インカムとかもうその辺を突っ切ってしまって、一気に風俗嬢にないない最貧困女子やら、闇金ウシジマ君の世界だったりする。

本書もぶっちゃかいうと、行ってもあまり価値がない大学に通う普通の大学生があれよあれよという間に、社会の底辺を堕ちていく姿を実にリアルな実感を満載させながら、描いている。

親が事業を失敗し、仕送りや学費が止められ、今まで何も考えずに生きてきた学生が除籍、住んでた住居からの追い出し、ネットカフェ住民となり、ホストやったり、日雇い労働等、落ちるに(堕ちるに)任せて落ちていく姿が現代の生きる日本人にとっては、やはり他人事とは思えないだろう。

実際、私も事業失敗して貯金30万円を切ったことあるし・・・。
国金の支払いもあって、いやあ~マジやばかったりした経験もあるが、それでも親と同居だったからね。

もっとも本書の主人公は、正直言ってかなり問題有り。
性格は悪くないし、友人思いだけれど、極めつけの甘ちゃんでしかも自分にも他人にもルーズ。
根本的に覚悟の無い人物。

これは今の日本では確かに落ち易そうな要素満載だったりする。
馬鹿正直な人は見てていらつく(?)、あるいは歯痒いことはあっても決して、私も見捨てる気にはならないが、本書の主人公は、すぐにでも距離を取るべき人物だと判断するなあ~。

少なくても自分にとってトラブルしか持ち込まないような気がする。
こういうことを言うと語弊があるのを承知で言うと、人付き合いはやはり考えるべきだと思います。
世界を狭くする必要もないが、惰性で好ましくない人物と一緒にいることは明らかに自分の人生に取ってマイナスや(精神的にも、物質的にも)浪費につながると思います。

まあ、そういったことを置いとくとしても、この小説はインパクトありました。
上巻読んでる途中で相当気が滅入りました。
鬱になりそうで、間違っても人には進められないなあ~と思います。

でも・・・
確かに契約を知らないままで物事を済ましたり、面倒だからとそれらを避けたり、大変だからと手抜きをしたりすることは、誰にでもありがちだったりする。その一方で、それは必ず誰かが見てるし、いずれ発覚するし、その報いがどこかのタイミングで自分にマイナスとなって返ってくるのも真実だと思う。

本書の主人公も小さな駄目駄目な事を繰り返し、反省が将来へ反映されず、より一層、将来を駄目な方向へ絞り込んでいくその姿が切なくて泣けてくる。

その一方で絶対に自分だったら、それは無いなあ~という行動も多い。
全てを何でも全力で馬鹿正直にする気もないが、大変だからとかで絶対に投げたり、逃げたりはしないし、落ち込んで絶望しそうになっても、それでも投げやりにはしない。

なんとかどっかの一線で踏みとどまろうと出来る気がする。
まあ、そう言っても、一時はもう将来無いかと何度か思い詰めたこともあったんだけどね。

とにかく、人は道を踏み外すと落ちる時は早い!
本当にあっという間に落ちていくし、落ちたら底から抜け出せない!
というのも事実だと思う。

家族も友人も周囲が気付かないうちに、あるいはそもそもそれらの絆など今はほとんどないのかもしれないが(「無縁社会」のように)、あっという間に人生そのものの光が消えてしまう・・・。

そういう怖さを強く感じている。
また、本書を読んで本当に背筋がゾクゾクした。

改めて、大切な家族や友人、自分の社会環境というのものを大切に感じさせられた。
もっとも、人生は思い通りにはいかない。
自分も一つ悩みが解決すると、次の悩みが生まれ、それらを全て消すことなど出来ないんだろうと思っている。

仏門に入って、煩悩を消そうとまでは思わないが、人生を生きていくというのはそういった煩悩、悩みと折り合いをつけて、それらに踊らされず、と同時に、それらを十分認識し、認めたうえでバランスをとっていくことなのかなあ~と思った。

本書は決して、人に進めはしないが、自分にとって何が大切なのか、また、自分の人生で間違ってしまったこと、間違ってなかったことを改めて強烈に再認識させられました。

いろいろと思い出してしまって、胸が苦しくて朝方まで寝られないぐらいでしたよ、ほんと。
『人生は重い荷物を背負って坂道を登るようなもの』と言ったのは徳川家康だったかどうか、忘れましたが人生はしっかり踏みしめていかないと、すぐ転がり落ちてしまうのは、いつの時代も、どこの国でも変わりません。

まあ、自分はともかく大切なものは無くさないに、そして少しでも幸せにしたいと思いました。
月並みですが、今の幸せを大事にしないとですね。
その一方で、惰性で生きるのに甘んじることもできませんし、なんとかしたいという気持ちも忘れたくないです。

いろんな意味で、怖くて悲しい気持ちになった小説でした。

東京難民(上) (光文社文庫)(amazonリンク)
東京難民(下) (光文社文庫)(amazonリンク)
ラベル:小説 書評 貧困 若者
posted by alice-room at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説C】 | 更新情報をチェックする
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