当然、この手の全集ものとしては十分過ぎるくらいの解説が書かれているし、写真が大変多いのもポイントが高い。解説がどんなに優れていても実際にどういったものかイメージできなければ、ロマネスク建築やゴシック建築といったものは価値が無いのでその意味で本書は十分に読むに値する。
とにかく非常に大型の紙面であり、一部の物は更にそれを両開きで一つの写真として掲載し、大聖堂のタンパンなどの細かい彫刻が一つ一つはっきり認識できるようになっている。美術関係である以上、当たり前のことだが、この点をクリアできていない全集物が結構あるので、本書はその点、問題がない。
但し、私が気付いた問題点がある。ステンドグラスの写真も大きく入っているのだが、綺麗に写っているとは言い難い。かろうじて、そのデザインされているものを認識できる程度で、ステンデグラス本来が有する神々しいまでの、ある種究極的とまで思えるような素晴らしい美術作品になっていない。私がデジカメで撮ったものの方が綺麗だと思えるほどで実際、悲しい。
これはやはりカメラの性能故なのだろうか?それとも印刷上の技術的な問題のせいだろうか? 私には理由が分からないのだが、最近出版されているステンドグラスの印刷物の方がはるかに美しいのでそれだけは、本書に期待できない。まあ、1970年に出たものなので、時代性を割り引いて考えるべきだろう。
しかし、それ以外の点では、カラー印刷の経年劣化を踏まえても十分に分かり易い及第点の写真だと思う。この写真を見ながら、解説を読むと大変勉強になる。解説の充実ぶりからも読んでおいて良い本だと思う。
個別な解説はおいておくとして、柳氏もシャルトル大聖堂が本当に好きなんだなあ~と思った箇所があるので引用しておく。世界中の美術作品、建築物を見たうえでのこの発言なので値千金だろう。私もまさに、同感である!
中世という語は極めて曖昧なものだと先に私は言った。シャルトルについて述べる場合、この曖昧な語を使ってもよい。いや語は曖昧な茫漠たる広がりをもったほうがよい。シャルトルは時代を超えた人間の理念そのもの結晶である、とまで言いたい。人類はかつてこれ以上のものを作ったか。またこれ以上のものを作れるか。また、他にも以下の言葉を紹介している。
ともかく、シャルトル大聖堂は中世の門であり、そして中世の奥殿である。それは私たちに、中世人の夢と現実を、中世芸術の豊かさとその規模を、十二分に示してくれる。中世を暗黒視する者は、シャルトルを訪れたことのない人間に違いない。訪れてなお妄言を弄する者は、何かよほどの理由によって、その心の潤いを喪失した人間に違いない。「いかなる無神論者も、シャルトルへ来ては勝手がわるかろう」とナポレオンが言ったとか。
「シャルトルは中世思想それ自体が形をなしたものである」(エミール・マール)私自身もそれまでいくつかのゴシック大聖堂を見たことがあったのだが、シャルトル大聖堂だけは別格であり、本当に神様がいるのではないかという気持ちになった。この懐疑論者である私がだ。
いつ行けるか分からないが、少なくとも5年以内には再訪するだろう。前回は何も知らないままであったが、今回は少しだけ分かったうえで行ってみたいと強く思った。
そんな場所を、本書を見ることで見出せるかもしれない。少なくとも私には、引用した文章を見れただけで満足でした。
【目次】世界の文化史蹟〈第12巻〉ロマネスク・ゴシックの聖堂(amazonリンク)
1 ロマネスクの世界
(写真)
アーヒュン大聖堂
ヒルデスハイム大聖堂
ヴェルデン修道院聖堂
エッセン大聖堂
サン・タンブロージョ教会
サン・ゼーノ教会
サン・タンジェロ・イン・フォルミス教会
ピーサ大聖堂
オータン大聖堂
ヴェズレー修道院
フォントネー修道院
サン・サヴァン・スュール・ガルタンプ教会
モワサック旧修道院
サン・マルタン・ド・フノヤール教会
サン・フワン・デ・ドゥエーロ修道院
レスタニー旧修道院
サンティヤーゴ・デ・コンポステーラ大聖堂
(解説)・・・解説者名の記入無しは全て柳宗玄
聖堂とは何か
中世の深い根
先史よりの再出発
西洋の父カルロス大帝 辻成史
聖像の誕生
光と色彩の神学
ロマネスクの空間
瞑想の寂境
清貧の芸術
聖遺物と巡礼
天界のミクロコスモス
壁画―技法と様式 長塚安司
大彫刻の時代
彫刻の建築性
2 ゴシックの世界
(写真)
シャルトル大聖堂
アミヤン大聖堂
ル・モン・サン・ミシェル
カンタバリ大聖堂
グロスター大聖堂
バターリャ修道院
(解説)・・・解説者名の記入無しは全て柳宗玄
シャルトル大聖堂
ゴシックの空間 馬杉宗夫
自然と人間の再発見
ゴシック大聖堂と民衆
光の交響詩
彫刻の自立
関連ブログ
「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社
「大系世界の美術12 ゴシック美術」学研
「図説世界建築史(8)ゴシック建築」ルイ・グロデッキ 本の友社
「図説 大聖堂物語」佐藤 達生、木俣 元一 河出書房新社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ゴシック(上)」アンリ・フォシヨン 鹿島出版会
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「ロマネスクのステンドグラス」ルイ グロデッキ、黒江 光彦 岩波書店
「凍れる音楽-シャルトル大聖堂」建築行脚シリーズ 6 磯崎新 六耀社
「ロマネスクの美術」馬杉 宗夫 八坂書房
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
「Stained glass(ステンドグラス)」黒江 光彦 朝倉書店
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
その他、多数読んでますので記事検索してみて下さい。