2005年06月08日

「イエスの遺伝子」マイクル コーディ 徳間書店

iesu.jpg基本的なノリは、近未来(10~30年以内)SFですね。しかも典型的なアメリカSFです(作者はロンドン生まれだけ)。えっと、映画化されたインビジブルだっけ?あれと似たようなノリを感じます。話のテンポはいいよ~。

だって、遺伝子工学が進み、個々人が将来的に発生する可能性のある遺伝病がある程度の確実性を持って予測が可能になった社会。その最先端を開拓する科学者が、その技術によって自分の娘が1年以内に脳腫瘍で死ぬことを宣告されちゃうんだもん。なんとか残された期限内に、治療方法を発見・開発しようと必死になります。

時間を区切ってあるのでいやがおうにも焦らざるを得ない状況が生まれます。このあたりは、ダン・ブラウンなんかも得意な手法ですね! 読者もそれがある以上、読み進めながら、ドキドキ感を共有できます。化学療法、放射線療法、薬物投与等々、どんなことをしても効果が見込めないことが予想された時に、科学者は思いきった手法を思いつきます。

稀代の治癒能力を持つ者として、歴史上に燦然と名を残す人物、そうイエスです。イエスの遺伝子を調べることで、特殊な治癒能力を解明し、遺伝病(遺伝子情報の欠落により、生じる病気)を正常な遺伝子に直すことで病気を治そうとします。なかなかGOODなアイデアですね! さすが神を恐れぬアメリカ人(冗談ですよ~)。

その過程で、その科学者との微妙な関係を変化させつつ暗躍する、長い&長い歴史を持つ秘密結社。いやあ~、なんかどれもこれも似ているような(笑顔)。

最後の部分は、まあ悪くない結末だけど、あっけなさ過ぎるかな~。失敗した、と思うほど悪くはないので遺伝子工学や細胞生物学的なこと好きな人は読んでみてもいいかも。積極的にお薦めするほどではないなあ。

あっ、でもここで扱われている遺伝子工学の話はかなりの部分まで事実で、現在でも実際に達成されている話です。人ゲノムの解析競争は一通り終わったんじゃなかった?アマゾンや未開の土地に入り、新種の細菌や遺伝子を集めまくり、有用な遺伝子情報を特許として申請するビジネスはだいぶ前から、進んでますもんね。日本でも宝酒造やサントリーとか、醸造技術のある企業はだいぶその辺、力を入れてるらしいし、まさに金のなる木なんでしょうね。日経新聞にもジーン・ハンターの記事出てましたね。NHKスペシャルや雑誌のネイチャーとかでも何度か記事で読みました。

そうそう、保険会社が予め遺伝子検査をして、将来高い確率で遺伝病を発生する可能性のある人の保険料を引き上げたり、保険加入を拒否したりして問題になったのもだいぶ昔の話。日本ももうすぐかもしれませんね。国民総番号制の下準備は住基ネットでほとんど済んだでしょう。

これに年金番号、納税者番号を統合して、個々人の学歴、職歴、犯罪歴を加え、カード会社と組んで支払い履歴や購入履歴を加えれば、最高のデータベースが出来上がり。あとは、ここで私が以前勤めていた通販会社のようなデータベースマーケティングを利用できるように、統計的に処理しちゃえば、いろんなことができますね。犯罪者予備軍の事前監視(新派刑法やなあ~)や素直で扱い易い官僚の採用試験への導入、ベンチャー育成の助成金の出資可否の資料とか、もう無限にできそう。しかも役立ったりして・・・。

どんな大手の企業であろうと、たとえ官公庁だろうと管理するのが人間である以上、ずぼらな人がやれば、同じこと。情報なんてすぐにブラックマーケットに流れますね。私自身も仕事柄、何度もそういう情報を売買を業者から持ちかけられたもの。勿論、取引しなかったけど。

アメリカでは個人のクレジットカードの番号情報さえも履歴とともに、売り買いされてるもんなあ~。各社の購買履歴データを共有するビジネスもたくさんあったし。つくづく、個人の情報は丸裸だと感じずにはいられない昨今です。

まあ、話はそれたけど、なかば実現しているSF話でした。そうそう、この小説で強引にやってる部分もありました。遺伝子情報から、本人の姿形をホログラフィーで描くとこ。こんなのありえません。だって、環境や本人の意思等で後天的に決まる要素まで遺伝子から分かるわけないじゃん。そのあたりに、いい加減さが出てましたが、あとは結構、いい線いってます。あなたもイエスになれるかも?(笑)

イエスの遺伝子(amazonリンク)
posted by alice-room at 20:04| 埼玉 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たびたびお邪魔します。急に思い出したので報告です。
この手の本の紹介です。。。といってもドイツですが。題名集めるってのもいいんじゃないかっておもいまして。。。
”Das Jesus Video"いまはコンピューターソフトのエンジニアーで工科大学出身のAndreas Eschbachという作家のもの。ちょっとなア、というものでB級にも足りないかもしれないですが。
http://www.amazon.de/exec/obidos/ASIN/3404142942/302-2961956-4868050
何しろ時間移動が起こりますからね。ソニーのカムコーダーが発掘されちゃって。。。なんて事です想像つきますよね。私本を読んだわけじゃありません、これが又TV映画にもなったんですね。それを見てしまいました。
Posted by seedsbook at 2005年06月09日 01:00
seedsbookさん、実は私、それの本読んで映画も見ましたよ~。日本語名では「イエスのビデオ」ってなっています。映画だと「サイン・オブ・ゴッド」だったかな?

さすがは天下のソニーって思いましたもん。ハンディカムでしたっけ? 未発売の。うちのブログでも感想書いてますので宜しかったら見てもらえると嬉しいです。
http://library666.seesaa.net/article/2371514.html
http://library666.seesaa.net/article/3037555.html

でも、本の方がきっと面白いですよ~。と言ってもわざわざ読むほどかどうかは、微妙ですが・・・。

ほんといつも&いつもコメント有り難うございます。題名つながりで本や映画集めるのも楽しそうですね。
Posted by alice-room at 2005年06月09日 02:54
すみません、映画は徹底的に否定的な感想ばかりでした。今、読み返してみたんですが・・・。

seedsbookさん、お気を悪くなさらないように。ブログの記事を紹介したつもりで、なんか失礼になってしまったら、申し訳ありませんでした。
Posted by alice-room at 2005年06月09日 02:58
いやいやお気になさらずに!私も実はすご~く呆れてたんですけど、それでもAlice-roomさんの主な”関連物”だから。。と思ってその辺網羅しなければいけないのではないかと勝手に推測したしだいの一応報告だったのです。上で”見てしまいました”と私も書いていることからもわかるかもしれませんが、あいてしまいました、口が。
でも日本でも紹介されちゃったんですね。あれれ。あんなのでも行っちゃうのですか。。役者下手だし。。。あれだったらケルンの協会者のほうがましなんだけどなあ。
Posted by seedsbook at 2005年06月09日 04:43
トラバ、有り難うございました。
『イエスの遺伝子』も『ダ・ヴィンチ・コード』もキリスト教を題材にしたミステリーなので、似てる印象は確かにありますね。前作の『天使と悪魔』なんてもう、まんまヴァチカンが舞台ですし(笑)
両作品とも映画化決定しているそうですが、映画の方が果たしてどんな描かれ方をするのか、今から楽しみです。
Posted by at 2005年06月09日 21:49
>seedsbookさん、本当にいろいろとお心遣い有り難うございます。情報を集めるといいながら、最近、ブックレビューのサイトになっていたので助かります、ホント。映画は確かに、もうちょっとなんとかなる役者さん達にやって欲しかったかも?

> 月さん、イエスの遺伝子でもバチカン絡めても良かったかも?(ニヤニヤ)。ホント、映画の製作情報でもまた知りたいです。楽しみですよね♪
Posted by alice-room at 2005年06月09日 22:14
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