
単刀直入に言うと、ダ・ヴィンチ・コードという柳の下の10匹目、否、20匹目のドジョウくらいの出来だと私は思いました。
まずはネタバレしない範囲内で。
著者自身が実際に幻視を経験して、その体験を生かして・・・という記述があるが、翻訳者の後書きも含めてまあ、論外でしょう。それはとりあえず、つっこないでおくとして。
う~ん、サブタイトルに「マグダラのマリアによる福音書」ときっちり書いてあるのだが・・・。
本書内で訳者も書かれているように、巷間される「あのマグダラのマリアの福音書」とは全く関係のない別物です。著者が勝手に作り出した(著者はあると信じてる?)架空と思しき福音書を中心にして話が進みます。
ダ・ヴィンチ・コードもキリスト教の解釈としては、あまりにも無理があるし、著者ははっきりフィクションであることを意識したうえで、それなりにもしかしたら、あるかも?って思わせるところが何よりも面白かったんだけど・・・。
本書に限って言えば、最初から最後まであまりにも「嘘でぇ~す」状態なので、パラレルワールドの話? ああっ、これっとSFだっけ?と思ってしまいそうになる。要は、著者の説明があまりにも強引過ぎて、フィクションとしてもノリノリで楽しめない。
しかも文中を読んでると、ダ・ヴィンチ・コードが既読であることを明らかに前提としている感じだし、無理に根拠も伝承もない著者個人が作り出した解説を続けていかれるのが辛い。著者が一つ解説するたびにどんなトンデモ解釈してもそれだけは無理というのが、連チャンするのだけは勘弁して下さい。
更に、ダ・ヴィンチ・コードを読んでから、私自身がだいぶ勉強したので、ダ・ヴィンチ・コードを読んでる時点よりも確実にシビアに評価しているのは、事実だと思う。
でもね、楽しませてナンボでしょう。小説なんだから。私はキリスト教徒でもないので、宗教的な解釈は資料や根拠がない仮説でも、それなりに論理的で可能であったら、十分に楽しめるつもりですが、著者の歪められた解釈には不自然さ以外の何物も感じない。
ダ・ヴィンチ・コードと再三比較することを許して欲しいが、本書があの本を読んで面白いと思った読者の一部をターゲットとして、明らかに狙って書かれている作品である以上、しかたがない。騙しはうまければ、作家としての才能だと思うが、騙せない詐欺師による本書は、読んでいてストレスが溜まる。
つ~か、いろいろな意味でひどいなあ~と思うのが私の心の声。宗教的にどうとかではなくて、自分の好きな絵画作品が曲解されて、貶められている感じがして、つい拒否反応を覚えてしまう。具体的な作品名を挙げるのは、未読の読者に対してアンフェアなので書かないが、何故、美術への侮辱だと感じるのかは、ご推察下さい。読めばすぐ分かります。私の好きな絵を、ことごとく台無しにしてくれるんだから、本書は。
ただ、本書は曲がりなりにも(どんなに納得いかない解釈だとしても)とりあえずは、きちんと結論まで達しています。これは、やっぱりすごいと思います。全然予備知識なしに、そもそもキリスト教のこともよく知らないままに読んだら、どう感じるのかな?
あまりにも多くのことを前提にして書いているうえに、ダ・ヴィンチ・コードのように非キリスト教徒でも分かるように適切な説明をするという部分を欠いたままで、絶対に有り得ない解釈だけを思い付きと感性だけで説明していくので、私の理性は負荷に耐えられなかったけどね。
どうなんだろう? そりゃ、学者が進める論理と違う論理で、私は書くのよ~と著者が言ってますけど。「ダ・ヴィンチ・コード」と「レンヌ・ル・シャトーの謎」、その他、ダ・ヴィンチ・コード絡みで出てくる本が元ネタなのは、本書もダ・ヴィンチ・コードも一緒だけど、それらを読んでないと辛い気がする。その反面、逆に知っていると、引用の仕方自体にクレームつけたくなるし、ああ~、私には合わない本ですコレ。
それといささか過剰なフェミニズム観も、不愉快。カトリックを批判する道具として、女性蔑視を批判するのは分かるけど、それも行き過ぎれば、かえって不快。
でも一番不快なのは、いささか媚を売っているような上向き加減の著者の写真が・・・イヤ。私の偏見であることを否定はしないが、あの写真はちょっとなあ~。それで幻視が見えて、マグダラのマリアの子孫だとか言われては・・・ね。
そういった諸々の点を加味せずとも読み物としても盛り上がりに欠け、
面白いとは言い難いです。知的な好奇心をそそる要素もないです。表紙までパクって実質「ボッティチェリ・コード」だもんね。さすがにタイトルをそうしないでくれた良かったけど。
余談ですが、本書の中に出てくるキーワードの幾つかをgoogle(日本語版)で検索するとうちのブログが1頁目でだいたい出てきます。何のキーワードで検索されてるのか、調べていて気付きましたが、おそらく本書絡みで検索されて来られる方が、結構いるようです。
待ち望まれし者(上)(amazonリンク)
待ち望まれし者(下)(amazonリンク)
関連ブログ(本書内で挙げられていた参照本)
「マグダラのマリア」 岡田温司 中公新書
「イエスが愛した聖女 マグダラのマリア」マービン・マイヤー 日経ナショナル ジオグラフィック社
「レンヌ=ル=シャトーの謎」 柏書房 感想1
「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想1
「マグダラとヨハネのミステリー」三交社 感想1
「異端カタリ派」フェルナン・ニール 白水社
「原典 ユダの福音書」日経ナショナルジオグラフィック社
「イエスの王朝」ジェイムズ・D・テイバー ソフトバンククリエイティブ
う~ん、翻訳者さんが挙げた資料全部うちのブログにあるなあ~。もしかして、うちのブログ見てたりして(笑)。
上記以外の資料としては
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳
「マグダラのマリア―マリア・ワルトルタの著作による」あかし書房
「マグダラの古文書」バーバラ・ウッド サンリオ
マグダラのマリアの福音書(訳)
マグダラのマリア~「中世の巡礼者たち」より抜粋
美の巨人たち ラ・トゥール『常夜灯のあるマグダラのマリア』
ニューズウィーク「マグダラのマリアの謎 ダ・ヴィンチ・コードを超えて」
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
イエスを偽預言者、嘘つきとみなす「マンダ教徒」
「イエスのミステリー」バーバラ・シィーリング著 感想1
アリスさん上下巻とも読んだんですか?
ある意味すごいです。
図書館で新刊書のコーナーにあったので借りてみたんですけど、わたしは途中で放り出してしまいました。
ですよねぇ~、もしかしたら、面白い部分が少しでも出てくるかと微かな望みをかけて、全部読んでしまいました。がっくり・・・。
途中で止めて正解だと思います。私は貴重な時間を無駄にしちゃいましたけど。
でも、私だけじゃなかったんですね。こう思ったのは。安心しました。
やはり、皆さん同様に私もこの本はどうにもいただけない作品だと思わずにはいられません。
いい加減なんとかしてよ~と言わずにはいられませんね。困ったものです。
コメント有り難うございました。