2015年07月27日

『バラの名前』とボルヘス―エコ ニルダ グリエルミ 而立書房

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いきなりでなんですが、訳者あとがきで本書では引用が多く、たくさんの引用文献があったそうですが、南欧の本には多いそうですが、結構引用の仕方が適当らしいっす!

訳者はそれは想定済みだったそうですが、想像以上に酷かったらしい。「引用が杜撰」とまで書いてます。
引用する箇所だけではなく、引用する文献名自体も多々間違っていたそうで、『テキスト・クリティーク』まで必要だったと嘆いて(?)書かれてました(笑)。

ブエノスアイレスだもんね!
ブラジルもそうですが、あちらの人は本当に細かいこと(というか面倒なこと)気にしないで適当にやるもんね。まあ、ふとブラジル行った時の事を思い出して、訳者に同情すると共に勝手に納得しちゃいました!

さて、そんな杜撰な引用のもとで精緻なエーコの「薔薇の名前」の分析・解釈をしていくのですが・・・類書同様に、解説の為の解説本。共通の知識を有する仲間内の同人誌(大学の紀要とか?学会の分科会の会誌?)レベルのよく分からないけれど、知っている人には面白いかもしれないような・・・・でも、たぶん、知っていてもつまらなさそうなまさに、独りよがり的な解釈をつらつらと書き連ねています。

著者、そこまで考えて書いているのかなあ~。
えてして、この手のは周囲の方が勝手に深読みして、勝手に難解な解釈し、勝手に有り難がっていることも多々あるのですが・・・・正直、そんな感じの文章、内容です。

とりあえず、読み飛ばしで斜め読みをしたわけですが、「4節 光は美なり」のところで小説内の大修道院長アッポ-ネがあのサン・ドニのシュジュの忠実な反映という指摘には、本当かよ~と思いつつ、しっかり読んでしまいました。
・・・・・・
エコの小説ではこの大修道院長はまさにシュジュがいうような言葉で語っている―
「ここの神の家にある一切の美しい品々に見とれていると、多彩な宝石の魅力で外界の心配事が消え失せ、相応の瞑想で省察へと導かれ、物質的なものを非物質的なもの[・・・]へと変えてしまうのです。」
アッボーネ-シュジュの言葉のうちに反響しているのは、宝石のうちに閉じ込められた光の意味、感性=認識なる長い伝統、というった広く表明されてきた概念である。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
アッボーネは
「可視のものであれ、不可視のものであれ、被造物はすべて、もろもろの光の父から誕生した一つの光なのです。」と語っていたのである。
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大修道院長シュジェがその著書の中で述べているように「芸術は物質を超越する」のだ。「神の家の光輝に私が抱いている愛により、宝石の多彩な美が外界への取り越し苦労をときおり私に忘れさせてくれたり、私を物質的なものから霊的なものへといざなって、公正な瞑想が私をして多種多様な聖徳について省察するように招いたりする[・・・]とき、そういうときには、私は神のおかげで、法悦のせいで、この下級な住居から上級の住居へと移動することができるように思われる。」こうした多種多様性はまた、彼をして「物質的なものから非物質的なものへと通過するように・・・・」駆り立てていたのである。
うわあ~懐かしい光の形而上学ですね♪

そこまで読み取れるのか、実際の作品から、あるいは読み取れたとしても読み取るべきなのかはほとんど読者の恣意的な感覚なのでしょうが、それはそれとして指摘は興味深いです。

他にも作品の至るところについて、ボルヘス絡みだけではなく、ありとあらゆる観点からいろいろな解釈や指摘があるのですが、「薔薇の名前」のマニアックなファンにはこういう本もいいんでしょうね。

前述しましたが、ファン向け同人誌的なノリですのでそれを承知で読むならば・・・ですけどね。
個人的には他の「バラの名前」解説シリーズの方が面白かったです。
【目次】
1章 本書の意図
2章 ストーリー
1節 歴史
3章 序説
4章 構造、素材、典拠
1節 探偵ジャンル
5章 作中人物と範域
1節 囲まれた庭―金と権力―大修道院と都市
2節 バスカヴィルのシャーロック―バスカヴィルのウィリアム
1項 バスカヴィルのウィリアム―オッカムのウィリアム
2項 バスカヴィルのウィリアム―パドヴァのマルシリウス
3項 バスカヴィルのウィリアム―ロジャー・ベーコン
3節 ミノタウルス
4節 光は美なり
5節 モデル読者?
6節 バベルの塔的言語
7節 「祈れ、そして働け」
8節 名もなき女
1項 村
2項 悪魔払い
3項 単純な者たち
4項 「甘き毒・・・」
5項 ヒーメロス(思慕の情)
6章 鍵
1節 「ヨハネ黙示録」的状況
 1項 逆立ちの世界
2節 迷宮
3節 鏡
4節 笑い
1項 「キュプリアヌスの晩餐」
2項 「キュプリアヌスの晩餐」と桃源郷
5節 欲望
6節 危機
7節 数
8節 バラ
7章 フィナーレ
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「サン・ドニ修道院長シュジェール」シュジェール 中央公論美術出版
シュジェール ゴシック建築の誕生 森洋~「SD4」1965年4月より抜粋
ラベル:書評 薔薇の名前
posted by alice-room at 08:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
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