2007年05月20日

「色で読む中世ヨーロッパ」徳井淑子 講談社

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冒頭にアニメの「シュレック」を例にとって、中世以来の色のイメージの伝統を説明しているが、まず、これは本として大失敗だと思う。中世に関心を持つ人がこのアニメを最初に出された率直な感想は、「この本使えない」だろう。私はそう思ったし、残念ながら、この思いは最初から最後まで尾をひくことになった。読者層を的確に捉えられていないようだ、この著者は。

中世世界における服飾に顕著な色彩の有する意味を、当時の資料から読み解くことで、中世の多面的な理解を進めたい、という著者の意図は明確だし、その試み自体も興味深いと思ってつい買ってしまったのだが、もったいない買い物だった。確かに、今まで意識していなかった観点であり、写本やステンドグラスを見る際に参考にしたい視点ではあるので完全に無駄とは思わないものの、あえて手元に置いておくだけの価値はない。

何故なら、本書は15世紀にシルルという人物に書かれた「色彩の紋章」
という本に基礎を置き、それをおおいに引用しながら、色彩の意味が生成される経緯に焦点を当てようとしているのだが、引用以外の部分があまり役立っていないように感じてならない。

その本の引用部分は十分に価値があるのですが、それ以外の著者が選んだあちらこちらから引用してる資料と、それを見ながらの考察部分は、何を言いたいのか理解しにくく、冗長で散漫な文章で嫌い。

大変失礼かもしれないが、余計な著者の説明はなしにして、「色彩の紋章」という本を素直に翻訳してくれた方がはるかに価値の高い本になっただろう。資料的に価値がありそうなので、大変残念である。仮に著者が解説するにしても、あくまでも翻訳内容の注やコメントとして、翻訳文とは別に付ければ十分なのにね。あ~、いろんな意味でもったいない本です。

なお、どうでもいい文章が入っているので一見すると読み易いのだけれど、それは大切な部分が削られている代わりに入っているのであって、本質的な意味で、価値を落としている感じがしてならない。

わざわざ中世の色彩に関心を持つのは、どんな読者なのか、もう一度考え直して欲しいです。せっかくの素晴らしい視点が十分に生かされていないように感じる。

単純に読み物としても、面白いとは思えなかったことも付け加えておきます。読んでて面白ければ、それはそれだけで価値がありますからね。
【目次】
序章 色彩文明の中世
第1章 中世の色彩体系
第2章 権威と護符の赤
第3章 王から庶民までの青
第4章 自然感情と緑
第5章 忌み嫌われた黄
第6章 子どもと芸人のミ・パルティと縞
第7章 紋章とミ・パルティの政治性
第8章 色の価値の転換
終章 中世人の心性
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posted by alice-room at 20:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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