
あの「グノーシスの薔薇」の著者による作品。前回とは全く異なるものの、実に不可思議な魅力ある作品です。私にとっては。
読み始めた最初は、サドの近代的個人主義に基づく『自由』とかの主張に重なるのかと思いましたが、どうやら別種の『自由』概念に基づく作品のようです。
「夢」の中の「夢」という平行世界の認識から、一見、ラディカルな世界観、空間を築き挙げているのですが、その認識さえも確定的なものとは捉えず、絶え間ない揺らぎの中で、物語が進んでいきます。ドグラマグラ的な世界観と言い換えても良いのかもしれません。
表面的にはお上品どころか、下劣で猥褻的な表現が頻出するのですが、どちらかというとそれは、普段隠された真実をさらけ出して、冷静に分析の対象としようとする側面がある感じです。実際、読んでいても猥褻な感じは全くしません。
また、心理学者が出てくるのでより一層分析の為の視点が強調され、その傾向が顕著です。もっとも、心理学的な説明ですが、これは別に心理学を詳しく知らなくても内容理解に問題ないと思います。用語そのものは知らなくても、どういった事を指しているのかは、ちょっと常識があって人間関係について臆病な観察眼があれば、自明な範囲です。
シンプルに理解しようとすれば、それなりにできなくはないですが、著者がそんなことを期待しているとも思えません。読む人によって、いかようにも多様な理解の仕方ができる作品だと思います。
決して万人向きの本ではありませんし、むしろ一般受けしない作品だと思います。私も知人にだったら、絶対に薦めない本です。ですが、頭の柔軟な人には、大変刺激的で示唆に富む本かもしれません。個人的には、こういうの結構スキ!
少なくとも、こういう本があるっていうのは知って欲しい本ですね。そうそう、哲学好きな人とか筒井康隆系の本が好きな人には面白いかもしれません。
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