
本としてのルックスは、実にイイ。ちょっと小ぶりな版型に表紙や、章ごとの扉もちょっとセンスが良くて、人でいうならイケメンとでも言いたくなるような外見で惑わされてしまいそう。実際、中身以外ではかなり好きな本。でも、内容を読むと、だいぶむかつき焚書の刑に処してやろうかと思うほど、イライラさせられた本だった。
もっともこの著者の描く本のうち、国内を扱ったもの以外を読むのは時間の無駄か?という疑念が最近よぎるようになりつつあり、購入しようか否かを悩んでいた際にも一抹の不安があったのですが・・・悪い意味で予感は当たってしまいました(涙)。
全部が全部つまらないわけではないです。説教をよくしていたので有名な聖人の聖遺物、舌が未だに腐りもせず、残っているというのも面白かったし、中世期に異端とされたヴァルドー派の由来なんかも、ほお~そうなんだと知らないこともありましたので、全く無意味であったとは言いません。でもね、著者があまりにも不勉強過ぎ。文章中に出てくる文献は日本語のものがほとんどあったので私のような浅学の者でさえ、知っているようなものばかり。その程度の知識でこの手のもの書くんじゃないといいたくなるようなレベル。イタリアに語学留学してたこともあるそうだから、当然あえて名前は出さなくともそれなりにいろんな本(イタリア語)で下調べをされているはずだが、その割に文章からにじみでるはずの背景的知識(教養)水準が期待外れなほど低い。特に世界史的素養は、論外。中学生並の知識であれこれ書かれても・・・。さすがにもう書くな!と何度も思った。(読んでる私が馬鹿なのですが)
別に作家さんだから、物を知っていなくても文章力でカバーされてもいいのですが、逆にそれが決定的にこの本を読むに値しない本にしてしまっている。イタリアの聖人のお祭り等も実際に見学し、見聞されたことを書いたうえで著者の感想・思索を述べてあるのだが、これが怒り心頭に来るほどヒドイ。あまりにも狭量な心持ちで、現代の日本人的価値観から、当時のお祭りや事柄を評価し、ご自分の不見識に基づく勝手な評価をされるのはいかがなものでしょうか? 価値相対主義がもてはやされる時代ではありますが、口先だけでこの方のようになんにも理解されていない人がいるのでは?と、不肖私でさえ心配になるほどの識見の低さです。
歴史を眺める時に、時系列上、非常に特異且つ流動的な一時点の価値判断をもとに他の時代、他の国の文化を評価するとはなんたるキチガイ沙汰。一箇所ではなく、なんどもそういった著者の考えが述べられ、確信犯的な犯罪者ですね。正直言って、かなりの不快感に苛まれた。でも、ルックスはいいんだよね、この本。罪な存在です。内容も著者の意見や感想さえなければ、話題もそれなりに豊富で中世の聖人の伝承や聖遺物を取り扱い、楽しく読めるのに・・・。
この本で一番の収穫は、先日読んだ「中世の奇蹟と幻想」がいかに素晴らしい、良い本であったかを実感できました。坂東氏のこの本の中でも紹介されているが、これとは全然違う。本当に素晴らしい本でした。絶対にそちらを読みましょう。逆にこの本はショックだったなあ~。著者にも失望した。この人の描かれたカタリ派を扱った小説
「旅涯ての地」も駄目だったし。もう、二度と読むまいと思った。お金と時間の無駄は悲し過ぎる。人生の浪費でしかない。
ここのところ、聖人や聖遺物にはまって資料を探しては読み漁っているのだが、使えない資料ばかり選んでしまてっているなあ~、悲しい。頑張ってもっと有益な資料や文献読みたいなあ~。もうちょっと頑張ろうっと! あと「守護聖者」とかもあるし、いい本だといいのだけどれど・・・切に願うこの頃だったりする。
なんか、本を批判するのって自分で書きながら嫌なもんだし、どうせならこれって最高に面白いって書きたいなあ~。なんか自己嫌悪に陥りそう(鬱々)。
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関連ブログ
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「旅涯ての地」坂東真砂子 角川書店