
基本的なパウロ コエーリョ路線、人間なら誰にでも当てはまる普遍的な事柄を扱い、それを精神的観点から、世界を、人生を、見つめ直し、再認識していく、この流れは本作品においても継承されています。
『日常』という変化のない、否、実際はそれを生きる人が変化を嫌う時間の流れの中で、あえて自らが変わることで、日常を全く違った見方で捉えることができる、という主張は本作品でも普遍です。
ですが、著者のこれまでの作品を読んだ者としては、以前の作品の方がよりシンプルでいて、より衝撃的であり、より印象的でいてより感動的であったと思えてしまいます。本書も悪くはないのですが、従来の作品よりも長文になっただけ、冗長さが増してしまい、本質的な要素が希薄になった感じがしてなりません。
タイトルの「ザーヒル」とはイスラム的な伝統に由来するもので、「目に見える、そこにある、気付かずにすますことができない」という意味だそうだ。このザーヒルにとりつかれてしまうと人は一切の他の事に意識を向けられなくなるらしい。
ストーリーは著名な作家が、従軍記者で通訳と共に失踪した妻を捜すところから始まる。妻と共に姿を消したはずの通訳がやがて現れ、作家は妻と会いたいと思い、通訳について行動するようになる。
その過程で、全てにおいて(世間的には)何不自由のない生活を送りながらも、夫婦の間で時間と共に微妙なスレ違いが増加していった事、妻が生の充実感を求めた理由などが、自らの変容を通して理解できるようになっていく。
ただ単に自分が変わることで世界が変わる、コエーリョらしい人生哲学だが不思議と違和感なく、共感してしまいます。この辺りは、やっぱりうまいです。日常に押しつぶされて自らを失っている現代人には、普遍的に訴えるものがあるでしょう。間違いなく!
他の作品を読んだことなければねぇ~。ずいぶんと印象も変わるのかもしれませんが、どうせ読むなら、著者の別な作品を押しますね。私なら。
ちょっと感動するパワーが弱い作品です。勿論、人それぞれで訳者は、他の作品よりもこちらを買っているようですが、私には疑問ですね。
以上。
ザーヒル(amazonリンク)
関連ブログ
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「ベロニカは死ぬことにした」パウロ コエーリョ 角川書店
「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店
「悪魔とプリン嬢」パウロ コエーリョ 角川書店
「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」パウロ・コエーリョ 角川書店