2007年05月27日

「埼玉の伝説」早船ちよ、諸田森二 角川書店

前半の伝説散歩の部分は、非常に有用です。おおまかな交通アクセスは、だいたいの目安になりますし、それ以上に完結にまとめられた個々の寺社仏閣にまつわる伝説・伝承の類は、大変面白い。

如何せん、伝承の量が圧倒的に多いために、メモ書きレベルではあるものの、どんな由来や由緒があるのか分かれば、後は興味を持ったものを実際に自ら訪れたり、地元の図書館とかに行って調べれば、更に先に進むことができる。本書だけでは完結しないが、実際に散策する為のきっかけになるし、大変参考になると思います。

実際に、面白い伝承のある寺や神社あちこち見て廻ってみたいと考える私としては、この手の本が一番役に立ちます。不老長寿の八百比丘尼伝説や、龍退治、河童の話などなど、思っていた以上に地元の埼玉の地には伝承があるんだなあ~と再認識させられた本です。

私が埼玉散策シリーズとして、このブログ内で採り上げている岩殿観音や鬼鎮神社、寄居の12干支巡り、秩父神社等々に関する伝承もバッチリ載っています。ただね、自分が実際に行った場所や、自分で郷土資料を調べたことのあるものについて言うと、だいぶ省略されていることが分かります。紙面の関係で仕方ないですが、そういう意味では本書はあくまでもきっかけや契機になる本です。詳しくきちんと知りたいと思うと全然足りませんので、一層詳しく調べる目安とするべき本です。

そういう意味では、実によくまとまっており、カバーする範囲が広いので初心者用に使える本だと思いました。

その反面、後半以降の幾つか選んで伝説の全文を載せている部分は、逆にイマイチ。選ばれている話自体がそれほど面白くないのと、どこのどの神社・仏閣に関するものなのかが明示されていないので、端的に言うと使えない話ばかり。

遠野物語とかと比べると、意味がほとんどない伝説採集となっている。こんな中途半端な編集方針を採らず、最初から最後までを前半と同じ内容で伝説の量を集めた方が、本全体としての価値が上がったと思う。残念だ。

ただ、これだけポイントを押さえてまとまっている本は少ないと思うので、伝承・伝説好きなら、手元においといて良い本でしょう。本書を読みながら、私はまた、幾つかの場所を散策したいと考えています。
【目次】
埼玉伝説散歩/諸田森二

首都隣接の街
キューポラのある街
別所沼と見沼田圃
かえるまた苦心談
大いなる宮居
葛飾早稲の里

日光街道・中山道周辺
人形づくりの町
女郎買い地蔵さん
鴻巣のいわれ
漂流して来た獅子頭

入間・比企丘陵
鎌倉武士の古戦場
狭山茶処
高麗の里から奥武蔵へ
雑木林の平林寺
小江戸の賑い・川越
比企丘陵の寺々

北武蔵
忍城下の不思議
関東武者の故郷
深谷宿みかえりの松
坂東太郎の上流

秩父路
姿の池と武甲山
三峰神社周辺
両神山から小鹿野へ
岩畳の長瀞

埼玉伝説十三選/早船ちよ

民話採集手帳

付・埼玉伝説地図
埼玉の伝説 (1977年)(amazonリンク)

関連ブログ
埼玉散策シリーズ~輪禅寺・普光寺コース1 (小川町)
埼玉散策シリーズ~弁天沼、岩殿観音1(4月29日)
埼玉散策シリーズ~秩父、宝登山神社
埼玉散策シリーズ~箭弓稲荷神社(10月3日)
武州寄居十二支守り本尊参り(埼玉)
節分にちなんで鬼鎮神社のメモ 
本書の中では「オニシズメ」神社と言っているが、実際はそんな言い方はしない。地元では「キジンサマ」という。こういった著者の調査不足が、他にも幾つか見られるがそれでも一定以上の価値はあると思う。
旅行・散策A 左側のカテゴリより
旅行・散策B 左側のカテゴリより
ラベル:伝説 埼玉 書評
posted by alice-room at 18:18| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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