
昨年から読み始めて年末年始を全部使って読了しました。
1200頁超でボリュームがあり、邦訳のあまりの分厚さに正直読み始めるのにためらいがありましたが、ネットのニュース記事でアメリカのリベラル派の思想的背景として著者のアイン・ランドの名が挙げられるのを知り、またあのグリーン・スパンが若い頃、そのサロン的なものに出席していたとか、大統領選挙で名の知れたティ・パーティとかでも絡んでくるとかね。
否が応にも関心が沸いてきたところで決定打だったのは・・・・NHKのBS世界のドキュメンタリー「パーク・アベニュー 格差社会アメリカ」を以前に見ていて、そこでもアイン・ランドの名前が出てきたこと。
最初、記事を読んでいてどっかで聞いた名前だなあ~と思っていたんだけれどまさか、金融資本家連中が各種ロビー活動をしている裏でアイン・ランド思想を広める裏工作とかやってるなんてね。
『事実は小説より奇なり』といういささか陳腐になった言葉があるが、まさに悪い冗談みたいなことが実際の政治で、現実社会で行われていることを知ると驚きを禁じ得ない。
ピケティ本の資本収益率と経済成長率の話も興味深いが、資本家自身が主体的に自らにより有利な経済状況を作り出すべく、そもそもの経済環境作りに影響を及ぼしている、っていうのはまさに合理的に行動する経済人のモデルそのものの行動で想定内の範囲といえば、その通りなんでしょうけれど・・・・。
所与の条件が時間の経過と共に変化していく中での均衡点ってどうなんでしょう。どこかに収束するというよりは発散していく過程で何か特異的なイベントが起こって、また所与の条件が劇的に揺り戻しにでもなるのでしょうか???
ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」とは全く異なるメンタリティー・行動原理を本書は説く訳であり、それでいて確かに本書で述べられる小さな政府以上の自由主義経済の思想は人々に訴えかけるものがあると思う。
本書の中で数々の愚昧な平等主義者達の妨害にもめげず、高らかにうたわれる人間の尊厳に係るものとして、利己的行動こそが社会を進歩・発展させていくという経済人の行動というのが実に胸熱だったりする。
本書を読んでいて、大衆の味方をうたいながらその実、経済を、社会を、人心を蝕み、世界を原始人の共同社会レベルにまで貶めてしまうとする政府の姿が私にはどうにもついこないだまで政権与党だった民主党の姿にオーバーラップしてならなかった。
誰も責任を取らず、努力をしない者、能力の劣った者に媚びて、本来は社会を進歩・発展させうる機会を台無しにし、現場で真面目に働く者を怠惰で無気力にしよとするポピュリズム。まるでどっかの国の先日までの姿だったかと・・・。
まあね、国や企業等、一定程度以上の組織になれば、単純な個々人の能力ではなく、それこそコネ等の影響が非常に大きく、否が応にも政治的なものが幅を利かすのは致し方ない面もあるとは思います。
でもねぇ~、無能な指導者、無能な経営者、無能な管理者等の下で、有為な人材は能力を最大限に発揮できるのでしょうか???
そりゃ、本書のように消極的ストライキをせざるを得ないでしょう。
この点には大いに共感しました!
そういえば、他人事ではないかな?
私も仕事をする度に揚げ足取られて、指示された以上のことはするなと言われるので、最近、急速に指示待ち人間になっているような・・・・。
で、困った時にどうしょうもなくなって、こちらにどの面下げて仕事を振ってくるのやら???
厚顔無恥も甚だしいがまさに本書の世界を私の職場も体現しつつあるなあ~。
実際、古株で仕事できる人が辞めていくし、私もそれに続きたいと思ってるしねぇ~。
新しく入ってくる人の水準が落ちていく一方というのもまさに本書を地でいってるか・・・。
そんなのも一部の限られた範囲であるならば、社会全体では水平移動が可能なわけで問題でもないのですが、社会全体がそれではね。夢も希望もないかと・・・。
そういったことも含めて非常に考えさせられる本でした。
いきなり年初の読書で言い切るのも横暴な感じがしますが、本書が本年一番読む価値のあった本になるのは間違いないです!!
アメリカで多くのお金を稼ぐ人が立派な人物として、社会から尊敬される。
しばしばよく聞く言葉ですが、それを支える社会的・思想的背景というのが本書に凝縮されてます。
アメリカで21世紀に聖書に次いで読まれたベストセラーという売り文句はあながち嘘ではなさそうです。
せいぜい、私も肩をすくめるように致しましょうか?アトラスのように・・・(笑)。
BCPでもBCMでもいいのですが、形だけのマニュアル作れば、誰でも出来るというのが片腹痛いです。
きちんとして事前の練習・準備等の研修をする手間暇惜しんで人が育つことなく、辞めていく状況で何が出来るのか?
ベテランがどんどん消えていく組織に明日があるのか?
(新人も入ったそばから消えてますけどね)
資本主義社会の中で淘汰されるべき存在が正しく淘汰されていくことを願うのみです。
いろいろと考えさせられる本でした。
良い勉強になりました。
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