2007年05月29日

「帝都東京・隠された地下網の秘密」秋庭俊 新潮社

最高に面白かった! 久々の大ヒット!!
今までも地下鉄に乗っていて何度かその不自然さから疑問に思っていたことに対して、妥当を納得できるだけの説得力のある仮説が出されている。不自然な連絡通路や無意味に広い空間、どう考えても奥に何かあるのではと思われる唐突に閉ざされ、鍵をかけられた扉など、本書を読むと疑問が氷解する。

都内の地下には、戦前・戦中を含めて国家政策的観点から、国民に対して秘密のまま作られ、一部の関係者のみ周知の事実とされている多数の地下建築物や陽の目を見ない地下鉄網などがあるという、著者の主張は実に面白い。また、著者は直接的な証拠が隠蔽されていて立証できない
以上、あくまでも仮説としながらも、可能な限り公開されている公文書等の資料を用いて間接的な根拠を複数示すことで、その仮説の可能性を検討に値するだけのものにしていると思う。

amazonの書評にあるトンデモ本という説明には、個人的には賛同しかねる。トンデモ本を何冊も読んだことがあるが、本書のように断定を極力避け、真面目にその可能性を検討する姿勢がある本は、決してトンデモ本の範疇に入らないだろう。著者の主張全てが正しいとは私も思わないが、確実に真実の一部が含まれている感じがしてならない(これは私の個人的感想です)。

うがった見方をすると、amazonの書評の方を疑いたくなる。自社製品を売らんが為にamazonのレビューを捏造するのはしばしあるし、その反対に本書の一部でも真実ならば、当然、それによって困る方々がいるわけで、彼らはトンデモ本として一蹴できるならば、なんでもするだろう。某上場会社では、自社の悪評などを某掲示板に書き込まれると、即座にそれを否定する書き込みをしたり、削除依頼するのは事実としてあることでもある。勿論、真実は闇の中なのだが・・・。

著者の仮説を幾つか紹介してみよう。まずは、私も先日特別参観で行ったばかりの国会議事堂。できてからまだ60年ぐらいしか経っていないそうだが、何故か設計者が不明とされている。候補はいるのだが、明確に誰による設計なのかは公表されていないそうだ。著者が盛んに疑問を呈しているが、これには私も同感だ。国家の最高権力機関の一つである国会議事堂の設計者が公表されていないのは、当然何らかの意図があって行われていると考えるのだが妥当だろう。

国会が地下一階しかないというのも、防空意識が非常に高まっていた当時からして有り得る話ではない。確かに私の手元にある国会参観の資料には地下一階までとなっている。道路を挟んで向かいに建つ国会図書館は蔵書の収蔵の為、最近改築し、地下8階まであるのは知っていたが、これもうがって考えれば、もともとそれだけの地下空間なり、地下構造物があった可能性も考えられるだろう。この国会図書館も元々は陸軍関係の施設の跡地にあるらしく、普通に考えれば地下でそれらは結ばれていて当然だろう。実際に、どこの国でも議会・裁判所、首相官邸、官庁、軍、警察など主要機関が地下構造を持ち、秘密の通路を有するのは常識である。まして、戦争をしていた当時の日本であれば、言うまでもないことであろう。

その他にも著者の仮説は実に説得力があって興味深い。地下鉄のカーブを示す数字を公開されている資料から、拾い出している。普通は何十メートルというメートルでキリのいい数字が書かれているのだが、一部に○○○.○○mなどと半端な数字が並ぶ箇所があるそうだ。普通なら、そんな半端な数字はありえなさそうだが、これをヤードに換算するとキリのいい200ヤードになるという。つまり、明治・大正の頃、日本でヤード・ポンド法が使われていた時に設計・施行されていたものが、後にそのまま流用されている証(あかし)ではないかと言っている。これらは、個別に資料が明示されているので、これは興味があって熱意がある人ならば、自分で裏付けが取れるだろう。私はそこまでする気力はないが、これだけでもかなりの説得力だと思う。

他にも時期総理の声さえあった後藤新平が東京市長(当時、はるかに格下の地位)になった時期があったが、それは東京市が実力者たる人物の威光によって、各省庁の干渉を抑えて、東京の地下鉄網整備を進める為の人事だったと指摘する。関東大地震という、偶発的な出来事を奇禍として、国家の大計の為に、膨大な予算を注ぎ込んで地下鉄を建設しまくった様子が目に見えるようで、非常に刺激的である。

これもどこまでが事実か、全く不明であるものの、荒俣氏の帝都物語を待つまでもなく、あの当時、何かが行われたと考えるのは至極当然なことであろう。著者は、その可能性を裏付ける幾つかの根拠も提示している。

また、戦後でも「下水改良」の名称のもとで老朽化の危険のある地下鉄網や地下構造物の補修が行われているのではないかと主張している。改良にかかる費用金額の比較などや、その後の利用状況に比した費用効率から、本来の目的ではない別な目的に使われたのではないかというのである。いかにもありそうな話であり、最近の緑資源機構ではないが、常に政府の外郭団体など不明朗な組織経由で、よく分からない資金が使われているが、官僚組織が常に情報の独占と制御によってパワーを有する組織である以上、これらのことが行われていても当たり前のように国民には知らされないのだろう。

他にも、誰でもご存知のように丸の内の地下街のところには、大きな駐車場があるが、都内のあちこちにある巨大な駐車場もなるほど、そもそもそこにあった空間の有効利用ならば、納得がいく。

私の個人的な経験でも、著者の説はありそうに思えてならない。
実際、私が学生の時に某銀行の本店で面接を受けた時、道路を挟んだところにある銀行系の関連会社の通用口を経由して道路の下をくぐって秘密の通路を使って銀行内部に入ったことがある。日曜日で当然、銀行の出入り口はシャッターが下りていたが、その関連会社は地下鉄の通路に沿った横道の所に通用口があり、知らなければまず気付かれない場所だった。

当時は、こんな秘密通路があるのかびっくりした覚えがあるが、その後、就職した別の会社では何気ない事務棟に見せながら、中は電源関係の変電所(社内に独自にある)があったり、NTTなどとは異なる独自の光ファイバーが埋設されていたり、大企業ってほんと怪しい?と思ったものである。

民間でさえ、これぐらいいろんなことをやっているのだから、国家組織がやることは、国民の想定外の規模と構想であろう。著者の話は、私には大変魅力的な説明に思えてならない。

本書にも出てくるが、都心の公園は、地下に工事がされていて緊急災害用の物資が備蓄されているところが数多くある。実際に、その通りの場所もあるのだろうが、都心の公園の地下に何か別なものがあっても誰にも分からないのは事実だろう。私が子供の頃に、突然練馬区の公園の一つが地下の工事をするといってしばらく使用中止になっていたことがある。非常に大量の土砂(か何か?)が運搬されていて、かなりの大規模工事だったように思うのだが、とても単純な災害物資の備蓄とは思えなかった。今でも印象に強く残っているので本書を読んでいてふと思い出した。

どこまでが真実かは勿論、疑問ではあるが、都内の地下鉄を使用している人なら、全ての人にお薦めする。読んでいて大変面白い本だ。また、一部には必ず真実が含まれているのでは思わずにはいられないだろう。google earthで地上は見れても、地下は最後まで解放されていない秘密の宝物なのだろう。
【目次】
序 七つの謎
第1章 入れ換えられた線路
第2章 一等不採用
第3章 知られざる東京の地下
第4章 地下は新宿を向いていた
第5章 二〇〇ヤード
第6章 戦前、ここにも地下鉄が走っていた
第7章 帝都復興
第8章 東京の下にはもう一つの東京がある

参考文献一覧
帝都東京・隠された地下網の秘密(amazonリンク)

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ラベル:東京 地下 歴史 書評
posted by alice-room at 21:53| 埼玉 ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こういう話は好きです。なんだかワクワク勝手にしてしまいますね。
地下道やら洞穴やら。。。
読んで見たいものです。
Posted by Seedsbook at 2007年05月30日 14:50
戦争中は、特に通常では有り得ないことが有り得てしまうことが往々にありますし、まして地下の秘密のトンネルや建築物ですもんね。ワクワクしちゃうのは、私も同感です(笑顔)。
何かの機会があれば、是非、どうぞ!! 

謎がない夢の無い『世界』よりは、謎がある『世界』がいいですよね、やっぱり♪

Posted by alice-room at 2007年05月30日 22:01
おととい読んだ五條瑛『ヨリックの饗宴』という小説にも、そういう東京の地下空間が出てきました。
ミステリの題材にはいくらでも使えそう。
Posted by 大阪のマリア at 2007年06月04日 08:33
確かにいろんなお話の題材に使えそうですね! そういえば、今日も地盤崩落のニュースをやっていましたが、本書を読んだ後だと、ついつい秘密の地下道が陥没したか?な~んて、あらぬ邪推をしてしまいます(笑)。
Posted by alice-room at 2007年06月04日 19:00
私は、この本がハードカバーで出版された当時(数年前)、
興奮しながら一気に読んだクチです。
これは凄い本だ!と興奮したものです。

しかし一方で・・・当時から、
どうにも納得できない表現や、
明らかな間違いも多々発見しており、
それが恣意的なものなのか、
それとも偶然によるものなのか、
著者の意図を図りかねていました。

ところが最近、
「著者の記述のほとんどが誤り」、
「著者は明らかに嘘をついている」、
と、明確な証拠を並べて検証しているブログを発見。
ここを読んで、興奮は一気に冷めました。
「地下網の秘密」を読んだ後、
このブログを通読し、
冷静に考えることをお勧めします。

尚、著者本人からは、
このような指摘に対する反論、説明は、
今のところないようです。

「地下妄の手記」
http://www3.atwiki.jp/619metro/
Posted by L at 2007年09月18日 09:49
Lさん、こんばんは。早速、サイトを見てみました。

資料からの引用などで捏造してるのでは?って指摘されていますねぇ~。私自身は、裏を取ってないので確認できていませんが、論拠が明確なのでどちらかが正しいかは、すぐ判明しそうですね。

実際に確認するまでの熱意は無いですが、やっぱり地下網説は、怪しい?っていう感じがしますね、これ読むと。

勿論、個々の政府関係施設の地下の一部には、何かしらの設備があるはずだし、無かったら、そんな国は終ってますが、著者の語る話は、突っ走っちゃたのかもしれません。暴走したみたいですね。

アイデアは面白いので、著者のような部外者ではなく、是非、当時者や関係者からの本当の暴露話が聞きたいです。たま~にある公安の担当者の話みたいなのは、面白いですし。

企業なら総務担当者とか、官公庁だとどこだろう? 今後に期待します。

情報どうも有り難うございました。
Posted by alice-room at 2007年09月19日 00:49
はじめまして。検索でたどり着きました。名前の通り、地下が好きです。
やや古い記事にコメントさせてもらいます。

まず先に結論を述べますと、私は、当初のあなたのエントリを支持します。

「うがった見方をすると、amazonの書評の方を疑いたくなる。自社製品を売らんが為にamazonのレビューを捏造するのはしばしあるし、その反対に本書の一部でも真実ならば、当然、それによって困る方々がいるわけで、彼らはトンデモ本として一蹴できるならば、なんでもするだろう」

とありますが、おっしゃる通りです。
都合の悪い情報を隠すためのプロパガンダを行うということは、企業に関することであれ公に関することであれ、ウェブ上でもいま盛んに行われていますね。

そうした人々は、amazonの書評やwikipediaを占拠するだけでは飽き足らず、わざわざ「まとめサイト」まで作って、読者を特定の方向へ誘導することを試みたり、ときには名誉毀損や威力業務妨害にあたる書き込みを行ったりと、なんだか一線を越えてしまっています。

というわけで、上に張られているリンク先の内容も、鵜呑みにすべきではありません。
そのサイトを作っている人物は、秋庭仮説に対して慎重な立場を取る者からでさえ、しばしば呆れられていた人物です。いわゆる「粘着アンチ」君ですね。彼の目的は不明ですが、少なくとも秋庭説がよほど不利益なのでしょう。単にたまたま読んだ本の内容が納得できなかった・面白くなかったという程度では、普通あれほど執拗に揚げ足取りを何年も続けられません。よほど何かあるんでしょう。

秋庭仮説について言及しておられるこのブログ記事は、いま著者名でgoogle検索すると、4位という高順位にあります。つまり、人目につきやすい。この本の内容を都合が悪いと思っている者にとっては、真っ先に印象操作を試みたくなるでしょう。印象操作を行おうとする者は、いっけん中立者や第三者を装うなど、人格を使い分けてくることがよくあります。

秋庭氏の著書は、部分的にはケアレスミスもゼロではないかもしれないですが、総体的にみて、地下というものを知る上で、かなり示唆に富んでいる本であることは間違いないかと思います。本文中に引用されている文献を自ら当たってみるなどして、私はそういう結論に達しました。
さらに近年、秋庭氏の仮説を裏付けるような事実も、少しずつ見つかってきています。大きなところでは、浅草寺周辺の地下道の存在などがあります。
私は、当初のあなたのエントリを支持します。

長文になりましたが、それでは失礼します。
Posted by 地下好き at 2008年06月25日 20:33
地下好きさん、おはようございます。コメント有り難うございました。

コメントを拝見してもう一度事実関係がどうなのか確認したくなりました(ワクワク)。本書の記載そのものよりも、全く関係のない本などに気付く人しか分からない記述があったりするのはしばしばですし、今後意識してそういった本も読んでみたいと思います。

戦前に高速度地下鉄道の計画があったのかは疑問ですが、政府や大企業がそれなりの地下構造物を建築していたであろうことは、当然あったと思います。その点については、私も首肯します。ただ、現在も別な理由で使用されていたり、公にするとまずい場合などもあり、明確な証拠は難しいでしょうね。実際。

でも本書は面白いし、今まで気付いていなかった点を気付かせてくれるだけでも十分に読む価値はあると今でも思っています。ただ、著者が最近、しょうもないTVとかに出ているのがちょっと気になりますね。いかにもTV的な発言をされていて、私的には著者への信頼が激減しました。それでも本の価値は損なわれないと思いますが・・・。

今後も注目したい内容だと思いました。
Posted by alice-room at 2008年06月28日 08:14
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