2005年06月14日

「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想1

seihai.jpgダ・ヴィンチ・コード関連本でその出典になっているものとしては、ラストかな?これ以外は安直な解説本だから、あえて読まなくてもね。出版社が英知出版さんだったので、ちょっと分野外のに手を出してるなあ~、大丈夫か?完全に便乗本のノリでしょうもない内容で騙されるのではと戦々恐々だったのですが・・・(最近、外れが多くて猜疑心の塊なのです)。いやあ~、これ面白いです(笑顔) 久しぶりにお薦め~!!

実は、まだ3分の2しか読んでないのですが、本の厚さに比して内容が豊富なんでもう、書いておきます。すぐ忘れちゃうんで(苦笑)。

著者は元々がバリバリのカトリック信者(まるでリン・ピクネット女史みたい)。「レンヌ=ル=シャトーの謎」を読んでショックを受け、いい加減なことばかり書いていると思い、御本人の専門に関わることだし反論の材料を探す為、文献を調べまくったそうです。そうしたら、反論するつもりが逆に、イエス結婚説を信じるほうになってしまったそうです。ミイラ取りがミイラにというやつです。

そういう経歴の著者がご自分で調べた結果に基づいて、各種の事柄に説明をしてくれています。勿論、たいていの話題については、他の本でも議論されていて既知のものではありますが、この人文章がうまいのか訳者がうまいのか分かりませんが、ポイントを押えてあって非常に分かり易い。私も知っていた知識の整理になりましたし、他の本を読まれていないなら、それだけでも一読の価値ある一冊です。あとね、著者フルブライトの留学生でもあったそうです。比較文学と神学を修めているそうです。ご存知の方は、御存知ですがフルブライトって相当優秀じゃないと選ばれないんだよね。日本でもこれで海外に留学してる人って、将来有望な人ばっかりジャン。論旨が明快で好ましい文章なのは、そのせいもあるのかも。

既知の知識の整理としては、副題の「雪花石膏(アラバスタ)の壺を持つ女」というのが、まさに本書の本質に関わるもので、イエスに高い香油を塗って聖別した行為が真に意味する所を説いています。「イエスのミステリー」でもそれは指摘されていますが、これこそ選ばれしユダヤの高位高官・聖職者を認証する儀式であり、イエスが王としての地位を宣言する行為であったと述べています。日本でいうなら、大嘗祭をやるとかいったものでしょうか?類似の行為です。

また、既存の知識だけでなく、著者のオリジナルも結構あります。うちのブログでもよく採り上げている「黄金伝説」に出てくるマグダラのマリアの伝承やフランスのサント・マリー・ド・ラ・メールという町で行われるマグダラのマリアの召使エジプト人サラを祀る祭りから、非常に面白い推測(仮説)を出しています。な・なんと!イエスとマグダラのマリアの子供は女の子であり、エジプトに数年住んでいたので、プロヴァンスに上陸したのはエジプト人だと後に誤解され、エジプト人だから肌も黒いとされて現在の祭りになったと、根拠らしいものもないままに推測と思い込み(?)によって結論づけています。真偽のほどは定かではありませんが、二人の子供が男子ではなく女子というのは、なんとも斬新なアイデア(拍手)。しかもそれが、あの有名なお祭りのサラというのは・・・。とりあえず、聡明であっても論理の逸脱はあるみたいです。それでもこの説は、なんか非常にそそられますね。誰か、これに関して本でも買いてくれるといいのに・・・。

マグダラのマリアの「magdalene」が、ミカ書(いつの日かシオンの土地が、バビロンで捕囚となっているユダヤ人の元に返されるという神の約束の予言)にある「マグダル=エデル(羊の群れの塔」という言葉を指すのではないかと著者は書いています。この辺りになると、段々何でもありになってくるので評価は難しいでしいですが、書き方がうまいのか、それなりに読めてしまったりします。

あとタロットカードの絵柄が実は異端信仰の教理問答書になっているとか、中世の聖書にさりげなく挿入されたすかし彫りのデザインが異端信仰の隠された意図を示す象徴だとか、なんかいろいろな陰謀史観につながりそうなものがたくさん出てきます。なんともうまいのが、怪しげな仮説が明確な歴史的事実(メロヴィング朝の歴史等々)と混ざりながら、説明されちゃうのでついつい、どこまでが事実でどこからが仮説なのか、意識しないまま、そうだったんだあ~といった納得につながりそうなところ。進んで読者から信じたがっている内容だし、好きな人はほんと大喜びしそうな本です。

当然、聖杯もそこで重要な位置を占めて説明されていますし、さきほどのサラとの絡みも含めて聖杯を守るアリマタヤのヨセフも頻繁に登場します。聖杯伝説を何冊か読んだけど、確かに聖杯の守り手としてアリマタヤのヨセフの名はよく出てきましたしねぇ~。とにかく、この程度じゃ収まらないくらい情報が盛りだくさんです。金銭的な問題がなければ、まず基本中の基本である「レンヌ=ル=シャトーの謎」を読み、それから本書を読むとこういった関係の本で扱われるトピックについては一通り知識を得られて、それなりに概括的な理解ができるようになると思います。あとは、ここをスタートにしてどこまで掘り下げられるかですねぇ~。私なんかも正直、表面的なところをチョコチョコうろついているだけでしかないですし(苦笑)

また残りも読了次第、感想を書くつもりですが、ダ・ヴィンチ・コードがネタにしたグノーシス的な背景についてもっと知りたいならば、これは本当にお薦めです。読んで外れはないと思いますよ~。

マグダラのマリアと聖杯(amazonリンク)

関連ブログ
「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想2 (感想の続き)
「レンヌ=ル=シャトーの謎」 柏書房 感想1
「イエスのミステリー」バーバラ・シィーリング著 感想1
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳

関連リンク
フランスの田舎を旅する サント・マリー・ド・ラ・メール
プロヴァンス滞在記(木村様のHP)
南フランスへの旅
posted by alice-room at 14:14| 埼玉 ☁| Comment(3) | TrackBack(1) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
訳書が出たんですね! alice-roomさんオススメならこれは読みたいですね。

と言っている間に、カートに入れてしまいました(^^;)
Posted by 如月 at 2005年06月14日 17:18
面白そうですね。私も読んでみようと思います。さて、フルブライトですが、日本とかオーストラリアでは奨学金を得るのは大変ですが、USAでは?? 私の友達はアメリカ人でしたが、フルブライトの留学生でマスターを取っていましたが、彼は特別でもなかったし、アメリカではトップのほうだけど、そんなに難しくはないみたいですよ。
Posted by Megumi at 2005年06月14日 17:54
如月さん>これは、きっと面白いと思いますよ。読んで損はしないと思います。後で感想の続きを書きますが、読了したら、ダ・ヴィンチ・コードがいかにこの本をネタにしていたかが、分かりますよ~。勿論、それを材料に上手に料理したからこそ、あれだけ爆発的にヒットしたのでしょうけど。

Megumiさん>フルブライトはUSAの制度だから自国民には容易なのでしょうか?そんなに簡単だとは知りませんでした。日本だと、政財界で名の通った人になっている方が多いですよ。元フルブライト留学生。院での先生もフルブライト経験者でファイナンスの第一人者でした。先生のコネでおとなしく銀行かシンクタンクでも行けば良かったかな?(笑) コメント有り難うございます。


Posted by alice-room at 2005年06月14日 19:41
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Excerpt:  「聖書に描かれているマグダラのマリアはイエスの妻であり、イエスの処刑後、身重のマリアはフランスに渡り、子を産んだ。中世ヨーロッパの聖杯伝説(The Holy Grail)の原点はここにある。」聖書学..
Weblog: Library
Tracked: 2005-06-14 17:14