2007年06月01日

「聖ブランダン航海譚」藤代幸一 法政大学出版局

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以前に読みたいと思いつつ、目の前に積まれた未読の山にかまけて忘れていました。先日、神保町で久しぶりに見つけて購入。読んでみました。これ、当りです!

最初の三分の一は「聖ブランダン航海譚」の全訳になっています。紙の色まで変えてあり、なかなか凝っていますが、更にインキュナブラ(初期印刷本)の復刻版の木版画が入れてあり、読んでいて実に楽しいお話になっています。

残りの三分の二は解説で、著者はブランダンの名称だけは知っていても内容を知らない一般読者を対象に、まずは内容を知ってもらい、関心を深めてもらうことを狙ったそうです。その為、個々の本のバリエーションの比較など文献的考察はあえて省き、可能な限り分かり易く読み易いものに仕上がっています。まさに、細かい事は置いといて内容を知りたいと思っていた好奇心の徒である私のような読者にはうってつけでした(笑顔)。同時に、著者の狙いも期待通りに達成されていると思います。

そもそもアイルランドで生まれた聖人伝説兼、航海譚たる「聖ブレンダン航海譚」はラテン語で書かれたもの(写本)が祖形であり、西欧中に広まったものですが、本書が底本としたのは、それから数百年を経てドイツ民衆本として印刷された「聖ブランダン航海譚(←発音が異なる)」である為に、いろいろな点で異なっている点があります。

その点については、本書の解説部分で分かり易く説明されており、大変勉強になります。当時の民衆が文章からイメージしたと思われる内容も木版画が具体的なイメージを提供しているので、より一層中世の庶民の世界が理解し易いです。

そういえば、先日読んだ「ルターの首引き猫」という本で、宗教改革当時の印刷技術の影響や、そこに刷られた木版画の意義を知ったけど、本書の解説でも絡んできてますね。知れば知るほど、奥が深いし、益々興味が湧きますね。何よりも面白いです。

中世文学のティル・オイレンシュピーゲルが、聖ブランダンの聖遺物で起こす奇蹟も、これを知らないと面白さが半減しますね。他にもいろんなところで出てくるし、やっぱ知っておかないとね。

名称だけでも聞いたことのある人は、本書を読んでおいて損はないですよ~。
【目次】
聖ブランダン航海譚

解説
プロローグ
 (ドイツの民衆本、中世の文学に現れたブランダン、その祖形)
アイルランドの章
 (遙かな遠い国、聖パトリックそしてシャムロックの花、キリスト教の伝播、実在の聖ブランダン)
異界1
 (ユダ、聖パトリックの煉獄、煉獄、悪魔、善き男)
異界2
 (鯨、異界のメルクマール、磁石山と魔の海、城、楽園、のらくら天国、異形の人びと)
エピローグ
 (中世のベストセラー、伝説の終焉)

テキストと参考文献
藤代幸一著訳書目録
あとがき
聖ブランダン航海譚―中世のベストセラーを読む(amazonリンク)

関連サイト
聖ブレンダンの航海
Curraghさんのサイトです。ラテン語版の訳やたくさんの情報がありますよ~。私も勉強させてもらっています。

関連ブログ
聖ブレンダンの航海譚 抜粋
「図説 ケルトの歴史」鶴岡 真弓,村松 一男 河出書房新社
「ケルト神話と中世騎士物語」田中 仁彦 中央公論社
「ルターの首引き猫」森田安一 山川出版社
「ヴィッテンベルクの小夜啼鳥」藤代幸一 八坂書房
「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」藤代 幸一 法政大学出版局
ラベル:書評 中世 航海譚
posted by alice-room at 23:08| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中世のこういう話は面白いですね。
昔チラッと齧った事がありましたが。。。。
今度又読んでみよう。
Posted by Seedsbook at 2007年06月02日 14:45
あっ、ご存知ですか。よくある話ではありますが、なかなか奇想天外なストーリー部分もあり、後に与えた影響からも興味深い感じがします。ちょうどドイツ語の民衆本みたいですので、もし、機会がございましたら、是非どうぞ!
Posted by alice-room at 2007年06月03日 21:16
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