2007年06月06日

「沈黙の春」レイチェル カーソン 新潮社

友人から教えられて読んでみた環境に関する本です。

最近ではTV番組や雑誌の記事で、微量な農薬でも生物濃縮を通じて、食物連鎖の上にいる生き物ほど被害が大きくなることや、殺虫剤を使用することでそれに耐性を持つ虫が増えて次第に効かなくなり、より強力で人体にも生態系にも有害な物質を使わざるを得なくなっていることなどは、ある程度知られるようになりましたが、本書はその草分け的存在であるそうです。

1962年当時においては、まさに画期的な啓発(or 警告)の書だったに違いありません。現在読んでも、内容が全く古びておらず、そのまま現在書かれている環境問題の本としても通ってしまうほどです。逆に言えば、それだけ先見の明があると共に、人類は問題に気付いてもなんら対応が進まずに、当時よりも状況が悪化している可能性さえある悲しい現実を認識させられます。

まあ、普通にNHKスペシャルとか雑誌の「ニュートン」とか読んでいれば、知っている内容ばかりです。

農薬を使うことで、一時的に害虫へ効果があってもそれは生態系全てに打撃を与え、本来なら有益な生き物までも殺してしまう。その結果、本来意図していた対象(害虫等)が再び脅威になってもその天敵たる存在(鳥等)が失われた結果、農薬使用以前にも増して、害虫による被害が大きくなってしまう。

しかも、農薬等の化学薬品の使用は、対象物の『耐性』獲得に伴い、より強力で有害な薬品を永久的に使用せざる得ない状況に陥り、まさに負の悪循環に至る。本書の例とは異なるが、最近しばしば聞く、抗生物質が効かないウィルスなどは、まさに好例であろう。

著者は、可能な限り化学薬品の使用を抑制し、例えば害虫の不妊化処理をしたものを自然界に放つことで、生態系をコントロールしつつ、害虫の被害を防ぐ手段や、害虫の天敵になる存在を生態系に組み込むことで成果を挙げることを進めている。

なるほど、確かに現在徐々にそれらの手法は行われているらしいのは、ちょっと前にニュースでやっていた地中海ミバエ(?)も不妊化で、成虫数を減少させたという報道からも納得できる。

ただ、私個人の素人考えだと、外来種の害虫が繁殖しているのでそれを抑制する為に、天敵たる生き物を輸入して増やすというのは、どうなのだろうか??? 一つ間違えば、その地元における生態系を崩すのではないかという心配もあるように思うだけれど・・・本書では、そこまで突っ込んだ考察はしていない。

不妊化処理も、放射線を当てたり幾つかの手法があるようだが、遺伝子自体を傷付ける恐れもあると思う。ということは、それ自体が十分に問題があるようにも思うだけれど・・・。長期的にそれが原因で生態系に悪影響を及ぼす恐れもあるだろう。

まあ、当時は今と置かれている状況が違い、まずは環境問題(農薬、化学薬品)を認識させることが最優先だったのだと思う。私が提示した疑問は、全てその問題を認識した以後の問題なので、本書でそこまで要求してはいけないだろう。

ただ、いろんな意味で現代の環境問題を考える一つの示唆になると思う。非常に分かり易く、具体例を豊富に書いているので今まで知らなかった人には特に勉強になるかもしれません。私は、問題意識の整理になりました。

あと、言っても詮無いことではありますが、『効率化(=経済性)』を短期的に求めると生態系を破壊し、公害を撒き散らす特定企業のような行動が合理的、つ~か合目的的になりますが、長期的に『効率性』を求めると生態系を維持しつつ、調和をとった行動こそが、費用を最小限に抑えて最大限の効果を挙げられる行動だと分かりますね。外部性の経済を考慮した「コースの定理」などもこれに関連するでしょう。奇しくもこれも60年代に提唱されたものだったね。ふむふむ。

なにしろ大変有名な本みたいですので、一度目を通しておくといいかもしれません。実は、私、教えてもらうまで全然知らなかったんですけどね(苦笑)。


そうそう、著者の指摘は非常に素晴らしいが、単純にだからと言って現在の社会は間違っているとか、安易な主張をする人にはならないようにすべきでしょう。

反感を買うのを承知でいうならば、便利だからといって自動車に乗り、コンビニや100円ショップで物を買う人は、自分の行動がまさに短期的な『効率化』積極的に支援し、ひいては種々の農薬使用を強制していることを意識すべきでしょう。

マクドナルドへジャガイモを納めている契約農家の人は、自分たちが食べる分は、農薬を一切使わないものだけで、決して売り物のジャガイモを食べないという実話もある。類例は枚挙に暇がないので省くが、綺麗事だけでは社会は変わらないのだろう・・・。

そして、私も不本意ながら、自分の行動を省みると何も発言できないなあ~、と自己嫌悪に陥りそうになったとだけ言っておこう。でも、なんとかしたい気持ちもあるんだけど・・・。う~ん、無力だ。
【目次】
明日のための寓話
負担は耐えねばならぬ
死の霊薬
地表の水、地底の海
土壌の世界
みどりの地表
何のための大破壊?
そして、鳥は鳴かず
死の川
空からの一斉爆撃
ボルジア家の夢をこえて
人間の代価
狭き窓より
四人にひとり
自然は逆襲する
迫り来る雪崩
べつの道
沈黙の春(amazonリンク)
ラベル:環境 書評
posted by alice-room at 20:31| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
カーソン女史の一連の著作は、環境問題を一般の人々に認識させたという点でまさに先駆者ですね。幼い甥っ子のために書いたという遺作'The Sense of Wonder' もすばらしいです。またカーソン女史は、シュヴァイツァー博士を尊敬していたそうです。

環境がらみでは、ビル・マッキベンの著作も好きです。卓抜な比喩を散りばめ、かつ押しつけがましくない書き方は、さすがジャーナリスト出身の書き手だと思います。

PS : 拙サイトの再紹介、ありがとうございました。
m(_ _)m

『聖ブランダンの航海』は、「ブレンダン入門書」としても最適な一冊だと思います。というか、類書がほかに見当たらない…というのが本音ですが(ほかには岩波の『ケルトの聖書物語』くらいでしょう)。
Posted by Curragh at 2007年06月10日 18:16
大変有名な方なんですよね。私は不勉強にも友人に教えてもらうまで知りませんでしたけど(アセアセ)。

'The Sense of Wonder'書名だけは見たのですが、そうですかこれも良い作品なのですね。書名を意識しておこうと思います。ビル・マッキベン。初めてお名前を聞きました。関心が湧きました。探してみよっと。

『聖ブランダンの航海』本当にまずはこれをきっかけにいろいろと興味が広がっていきますね!同感です。他の本も、少しづつ読んでいきたいですね。実に興味深いです(笑顔)。

こちらこそ、コメント有り難うございました。



Posted by alice-room at 2007年06月11日 14:42
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック