本格ファンタジーとか説明に書かれていますが、本格というかこれが当たり前のあるべき姿のファンタジーだと思います。確かに魔法が出てきたり、この世の中には有り得ないとされるような力や理が支配する、この世ならざる異世界の話なのですが、確固たる世界観の下で構築された物語にはある種のリアリティーを強く感じぜずにはいられません。
次元を超え、空間を超え、重層的に重なり合う世界はややもすると、誰が誰なのか、何が何に変わったのか、置いていかれてしまうきらいはあるのですが東洋的『輪廻転生』とは異なる、呪いによる繰り返しはなかなか興味深いです。
謎解き部分は、もう少し解説が欲しかったりもするのですが、それだと物語的にはかえって興を削ぐのかもしれません。ほどほどにして、巻数を追って徐々にってのもありかもしれませんし・・・。
本書を読んでいて強く印象が被ったのがタニス・リーの一連の作品群です。
「死の王」とか「闇の貴公子(?)」とか、そういう系の色彩を強く感じ、それらの一つとして翻訳物であったりしても違和感ないぐらいの親和性を感じました。
タニス・リーの作品が好きな人ならば、本書もきっと好きだと思います。
内容を少し。
本書の世界は魔法を操る魔導士が出てきます。その魔法とは一線を画し、それでいて効果は魔法のように初動される写本の存在。そんな特別な力を持った写本を描く人物が本書の主人公である『夜の』写本師です。
ありていに言えば、自らの近しい存在を魔導士に殺され、生き残った者による復讐劇。
少林寺拳法の映画なんかのように、身内やお師匠さんを殺されて子供や弟子が修行し、敵を討つっていう定番のストーリー。
勿論、王道のもののファンタジーである以上、その舞台である世界自体がどこかにありそうな実在感を持った存在として描かれます。独自の歴史や文化、価値観を有した世界の中でその世界に縛り付けられながら、一方でその世界を超越して物語は進んでいきます。
本当に久しぶりに読み物として読むに値する感じがしました。
著者のシリーズ作品は今後読んでいきたいと思いました。
夜の写本師