2007年06月13日

「責苦の庭」オクターヴ・ミルボー 国書刊行会

【注意!】
これは現代的な常識から判断すると、反社会的で近代社会の成果たる民主主義によってたつ『政治』を愚弄するものであり、社会的に有害であると共に、徹底した人権の無価値論に基づく個人的欲望の肯定といった側面があります。

だから、良い子は読んではいけません!

精神が病んでいて、善悪の彼岸を超越した特殊な方のみ読むべき本です。強烈な自制心と傲岸不遜な自尊心の塊のような方以外は、手に負えません。該当しない方が読まれて、不快感を覚えられても当方は一切の責を追いかねますのでご注意下さい。

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いやあ~傑作です。そうそう、これぞフランス文学、まさに世紀末文学叢書の名に恥じない素晴らしい作品です。昨今の安っぽくてお手軽な残酷趣味や無知のみにしか行えないような下劣な暴力事件とは一味も二味も違います。

『人』という生き物を本性をさらけ出し、文化や道徳といった上っ面な社会常識など一切の虚飾を剥ぎ取ってうえで、最後の最後に残った純真無垢なる本能。ただひたすら、人間の内面から湧き上がる欲望を魂のみに忠実に、しかも選ばれし者のみが有する名人技的な洗練さと厳しい職業的倫理観(一般人が意味するところのものとは到底乖離してしまっている)の類まれなる『アート』として為されるところの処刑・拷問。

どうしょうもなく病んでいるのですが、精神のギリギリのところで闇夜の燐光のように怜悧に輝く一瞬の情熱、そして狂気。PTAのおえらいご婦人方が読んだら、即刻悪書指定されるような、まさに熱帯の毒々しくも鮮やかな色彩に富んだ花々のようなめくるめく世界です。

勿論、普通の人が読むと気持ちが悪くなり、吐き気を及ぼすであろう内容ではありますが、私これ読んでいて異様な精神の高揚を覚えました。頭の中でイメージしていたのは、本書の舞台である中国ではなく、タイ。甘い果実が腐敗したが故の毒まみれの甘美且つ誘惑的な芳香を放つ様。スコールで一瞬にして湿度100%を超える気候。手足を失い這いずり廻る人々。そんなイメージが本書の文章を読んでいると、勝手にオーバーラップしてしまう。実に毒々しい限りだ。

もっとも確かに職人的な技術の冴えとそれを突き詰めていく善悪を超えた熱心さは、纏足でも有名な中国そのものではあるんですけどね。その点で私が妄想したタイとは異なるのだが、まあ、それは置いといて。

以下、ストーリーを紹介する。いささか詳しい書いたので興醒めになりそうだと思う方は読まないで飛ばして下さい。もっとも本書の一番の凄さは、ストーリーなんて二の次なのですが・・・。



本書の主人公は、友人である実力派大臣が政界をのし上がっていく過程で行った数々の暗黒部分の仕事を手伝ってきた政治ゴロつ~か、取り巻きで世間の裏側を酸いも甘いもかみ分けてきた人物。ある程度までは、良心の呵責無しに酷い事をできるものの、その一方で自らを冷ややかに眺めるところがあり、悪に徹しきれない優柔不断を持つ、ありがちな人でもある。

主人公は、その友人との会話の中で民主主義政治の無知蒙昧さと虚飾を慨嘆しつつも、反面、現代政治にもそのまま通じるような政治腐敗をこれ以上ないってくらい悪辣にあげつらう。そこで指摘される内容は、ニュースで連日指摘されている社会保険庁の年金問題と同質のものである。

その一方、最終的には政治家の手先で食いつないできた主人公がまともな仕事をできるはずもなく、友人の手引きで立った選挙にも落選して目も当てられない状態になる。ていのいい厄介払いとして、彼はいつのまにか政府の行う調査団の責任者に任命され、法外なほどたっぷり与えられた調査費名目の資金と共に、彼は調査の旅に出ることになった。

その旅の途中に出会う怪しげな美女。その美女と割無い仲になる主人公。二人はヨーロッパ的な重々しい束縛の無い中国という理想郷で生きていく。その地、中国において美女が何よりも好んだ嗜好が、通常では考えられないような処刑を公開の場で行う見世物だった。その場こそ、『責苦の庭』という場所に他ならない。


一番美味しいであろう、責苦の庭については一切書きません。文章を読んでいるうちに恍惚として我を忘れてしまう私がいたとだけ、書いておきましょう。これぞ真の『耽美』。低俗な同性愛とかの耽美など片腹痛いと笑い飛ばしてしまうほどの衝撃です。弱い方、悪夢を見ますよ。

しかし、この本は先日蔵書整理でつまらない本を2箱ほど売りに出した時、部屋で見つけた本なのですが、既読だとずっと思っていました。ユイスマンスの「腐乱の華」と同時に買ったもの。いやあ~、思いっきり古いけど、中は最近買ったばかりのように新品で綺麗。改めて読んでみて更に驚愕しています。

私が読まずにいる本で、こんな本があったとは・・・。しかも持っていて読んでいないなんて!! いやあ~、また若かりし頃のようにフランス文学読みまくっちゃうかと真剣に考えますね。とにかく凄いの一言です。

なお、本書の月報には澁澤龍彦や井村君江などがコメントを書いている。井村さんは以外だけど、澁澤さんは納得ですね。まさに本書は思慮分別のある大人が、いささかの冷笑家資質を抱いて読むのにうってつけです。但し、くれぐれもノーマルを自負する方は読まれませんように。

私の場合は、歓喜にたえませんでしたけど・・・まあ、私変わっていると人様から言われますのでね。

責苦の庭(amazonリンク)
ラベル:書評 小説
posted by alice-room at 19:43| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
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