2007年06月21日

「奈良」直木孝次郎 岩波書店

一応、基本スタンスとしては奈良の名所旧跡案内であるが、単なる観光ガイドとは全く異なる本です。

古代史の専門家が『奈良』という場所で起った歴史的出来事や古代の政治情勢などを分かり易く解説しながら、あくまでもそれらが実際に起った舞台としての場所(建物)を紹介し、更にそれが現代の史跡としてはどのように残っているのか、具体的にどうやったらそこに行けるのか(アクセス)などまで説明してくれます。もっとも、1971年当時の交通事情なのでそれ自体は役に立ちませんけど、何度か行って知っている人なら、おおよその感覚が掴めると思います。

本書では、古事記や日本書紀などの文献や各種の考古学的知見に基づき解説される奈良時代が具体的な史跡と対応しているので、例えば「山ノ辺の道」や三輪山、橿原神宮、飛鳥寺など実際に行った経験があれば、日本の古代史が非常に近しい存在に感じられます。

しかもそこで説明される内容が実に面白い!
一番最初のトピックとして、三輪山の神と天皇家の関係が挙げられている。三輪山の神は皇族を妻としたとされるほど関係は深いが、その一方で三輪山の神は祟って災害を及ぼす神であり、天皇家とは対立関係にもあった。

その理由として、著者は三輪山の神は、元来大和の他の有力豪族に祀られていた神であり、天皇家は後に征服者として大和に入ってきた存在で、有力豪族を倒した後、三輪山の神の祭祀権と大和の支配権を獲得したからだという。それゆえ、天皇家は三輪山の神を大いに敬する一方で、よそ者の神としての緊張感を抱いていたらしい。

本書の中では、上記の結論に至る論拠や過程も書かれていて、説得力があり、非常に魅力的である。

他にも同じ事件(雄略天皇が葛城山中で一言主神にあった話)であっても古事記や日本書紀で若干書かれている内容に差異があり、それはそれぞれの書が書かれた時代の政治状況の違いが反映している、といった説明が実に関心を惹く。

古事記や日本書紀は、ずいぶん昔に読んだきりで記憶には自信がないものの、引用されている内容はなじみのものも多く、自分の旅の記憶や読書経験などバラバラだった知識が関連付けられていくのも実に愉快です。

これから奈良を旅する人や、もう何度も旅したことのある人が、自分の経験をより深く味わい深いものにする為にも、本書はきっと役立つと思います。これを読んでから、奈良に行けば、同じ観光でも密度は100倍以上濃厚なものになること掛け値なしです!!

読む価値のある歴史の本だと思います。何よりも面白い。
【目次】
序章
第一章 国つ神の里―三輪と磯城―
第二章 古墳と豪族―葛城―
第三章 后たちの墓―佐紀楯列と和爾・石上―
第四章 神武伝説とその背景―初瀬・磐余・畝傍―
第五章 花ひらく―飛鳥・藤原―
第六章 国家興隆のかげに―斑鳩・平群・二上山―
第七章 都の明暗―平城京―
あとがき
奈良―古代史への旅(amazonリンク)

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ラベル:書評 奈良 歴史
posted by alice-room at 22:54| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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