この本でいう巡礼とはフランスから、スペインのサンチャゴ・デ・コンポステラ(聖ヤコブの遺骸が葬られた土地の上に建てられた大聖堂)へ至る道を指し、おおまかに4つのルートがあるそうです。他の聖遺物関係の本や中世の本にもたびたび出てきますが、この巡礼の道というのはとりもなおさず、聖遺物詣での道のりに他ならず、あちこちに散在する聖遺物を祭る大聖堂や礼拝堂を順繰りに辿っていくものでありました。外形的には四国の札所巡りに近い感覚でしょうか?但し、自らと対峙するお遍路さんと異なり、中性の巡礼は概して病気や災いを始めとするありとあらゆる悩みの万能薬、奇蹟を求めての旅ですから、その現世利益信仰への情熱はまた格別なものがあったようです。勿論、純粋や宗教的な要請から赴く人々もあったのでしょうが、いかんせん一般大衆は、何よりも奇蹟が大切だったようです。
新書の本なのに、とにかく中身が濃いです。個々の聖堂や聖人(ヴェズレーのマグダラのマリアなんかも結構、詳しく書かれてます)についてもいろいろかかれてますし、この巡礼の道を生み出していった種々の政治的・社会的・地理的背景を説明しながら、クリュニー修道院が背後に大きく関わっていることなどを詳しく説明してくれます。同時に、一旦はイスパニアで布教後、パレティナに戻ってその地で殉教した聖ヤコブがいかにしてスペインの地に戻って、コンポステラ大聖堂へつながっていくのかの縁起についても複数の説を元にして説明しながら考証を加えています。他にも各種の文章により、この巡礼は公式に認められ、聖地としての格をあげていくのですが、それらの多くに創作が含まれており、聖ヤコブ以前の各種の伝承がその中に吸収されていく様なども説明されています。こういうの大好きなんですっごく楽しいです(満面の笑み)。ただ、歴史的な細かい王朝の勢力史みたいなものが続くと時々、退屈で眠くなることもあるものの、全般的には充実した一冊です。
さすがに「中世の奇蹟と幻想」には勝てませんが、これ読んだだけでも聖遺物のことそれなりに詳しくなりそう。中世におけるキリスト教信仰の一形態をリアルに理解できる本です。前から、コンポステラ巡礼には憧れがあったのですが、これ読んだら非常に行きたくなってしまいました。歩いてヴェズレー辺りから、巡礼に行ってみたいなあ~。で、奇蹟を体験してみたいです。
具体的に内容についてもっと書きたいんですが、あまりに量が多くてかけません(涙)。絶版になってますが、古書店で安く見つけたら、買っておいて損はありませんよ~。参考文献もたくさん挙げてくれていて親切ですしね。邦書もたくさん挙がってますし、洋書もあります。でもね、洋書はフランス語文献ばっかり…読めません私。本が読みたいなら、語学くらい勉強しろって言われているようでちょっと悲しかった(涙)。
そうそう、本に書かれていた内容で、ちょっとメモしておきたいことを。
聖マルタン祭当日、堂内も門前も、石畳の上は糞便や痰唾や吐瀉物にまみれて異臭が立ち込める。これも奇蹟の起こった証拠なんだって!え~っと思ったんですが、聖者の霊力に撃たれて、取り付いていた悪霊が体外に逃げ去るときは出口が二つしかなく、嘔吐や下痢が伴うんだって。ということは、映画のエクソシストに出てくる、あの気持ち悪い吐く場面は理にかなっているんだ。へえ~知らなかった。新鮮な驚きです。単なる映画の効果上、やってるんだと思ってました(過剰演出だよなあ~って思ってたもん)。
あとね、パリで活躍した大錬金術師ニコラ・フラメルも秘教開眼の為に、サンチャゴに巡礼し、金属変性に成功したんだって。それでは私も巡礼したら、金作れるかな?(ニヤリ)
是非、物好きな方は読んでみて下さい。で、すぐさま旅に出てね!(笑)
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関連ブログ
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
映画のエクソシストは、DVDで持っていますが、十数年ぶりに見たら、地味だと思ってしまいました。(笑)あの地味な演出が、ちゃんとした背景を持っているとは、一つ勉強になりまいた。
この本、古書店で見つけたら買うことにします。
でも、旅には出ないでしょう。(笑)
でも、通信講座のようなお手軽な悪魔祓いってどうなんでしょうね?かえって取り付かれそうですよね。
すみません、ちょっと脱線したコメントで。