上巻を読んですぐに下巻も読んだのだが、書評等は書かないでいた。今週、改めて上下巻2冊を読み直したので下巻について感想を書いてみる。あわせて、この本の目次を見ただけで好きな方なら、ある程度内容の想像がつき、読まずにはいられなくなると思うし、自分の役にも立つので以下、目次を書き出しておく。
【上巻目次】
?T十二世紀の宗教美術
1その起源
2典礼劇の影響
3サン・ドゥニおよびスゲリウスの影響
4美術と聖人たち
5巡礼、イタリアの道
6巡礼、フランスおよびスペインの道
7世界と自然
8図像を表した十二世紀の聖堂入口
?U十三世紀の宗教美術
1中世美術の象徴性
2研究の方法―ボーヴェのヴィンケンティウスの四つの「鑑」
3自然の鑑
4学問の鑑
5道徳の鑑
6歴史の鑑
7結論
【下巻目次】・・・本書の目次中世は確かに千年という長期に渡る期間であり、その盛期から末期にかけての変化は当然のことであるとは、頭で理解していながら、かくも大いなる変化を遂げていたのかと、本書はまさに蒙昧の眼を開かされるような書物です。
?V中世末期の宗教美術
1基本的性格
イタリア美術の影響
宗教劇の影響
2中世末期の美術は新しい感情―激情的なもの―を表現する
ゴルゴタの丘に座すキリスト
聖母の受難
聖墓
3中世末期の美術は新しい感情―人間的な優しさ―を表現する
聖母子
4中世末期の美術において、諸聖人は新たな姿を取って登場する
聖ロック
聖母
5新しい象徴主義
巫女(シビラ)
ルアンのサン・ヴァンサン聖堂の絵ガラス「凱旋車」
6美術と人間の運命
美術における死の登場
死の舞踏
臨終の時―「往生の術 アルス・モリエンディ」
墓
ヴァンセンヌの絵ガラスとデューラーの「黙示録」
「最後の審判」と宗教劇の影響
?Wトレント公会議
1宗教論争と美術
美術は聖母を讃美する
聖ペトロの座
美術は秘蹟を擁護する
聖カルロ・ボルローメオ
聖ホアン・デ・ディオス
2殉教
3幻視と法悦
天使に矢を射込まれる聖女テレサの法悦
フランス、イタリア、スペインで法悦はどのように表現されたか
4死
5新しい図像
「お告げ」
「キリストの降誕」
「笞打たれるキリスト」
6新しい信心
守護天使の存続
7過去の存続
8アレゴリー
9各修道会の聖堂装飾
10結論
その点を著者エミール・マールはこう表現する:
「十三世紀の晴朗な美術の後に十四、十五世紀の情熱的で悲痛な美術が続く。かつての神学者たち、まさしく教義にはぐくまれた荘重な人々の後を、涙の才能に恵まれた詩人であり、心に対して全能の力をもつ霊感を授かった人々、アシージの聖フランチェスコの弟子たちが受け継いだのである。」
聖人崇拝における表現や「死の舞踏」など、具体例をモノクロながら図版で示して的確な説明をしていくのでとても理解しやすいうえに、著者自身の思いのこもった解説は読者にも強く訴えるものがあります。
採り上げるトピックが多いし、本書がもともとが(著者自身による)
大部な本の要約である制限から、個々のテーマではもっと詳しい本もあり、量だけでは負ける。しかし、他の本を読んだ限りでは気付くことができなかったより深い次元からの図版の意図など、本書だからこそ初めて知ることも多い。
まあ、本書は基本中の基本の部類に入るようですし、中世に関心があるなら、目を通しておきたい本と言えるでしょう。読むたびに気付かされることがある本とも言えます。
今、同時進行で黄金伝説も再読しているところなので、いい本はやはり精読すべきことを強く実感しています。そして、今年中に本書の元である「ロマネスクの図像学 上下」「ゴシックの図像学 上下」「中世末期の図像学 上下」計6冊を読破することを目標にしたいですね! 金額もはることながら、ちゃんと読破できるか否かになかなか自信が持てません・・・? 面白いんだけど、分量の多さにひるむ軟弱な私です。
そうそう、本書読んで気付いたことをもう一つ。宗教改革の意義について。従来、大聖堂などの石やステンドグラスに刻まれたものは、宗教改革によって紙へと表現場所を移すと共に、これまであえて意識されず、それ故表現される機会の少なかった、宗教改革の非難の対象となった主題(聖母、聖人、教皇の権威、秘蹟、死者への祈り等)がクローズアップされるようになったそうです。そして、それらを表現する為に美術も新たな価値を付け加えられるようになってきたそうです。
宗教改革をこういう契機として捉える見方は、実に面白いです。やっぱり6冊読まなきゃだなあ~。
ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで (下)(amazonリンク)
関連ブログ
「中世の美術」アニー シェイヴァー・クランデル 岩波書店
「中世の美術」黒江光彦 保育社
「中世の芸術」グザヴィエ・バラル イ・アルテ 白水社
「キリスト教図像学」マルセル・パコ 白水社
「ヨーロッパ中世美術講義」越 宏一 岩波書店
「Les Tres Riches Heures Du Duc De Berry」Jean Dufournet
「The Hours of Catherine of Cleves」John Plummer George Braziller
「屍体狩り」小池 寿子 白水社
「ヨーロッパの死者の書」竹下 節子 筑摩書房