
最初に読んでから10年以上経つが、いっこうに古びないし、未だに新鮮で鋭利な衝動を覚えさせずにいられない本です。ドラッグを扱った小説でありながら、欧米でいうようなドラッグ文学ではなく、むしろ出版社から想像がつくようにSF的世界観といえると思う。
ある種のファンタジー系でさえあるかもしれない。それとも、いささか皮肉なユートピアであろうか? どちらにしても日本でドラッグを扱いながら、かくも強い衝撃と断トツの位置を占めている本もないだろう。
ただ、勘違いしないで欲しいのですが、決してジャンキー向けの本ではありません。著者の醒めた描写に垣間見える狂気と情熱の共同幻想がたまらなくも魅力的に映ってしまう物語世界なのです。
ドラッグを契機に、他者と自己の危うい境界がたやすく揺るぎ始め、肥大化する自己増殖と他者及び場への相互干渉による、共同幻想的世界観がなんとも魅力的に映ってなりません。この手の言葉使いでピンときた方! そうです、その世界なのですよ。
本質的な意味でSF好きな方、思考実験の好きな方、きっと楽しめます。独特の仮想世界がかなりキテます! 私は大好きですが、一般人向けはしないでしょうね。薬中の方も、楽しめないでしょう。でも、特定の方に強くお薦めする本ですね。
先日読んだ「責苦の庭」にも通じるものあり、神林氏の「七胴落し」とかにも近しい感性を感じます。どっちもかなり特殊ですけどねぇ~(苦笑)。
本文中の表現から
ここは十八歳以上の大人の立ち入れない異形の子供たちの楽園、ネバーランド。MOUSE(マウス)(amazonリンク)
・・・
いつからか、廃墟となったこの土地に子供たちが集まってきた。彼らの大半は数十種類の薬物が入った箱を身に着け、カクテル・ボードと呼ばれるコントローラーでブレンドして直接体内に送り込む、新種のジャンキーたちだった。
彼らは自らを【マウス】と呼ぶ。新しく開発された薬を、次から次へと己の躰で試すからだ。
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「媚薬」エーベリング (著), レッチュ (著) 第三書館