2007年07月12日

「アヴェマリア」矢崎美盛 岩波書店

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著者は本書の中で、あくまでも一般向けで専門的な内容は省いたというが、私が無知なせいなのか、どうして&どうして、たいした内容で学ぶことが実に多い本でした。

普通の絵画の説明では、具体的な作品を元にそこに描かれてる主題や象徴などが解説されるが、本当は説明の順序が逆なのかもしれない。

本書では、宗教美術(絵画)一般に妥当する基本原則を説明したうえで、その適用例として種々の作品を挙げている。演繹的か帰納的かという問題かもしれないが、まずは本書のように基本原則を理解するのが良いように思う。

個人的な思いとしては、絵画は最初できるだけ予備知識のない状態で見て自分自身が作品から受ける印象や感動を大切にしたいし、それから、いろいろな事を理解したうえで再度じっくり見直してみたいと考えている。

『知る』ことによる偏見の弊害を極力避けたいといつも思っているのですが、その為、著者のいう「宗教美術は美的鑑賞の対象というのは二の次」という考えには、本を読み始めの頃、大変な抵抗感を覚えました。しかし、本書を読み進めていくうちに、知らないが故の誤解を自分もじつにたくさん犯していることに気付きました。う~む!

美術史家個人の解釈には、できるだけ離れていたいですが、当時の人々の常識事項についてはやっぱりある程度知らなければ、絵画を理解するのは難しいことを強く感じました。『無知』は知らないが故の『純粋』ではなく、ある意味独り善がりな『罪』なんですね。

本書は、2000年に出してるくせに初版当時のまま旧仮名なんでかなり読み難いのですが、それは補って余りある価値があります。巷に出ている内容の無い本を買うならば、本書一冊買うだけで事足りるし、何倍もの価値があるでしょう。新刊また無くなったみたいで残念ですが、きっと岩波さんがまた出してくれるはずです。GETしておきましょう♪

私は、いつ・どこで買ったか記憶にないのですが、完全な新品で持っていました。黄金伝説にうつつを抜かして読み忘れてしまったらしい・・・。

それは置いといて。本書の中ではこんなふうに記述されています。
マリアは、天から降下した神の子が肉体となるための『場所』であります。神の子、すなわち、肉となった上智の『座』Sedesであります。『神の子の御座、幸いなる爾が懐、』であります。だから、マリアの連祷でも、彼女は『上智の座』と呼ばれております。
 このようにして『上智(聖智)の座』Sedes Sapientiaeがやがて、またマリアの象徴となります。それは、また、旧約の世界に於ける叡智の権化たるソロモン王にちなんで『ソロモンの王座』Trone de Salomonとも呼ばれます。そしてこの象徴主義がまた中世に於けるマリア崇拝像の権威の為、一つの基礎となったのであります。すなわち、この『上智の座』または『ソロモンの王座』としてのマリアは、彼女が王座(椅子)の上に座るという形をもってあらわされます。だから、いろいろのマリア像に於いて、彼女が王座に座したり、椅子に腰掛けたりしているのを、単に、構図上の便宜だとか、平凡なる壮厳だとか、考えてはなりません。
何にも知らない私は、今の今まで、即ち本書を読むまでまさに構図の故かと思ってました。たくさんの聖母をこの目で見てきましたが、何も分かっていなかったってことです。お恥ずかしい限り(赤面)。

他にも、キリストの『昇天』に対しての聖母の『被昇天』(聖母は神性はあっても神ではないので、自力で天に上がるのではなく、あくまでもキリストによって上げられるのがポイント!)とか、『被昇天』が上昇に対して『無原罪の御孕り』はキリストの天からの降下とか、視点が全然違ってきます。ムリーリョの実物の作品を見たことがあっても、何も知らなかった私の至らなさを痛感しますよ、ホント。

とにかく、黄金伝説を読んだら、次に本書を押さえておくべきでしょう♪ 著者も黄金伝説は強くお薦めしてますしね。両方読むと、宗教絵画を今までの何百倍も何千倍も楽しめますよ、きっと!! 実に素晴らしく、為になる本でした。聖母マリアを扱った本は多いですが、これ、私の一押しです。

最後にまとめ。キリスト教図像学をマリアに絞って解説した本。神学的な側面まで含めてきちんと書かれた良書です。但し、非常に残念なことにこれだけの内容なのに文献紹介がないのです。これだけは欠点だと覆います。
【目次】
第一章 序説
 第一節 アヴェ・マリア
 第二節 宗教美術
 第三節 神秘性

第二章 神の母
 第一節 マリアの肖像
 第二節 聖母
 第三節 聖母像
 第四節 象徴
 第五節 元后(女王)
 第六節 慈悲と哀しみの聖母
 第七節 ロザリオの祈り
 第八節 聖なる会話

第三章 被昇天
 第一節 神秘の薔薇
 第二節 御眠り
 第三節 昇天
 第四節 戴冠
 第五節 マリア遷化
 第六節 天使

第四章 無原罪の御孕り
 第一節 聖童貞
 第二節 マリアの出生
 第三節 産みの苦しみ
 第四節 助産婦
 第五節 陣痛
 第六節 アンダルシアの乙女

第五章 結び

索引(人名・事項)
アヴェマリア―マリアの美術(amazonリンク)

関連ブログ
「黄金伝説3」ヤコブス・デ・ウォラギネ著 人文書院
「聖母マリア伝承」 中丸明 文藝春秋
「聖母マリア」 竹下節子著 講談社選書メチエ 
「ヨーロッパ聖母マリアの旅」若月 伸一 東京書籍
「聖母マリアの系譜」内藤 道雄 八坂書房
バチカンと聖公会が『シアトル声明』
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社
「キリスト教図像学」マルセル・パコ 白水社
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「新装版 西洋美術解読事典」J・ホール 河出書房新社
「ヨーロッパ中世美術講義」越 宏一 岩波書店
posted by alice-room at 22:41| 埼玉 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ますます中世の知識に磨きがかかってきますね!
黄金伝説私はⅠしか持っていないので、いつか用意しなければ。。。。
Posted by Seedsbook at 2007年07月13日 01:41
知れば知るほど、世界は驚くような知識の宝庫であることに気付かされるばかりです。ホント!
日本語の本でさえ、これだけの情報があるのですから、ラテン語とかできたら、きっと本を読むだけで一生終わってしまいそうです・・・(笑)。

もっとも昔の中国の学者は老年になると、皆失明してしまったそうですが・・・。あれだけの漢字の文章を朝から晩まで読み続け、学問をするのですから、一流の学者さんはそもありなん、な~んて思っちゃいますね。

私は、日本語で読めるだけの本を読んだら、少しづつ英語の本を眺める程度です。ラテン語はともかく、ゴシック建築の資料を読むなら、フランス語は勉強しとくべきではないかと、常々葛藤にさいなまれる日々です。いやあ~、まだまだそこまでする情熱が持てないのが情けない限りです(苦笑)。

でも、それはともかく知るのって面白いですね♪
Posted by alice-room at 2007年07月14日 14:46
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