うちのブログもタイトルに「禁書図書館」などとうたっておきながら、禁書というシステムを扱った本はほとんど採り上げていなかったので、興味津々で読んでみた本です。

訳者の前書きより抜粋
本書は焚書坑儒に始まって最後の王朝清に至る中国史二千百年余年の禁書政策を見渡した異色の労作「中国禁書大観」(上海文化出版社、1990年3月)の日本語版である。
・・・
原著は本文七百十五ページの大著であり、一、「中国禁書簡史」、二、主な禁書について概要を紹介した「中国禁書解題」、三、約七千種の禁書の総リストの「中国歴代禁書目録」の三部からなっており、原著者らが中国禁書メカニズムの解明にかけた情熱をうかがい知る事ができる。
・・・
日本の一般読者向けの訳書では、全文は収録できず、エッセンスである「禁書簡史」の訳出、紹介にとどめた。
残念ながら、本書は原著の抄訳らしいのですが、それでも中国という古代以来の文字先進国家が国家・政治的配慮から行ってきた過酷、且つ徹底した文化統制政策の凄まじさを実感できます。

西洋の魔女裁判で行われた禁書目録とか、ああいった生易しいものではありません。事前に書名が列挙されてなんかあるはずもありません。皇帝による完全な個人的見解に基づく恣意的運用の下、国家政府に対する不平不満は言うに及ばず、牽強付会だろうが、無理矢理だろうが、皇帝が危険性ありと思えば、それは即、有罪以外の何物でもないのでした。

当時の最先端の文明国である中国と西欧一般を比べるのが間違いかもしれませんが、今も昔も明確な為政者による知識人層への絶対的圧力の手段として「禁書」が採用されてきたこのシステムの怖さは、想像を絶するものがあります。

中国では、異民族による漢民族支配の歴史が長く、新しい王朝が生まれると前王朝の血筋が絶えるまで徹底的な血の粛清をやらないではいられないことは有名ですが、それと同時に前王朝を追慕し、現政権を批判するような士大夫などの知識層は、潜在的な危険要素として常に現政権から、監視の目で見られていたことが分かります。

中国的な伝統として、書によって皇帝に上奏するなどの他、現体制への不満を書の中で表明することが一般的あり、また、それによって民心がしばしば影響を受け、実際の抵抗運動につながることも多々あった為、為政者からの文化統制政策には、他の国家では見られないような並々ならぬ熱意と果断さがついてまわります。

本書では歴史を追って、その具体的な禁書内容、事件例などを紹介しつつ、時代時代の禁書の取り扱い、歴史的・政治的背景についても説明を加えています。

中でも私には、ある種のショックであったのが、清の乾隆帝の時代に作られた「四庫全書」。中国に存在するありとあらゆる本を集め、網羅し、歴史的にも名高い百科全書的な存在ですが、これほどアイロニカルな存在もなかったりする。

私が習った世界史などでは、素晴らしい文化事業の成果のように紹介されているがとんでもない! 

異民族支配である清王朝への体制不満などが書かれている書物はないか、中国中の書物を集めて調べ、弾圧することがその本来の目的であり、その為に書物を集める手段としての口実が四庫全書に他ならない。集められた書物は、問題があれば焼却され、それほど重大でない問題があれば、一部削除とされた。

おおまかな数字が挙げられているが、焼却になった書物は二千四百五十三種で、一部焼却になったのが四百二十三種で、四庫全書全体に納められている書物は三千四百七十種。つまり、四庫全書の四分の三が焼却処分になり、八分の一が一部焼却に相当しているんだそうです。

中国にある知識を集結するどころか、多くの知識を失わせた点からは、歴史的な功罪として大いなる咎を負うべき事業であったらしい。まさに歴史的愚行と言っても良いのかもしれない。

でも、学校でそんなこと一言も教えてくれなかったもんなあ~。いらんなそういう教師は。もっとも教科書にも問題があるのだろうけど・・・。

本書の内容がどれぐらい正確であり、他にはどんな見方があるのか知りたくなりました。今度関連書があったら、読んでみよっと。実に勉強になる本でした。

一部の抄訳というのが大変残念でなりませんが、禁書に関心がある方、一読の価値ありますよ。でも、ふと思ったのですが、今現在もリアルタイムで、中国政府はgoogle等の検索結果に特定の単語によるものは、表示できなくさせているでしょ。圧力をかけて。あれって、まさに中国の伝統的政策の一環に他ならないんですね。これだけ世界中の情報が自由にネットで入手できる、こんな時代にコレですもの。

『寝た子を起こすな!』ってことですもんね。う~ん、うちのブログなんてきっと検索結果で表示されないように、ブロックかけられるんだろうなあ~。(いや、マジに)
【目次】
第1章 稚拙な残酷さ―中国史上初、二回の禁書事件
第2章 北方の暴風―漢から唐、五代の禁書
第3章 文治の陰影―南北宋朝の禁書
第4章 意外に鷹揚だった元朝―異民族支配が幸い?
第5章 専制ますます強まる―漢民族復権の明朝
第6章 残酷なる報酬―満州民族の清王朝

現代の禁書
中国の禁書(amazonリンク)

関連ブログ
「グーテンベルクの謎」高宮利行 岩波書店