
インドの下層カーストに属した少女が、小説の世界でしか有り得ない様な虐待と苦難を乗り越え、盗賊に誘拐された後、自ら盗賊団の首領となって、弱者を搾取する金持ちや女子供をレイプすることさえ自らの権利と信じて疑わない上級カーストの者達に制裁を加えていく。あまつさえ、盗んだ金を人々に配る姿は鼠小僧のようだが、現実は冷酷であり、正直救いようがない。
但し、彼女は自ら自首して刑に服した後、民衆からの圧倒的支持のもと、立候補して国家議員にまでなったが、まさについこないだ暗殺されている。それが歴史的事実そのものである。
日本にいると、気付かないで済んでしまうのだが、この手の話は世界中にリアルに存在している。私の学生時代の知り合いで某国の大農場主の跡取り息子は、12、13歳の時に召使の女性で最初の体験をしたそうだし、自分はそんなところにはいかないが行っていたが、鉄格子に繋がれた女性(十代前半の子供)を数百円で売る売春宿もあると言っていた。
少し前のCNNか何かのTV番組でも、内線のアフリカ某国で村にいる全ての女性は、村の実力者の妻(性奴隷)であり、10歳ちょっとで妊娠させられ、子供の世話をしながら、炊事洗濯、農場労働など奴隷の如く働かされているのをレポートしていた。
本書の中でも出てくるが、警察や司法当局が貧者の見方をして公正だというのは、いつの時代を通しても絵空事でしかない。どうにもならない虚しさ・悲しさを痛感する。警察が賄賂や政治的思惑次第で、権力を無実の人に向け、容疑者を拷問・監禁・乱暴するのは世の常なのだろうか?
タイの警察なんかも、このノリだったもんなあ~。詐欺連中から袖の下もらっていて、捕まえる気なんてありはしないし。ブラジルでは、殺人以外なら、金さえ出せば全て解決できると言っていた人が普通にいたもんね。その場にいた人達が、普通にそれを肯定する姿が目に焼きついて忘れられません。
まあ、ちっぽけな私の経験や知識でも、本書に書かれている直視しがたい現実の姿には、胸が苦しくてやり切れなくなるが、同時に誰も助けてくれないんだなあ~と改めて思った。しばしば日本の学校教育では、みんなと一緒にあわせること、自己を主張しないことを美徳のように教えるが、そういう人々は絶対にこの悲劇の少女プーランを助けはしないだろう。
少し前に特急か新幹線の中で、乗客の少女が乱暴され、周りの乗客が誰も助けなかったらしいが、同じ事でしょう。この人達は、環境さえ同じなら、いくらでも人を見殺しにするんだろうね。
人間が生まれたそのままで、自由であり、権利があるなんてのは、幻想以外の何物でもない! 自らが意識し、学び、戦略的に行動して初めて獲得される政治上の妥協点でしかないのもかもしれません『権利』とか『自由』という存在は。
学生時代も社会に対する矛盾感や偽善的な仕組みに嫌悪して、法律を学んだけど、結論は自らルールを知って、自らを守ることでしたしねぇ~。
子供の頃から、『性悪説』を採用してきた私としては、法家の思想に共感を覚えるのも故無き事かと。もっとも、そっからアナーキストみたいな人達にならなかったのは、周りに人間的に素晴らしい人や教師がいたからね。悪い奴98%でいい奴2%ぐらいに思ってたもん、以前は。(今は、いい奴10%ぐらいに増えたかな?)
しかし、本書の中の主人公は、裏切りにつぐ裏切りにあいます。誰もが自らの保身と金の為に、裏切っていく姿勢は決して、特殊なものではありません。普遍的な人間の姿です。そこが更に悲しいです。
道徳の教科書を学校で読ませるよりも、この手の本を読ませたらいいのに。夏休みの課題の図書でもいいと思いますよ。そしたら、日本の未来も変わるかも? 年金を自分のお金として使い込む社保庁の職員を懲戒免職にして退職金の支払いを停止し、使い込んだ分を民事で返金させたうえ、刑事事件で横領罪に問う、民間なら当たり前ですけどね。それをしない政府を許してしまう日本人には育たないかもしれません。
本筋からそれてしまいましたが、いろんな意味で本書は人間の、そして人間社会の縮図です。人は相手が無知であることを知れば、徹底的にそれを利用するのです。その辺は「なにわ金融道」を見るとよっく分かります。無知を誇る風潮さえある、今の日本って、どうなんでしょうねぇ~。知らない事を恥じる必要はないでしょうが、知らない状態を放置する、怠惰な人間性は恥ずべきことだと思うのですけどね。(うわあ~、説教じみて我ながら愚痴っぽいですね、やめときます)。
とにかく本書を読むと、いろんな意味で衝撃を受けると共に、人間である事が悲しくなります。と同時に、たまたま日本にいるという幸運だけの違いであり、環境によっては同じ事をしそうな人達がたくさんいることを考えると、嫌悪感に苛まれます。気持ち悪いです。
それに対して、何にもできない無力感が輪をかけてしまいそうですが、いい人もいるんですよねぇ~。本書にも数は少ないのですが、自らの命と引き換えに主人公を助ける人さえ、出てきます。
悲しいんですよ。悪い人ばかり生き残って、善人が先に苦しんで死んでいくのって。どうしても感情が高ぶって冷静さを失いかねないですが、綺麗事の話ではなく、社会を少しでも良くしたいですね。何からすればいいのか、ちょっと途方にくれますが。
べたなやり方ですが、悪には厳罰を処すのも大切でしょう。どこかの国にもいますが、死刑囚の刑の執行に署名しない法務大臣なんて、国辱物の日和見主義者でしかないね。法を執行しない法務大臣、法治国家ではない。
まあ、どうしても脱線する話ばかりになってしまいますが、心ある人なら、何かしら思うか、感じるかしないではいられない本だと思います。『自由』を、そして『権利』を求めた人々。天安門で轢き殺された人々は、国家から無知であること強要されていたのでしょうね。(ますます、うちのブログは中国からブロックされそう・・・)
注】本書はフランスで出版された本が、英語に翻訳され、英語本を底本にして日本語になっています。その意味で内容がどこまで正確か、疑問です。というのは、私の友人は英語でこの本を読みましたが、印象がだいぶ違っています。単純に読む人によって異なるだけかもしれませんが、訳の問題による可能性もあるので付記しておきます。
女盗賊プーラン〈上巻〉(amazonリンク)
女盗賊プーラン〈下巻〉(amazonリンク)
この人が暗殺されたとは驚きました。最近のことですか?それはホントにびっくりです。
暗殺されたのは、結構、大きな話題だったみたいです。確か、それに関する日本語の本も出てるみたいです。
「女盗賊プーランは誰が殺したのか」
でも、amazonの書評を見ると、内容はないみたいですが・・・。
馬鹿の壁なんかよりもこっちを薦めます(笑)
こういう本が、変な本よりも売れるような国に日本もなって欲しいですな。
コメント頂いていたのに気付かず、大変失礼しました(お辞儀)。
おっしゃられるように、こういう読む価値のある本がきちんと読まれ、売れる国になって欲しいですね。同感です。
キンヒバリさん、
おっしゃられるように、インドの絶対的な階層社会の揺ぎ無さには、絶望的なものを感じぜずにいられませんでした。
私も読む価値のある本だと思います。