いろんな美術館や展示会で観る古代から近代の芸術作品ですが、やはりそれが描かれていた時代の空間意識を知らずに、その作品を理解するのは難しいんだろうなあ~と痛感させられました。
勿論、作品はただ作品それ自体における魅力・芸術性で時代や価値観を超越して見る人に影響を及ぼす永続的存在であるのですが、同時にそれはその作品を生み出したありとあらゆる時代的・社会的要因の下で、初めて成立しうる一時的なかりそめの存在でもあることにも気付かされます。
逆に言うならば、どうやって見られるかを踏まえてどう見せるか、という視点は芸術を存在させる空間全体を通して意識しなければ、その作品は真実の姿を現さないのかもしれません。
言い換えるなら、描いた人、建築を作った人は、自らが見えたものを見えたようにそのまま描いたに過ぎないとさえ言えるのかもしれません。
決して技巧に走ったわけではなく、自らがそう見えたと社会的規定からその人が認識しえた美を表現した、この視点は実に有用でしょう。
昨今では、この手の議論はよく聞くところではありますが、建築関係の雑誌に1960年代に描かれた内容にしては、全く古びたところを感じさせないものとなっています。
私自身は、既に何冊かこの手の本を読んで自分の中でもそういう意識が芽生え初めていたので、決して新鮮な驚きを覚えたわけではないのですが、本の内容は、著者の意見でありながら、実にバランス良くそうした視点での空間認識の説明がなされています。
個人的にはゴシック空間のとこがやっぱり面白かったかな? 逆に最後の抽象的空間までいってしまうと、正直興醒めでした。あそこまでいくと、何を意図して書かれていようが、それが見た人にどう思われるかが大切なんじゃないの?とか私などは思ってしまいます。何も伝わってこないんだもん、私にはね。
あとモリスのアーツアンドクラフト運動に対する著者の評価も、個人的には賛同しかねる内容でした。個々の部分には、当然違うことを感じるものがありますが、まとまってこういう視点を意識できる事は少ないので、それだけでも意味がある本かもしれません。
演劇なんかは特にそうですが、建築や彫刻などの芸術にはやはり『場』というものが大切なんだと心の底から感じずにいられません!
【補足】
調べてみたら、雑誌に書かれた記事でも読んでいました。道理で聞いたような話だと思いました。記憶力のない私って・・・なんだかなあ~(悲しい)。
【目次】芸術空間の系譜(amazonリンク)
原始空間の特質
ギシシャ人の空間意識
イタリア美術の空間意識
ゴシック空間の象徴性
ルネッサンスの理想都市
新しい技術と空間的可能性
世紀末芸術の空間意識
キュビズムの空間意識
抽象的空間の成立―抒情と幾何学―
あとがき
関連ブログ
ゴシック空間の象徴性/高階秀爾~「SD4」1965年4月より抜粋
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社
「図説 西洋建築の歴史」佐藤 達生 河出書房新社