2007年08月22日

「ゴシックの芸術」ハンス ヤンツェン 中央公論美術出版

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翻訳をされているのは、前川道郎氏。前川氏の本でゴシック建築の基本文献として頻繁に出てくるヤンツェンの著作を、ドイツ語から翻訳された資料本。原書で読めない私などには大変有り難い本なのですが、翻訳者ご自身が言われているように、訳がこなれていないうえに原文自体の問題があるのかもしれませんが、本書は非常に読み難い&理解しにくい。

もっとも意訳され過ぎて原文本来から意味が遠ざかってしまうものよりは、逐語訳のような文章の方がこの手の学術書としては、はるかに好ましいと思います。でも&でも、異様に読み難いし、理解するのが難しいです。パノフスキーよりは、まだマシですけど・・・。

ちなみに前川氏自身がゴシック建築という研究対象をいかにして捉えていくかを悩まれていた時に、『空間』として認識するという方法論を採用する際、非常に参考にした一冊が本書であったりするんだそうです。

そう言われてみると、以前読んだ前川氏の「ゴシックということ」で書かれていたことのかなりの部分の源泉が本書であったことが分かります。勿論、あちらの本は、あくまでも本書を踏まえて前川氏が論を進めている訳ですが、これがあって初めて成立した経緯がよっく分かります。

そういう意味で、きっと重要な基本文献の一つなんでしょうね! でも、嫌ってほど読み難い本です。いきなり最初に本書を読んでも普通の人ならまず理解できません。読んでて何語の本かと、息が苦しくなりましたもん、私。おそらく誰かの解説が必要でしょう。それぐらい、難解だと思います。

本来の順序とは逆になりますが、「ゴシックということ」を読んでざっと基本的な流れを一通り頭に入れた後に読んだ方がはるかに理解しやすいです。それでも私は苦労しましたが・・・(涙)。

丸々1日つぶして読書&メモしたが、どうでもいいところ(私的に関心が持てない細かい部分)は、一部飛ばし読みしても相当時間を費やしました。あっ、でも今、平行して読んでるエミール・マールの「ゴシックの図像学」と重なる部分もあって、そこは説明不要だったので結構助かったかも?

おそらく、避けては通れない基本文献です。日本語であるだけでも喜ぶべきでしょう。つべこべ言わず、さっさと読んでおきましょうね。ゴシック建築に関心を持つ方は。どうせ、すぐには理解できませんが、そのうち他の本を読んでいて絡んできた際に役立つかもしれません。

淡い期待と共に義務感から読みました。もっとも、分かり難いけど、分かる範囲では大切な示唆に富む指摘や解釈だと納得がいきます。そういう本です。もっとも、どうしても辛くて読めないなら、前川氏の前述の本に集約されてますのであちらだけで読んでもそれほど困らないかもしれません。あちらが、凄く分かり易くて学ぶ事が多い素晴らしい本だからなあ~。

でも、本書のゴシック大聖堂を「空間(空間限界の認識)」で捉える方法論は、やっぱり慧眼ですね。

本書の内容に関するメモはこちら。
【目次】
第1部 ゴシック教会堂の空間について
第2部 ゴシックの芸術―フランスの古典大聖堂、シャルトルとランスとアミアン

序論 ゴシックと現代
第一章 建てられた大聖堂
 第一節 長堂
 第二節 内陣
 第三節 袖廊
 第四節 光
 第五節 空間とゴシックの空間限界
 第六節 大聖堂の技術について
 第七節 外部の建築構成
 第八節 扉口と彫刻
 第九節 モニュメンタルなステンドグラスの絵
第二章 解釈された大聖堂
ゴシックの芸術―大聖堂の形と空間(amazonリンク)

関連ブログ
ゴシックの芸術~メモ
「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「SD4」1965年4月 特集フランスのゴシック芸術 鹿島研究所出版会
「大系世界の美術12 ゴシック美術」学研
「図説世界建築史(8)ゴシック建築」ルイ・グロデッキ 本の友社
「図説 大聖堂物語」佐藤 達生、木俣 元一 河出書房新社
「大聖堂のコスモロジー」馬杉宗夫 講談社
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「ゴシック(上)」アンリ・フォシヨン 鹿島出版会
posted by alice-room at 21:40| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Jantzenの著作の書評ってはじめてみました。彼の著作ではOttonisch Kunstを読んだことがあります。読みやすい本でしたが戦後すぐに出た本なので、残念ながら図版があまりよくなかったです。ただ、この時期の写本はとても素晴らしいと思いました。

ゴシックはあまりみていませんが、偉大な建築は惹きつけられます。
Posted by PLv at 2007年08月28日 02:11
PLvさん、こんばんは。原書で読まれた本は、読み易い本だったんですね。どんな内容なんでしょう。興味が湧きますね。読んでみたいです!!
(でも、ドイツ語ですよね。う~ん、敷居が高いです。私が不勉強なだけなのですが・・・)

どんな外国語の本もそうですが、翻訳になるとイメージが変わってしまうものもありますし、文献としては原書に当たるのが基本中の基本ですもんね。中世の図像学やゴシック建築関係の文献は、フランス語のものが非常に多いので、それぐらいは、なんとかしなければと思いつつ、英語ぐらいしかできていなくて情けない限りです(涙)。

すみません、話がそれました。
「Ottonisch Kunst」日本語訳ないですよね。図版が充実しているのって、特に本だけで学んでいく際には非常に重要で且つ効果的なんですが、他の建築関係や図像学関係の本でも、イマイチのものが多いかもしれません。写真も同様に、本の制作費の関係もあるのかもしれませんが、その充実度でずいぶん本文理解も進むのですが、残念です。

もっとも、大きな全集で図版や写真が充実しているのは、値段が異様に高額になってしまいますし、トレードオフの関係にあるようで、本当に難しいなあ~と思います。

でも、素晴らしい建築物や写本を見ると、心を奪われますし、もっと&もっとその内容を知りたくなります(笑顔)。コメント有り難うございました。

Posted by alice-room at 2007年08月28日 22:30
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