2007年08月24日

「ゴシックの図像学」(上)エミール マール 国書刊行会

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「ヨーロッパのキリスト教美術」を読んで以来、いつかは読もうと思っていました。つ~か、読まなきゃ駄目だと心に決めてはいましたが、ようやく1冊が読了できました。

やっぱり中世図像学の泰斗、つ~か大御所の著書は、内容が違います。一冊5千円以上と値段もかなりのもんですが、少なくとも中世美術が好きだとか、ゴシック建築に興味がある、なんていうならば、ipod買わずにこちらを買いなさい!! 値段の何十倍もの価値があることを保証致します。最低でも図書館で借り出して、読みましょう。

心の底から言いますが、中世のありとあらゆる写本やステンドグラス、彫刻を見たときの、見方が全然異なってきます。今までの見方がいかに即物的なもので、本質を分かっていなかったのか(涙)と頭をグラグラ揺るがされるくらい、それほどの衝撃があると思います。

ルールを知らないでゲームに参加しても、ゲームの面白さは一生見ていても分からない、そんな当たり前のことなんです。麻雀で役を知らずして、将棋で駒の動かし方を知らずして、勝負はできません。本書は、何よりも自分が参加する為のルールを教えてくれるのです。

要約版である「ヨーロッパのキリスト教美術」、これはこれで本当に素晴らしかったのですが、そこでは十分に言い尽くされていないことがどれほどあったのか、本書を読むとそのことに気付いて愕然とします。

もしかしたら、要約版にも書かれているのかもしれませんが、そちらでは気付かず、本書で初めて知った事が実にたくさんありました。

~中世芸術は象徴的言語であり、そこに描かれる聖書の世界は字義的に理解されるのみにあらず、歴史的意味、寓意的意味、教訓的意味、神秘的意味の4つの意味を有しているので、それを踏まえて象徴的に表現される。~

こういった事が続々と出てくるのです。これらの説明は、具体的な事例と解説を受けてようやく納得に至るのですが、本書ではたくさんの図像が入っており、それを明示しつつ説明されています。

そのスタイルは本来とっても分かり易くて良いはずなのですが・・・、紙面の関係かいまいち図が小さい。説明があっても、図が小さくてよく分からず、効果的な説明として成功していない点は悲しいです。あと、誤植がいくつかあり、図の番号が他の番号と変わってしまっているところがありました。これも残念。

しかし、そんな細かい事はどうでもいいほど、素晴らしい『名著』です!! 

16世紀の宗教改革時、プロテスタントが印刷したパンフに盛んに教義を説明した図が入っていたのは、何故でしょうか? 無知な民衆に、分かり易く主張や教義を教える為のおまけ的な存在だと思っていましたが、とんでもありません。分かり易さは従たる目的で、主たる目的は、教義そのものを図で示していたのです。

何故なら、それ以前の中世では、聖書はそのまま読んでも本当の意味が理解できない難しいものであり、表面的な字義の裏に神が準備している寓意を理解できるのは教会に他ならなかったんだそうです。つまり、教会による解釈によって初めて聖書は、理解しうる存在になったわけです。

宗教改革で教会による解釈を否定してしまった以上、聖書を読んで真の理解をするには、それがどう解釈されるか、新しい『解釈』が絶対に必要となり、図がまさにその解釈を示しているんだそうです。

う~ん、そんな意味があったんですね。印刷革命後、プロテスタントが配布したパンフの図版の重要性がようやく分かりました。本書のおかげです。こんな感じで、目からうろこ~がたくさんあります。後で抜き書きメモを作成するつもりですが、これ読んでない人はもぐりでしょう(自分のことは棚にあげておく)。

写本関係の本を読んでいて疑問に思っていた、図なども本書で謎が氷解します。本質から『中世』を理解したい方には、絶対的にお薦めです。他の本を読んでもなかなか得られない視点が得られること間違いなしです(満面の笑み)。
【目次】
<上巻>
序論
第1の書 『自然の鏡』
第2の書 『学問の鏡』
第3の書 『道徳の鏡』
第4の書 『歴史の鏡』
 第1章 旧約聖書
 第2章 福音書
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<下巻>
 第3章 旧約聖書と新約聖書に関連するさまざまな伝承
 第4章 聖人と黄金伝説
 第5章 古典古代―世俗の歴史
 第6章 世の終わり―「黙示録―「最後の審判」
 結論

※点線以降は下巻の内容になります。
なお、下巻についはこちらを参照下さい。ゴシックの図像学〈上〉 (中世の図像体系)(amazonリンク)

関連ブログ
「ゴシックの図像学」(下)エミール マール 国書刊行会
「ゴシックの図像学」(下)~メモ
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「ヨーロッパのキリスト教美術(下)―12世紀から18世紀まで」エミール・マール 岩波書店
「ルターの首引き猫」森田安一 山川出版社
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社
「ゴシック(上)」アンリ・フォシヨン 鹿島出版会
「ゴシックの芸術」ハンス ヤンツェン 中央公論美術出版
「The Hours of Catherine of Cleves」John Plummer George Braziller
posted by alice-room at 21:48| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
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