本書で共通するのは、ロンドンの変わりものの医師ジョン・サイレンスが出てくることであり、彼は合理的な西洋教育(とりわけ医学)を修めただけに留まらず、東洋を含めて世界各所に散在する叡智をことごとく修めた傑出した人物として描かれています。
そんな彼が、あくまでも既存の医療や常識的手段では解決できない不可思議な事件に対し、善良なる奉仕の精神と個人的な学究的関心から解決していくのです。
背景にあるのは、英国心霊主義がブームであった時代ではないでしょうか? 迷信や禁忌を安易に信ずることなく、かといって表面的な近代的解釈で拒否することもなく、同時代の科学では解明できない事柄が明確に存在し、それに対しては密かに知られている神秘的手法が有効な場合もあることを認めようとするある種、アンビバレンツな精神をあるがままに肯定しています。
科学では説明できない一方で、それ以外の人類に知られた『叡智』に照らせば、十分に説明がつき、対処も可能というのが本書の根底に流れており、その一方で安っぽいオカルトに走らずに、どこかそれと一線を画しつつ、なんとか理性で判断できる余地を残している感じがイイ♪
京極氏の小説のように、不思議な事象を無理に現代的に説明がつくようにしてしまうような、現代という時代の「論理や知性」礼賛的な姿勢がないのが、何よりも好き。
説明は欲しいが、全てに説明がつくというのも、私の理性は『拒絶』しちゃうんですよ。「そんなのありえな~い」って! 逆に嘘っぽく感じてしまうんです。
だからね、こういう怪奇路線って大・大・大好き!!
残暑厳しい折ではありますが、夏は怪談とかホラー読みたいですもんね。短編集ですが、何気に読み応えあります。人間心理の描写もなかなかのもんです。まだ、読んだことのない方はチェックしておいて損はないでしょう。一度、読んでもふと読み返したくなるそれだけの魅力を持った作品だと思います。
紀田順一郎氏が翻訳と解説してる、というだけで読むべき作品であることが分かるでしょう。怪奇小説好きなら、チェックしてないとモグリ?って、感じの作品です。
【目次】妖怪博士ジョン・サイレンス(amazonリンク)
いにしえの魔術
霊魂の侵略者
炎魔
邪悪なる祈り
犬のキャンプ
四次元空間の囚
次回の購入分としてしっかりメモらせて頂きます!
実に、味わい深くてじわりじわりとくる古き良き伝統を踏まえた、一方で合理的でもあったりする、良質な怪奇小説です。
秋の夜長にも宜しいかも? 読まれるのはちょっと先になるかもしれませんが、熟成されてかえって味わいが増す部類の小説ですので、これは本当にお薦めします(笑顔)。