2007年08月30日

「バチカン・エクソシスト」トレイシー・ウィルキンソン 文藝春秋

exocist.jpg

ニュースでバチカン内の大学でエクソシスト講座が開設され、エクソシストの養成をしていることは知っていましたが、本書は実際にバチカン公認の下で、日常の職務の一環として悪魔祓いをしている人々を取り上げています。

「悪魔祓いを体験するのに16世紀へタイムマシンで行く必要がなく、ただ、イタリアへ行けばいい」という言葉は、眼からうろこ・・・ですね。イタリアには二度行きましたが、神秘的なものをそのまま現実の存在として受け止める国民性、未だに聖人崇拝が衰えない国、何よりもバチカンが存在し得ているのもまさにそれが根底にあるのかもしれませんね。自分が本質的なものに気付いていなかったんだなあ~って思いました。

ジローラモさんのちょいワルオヤジもいいのですが、セラピーに通院する患者のように、毎週定期的に悪魔祓いを行う司祭の下に通う人々が普通にいるイタリアの現実をもっと知りたいと強く思いました。

本書には、カトリックのことをよく知らない私には、驚くべき内容が淡々と書かれています。前教皇ヨハネ・パウロ2世も3回以上エクソシストとしての経験があるとか、ヨハネ・パウロ2世が行った悪魔祓いでも失敗して祓えなかった悪魔がいるとか・・・えっ!? 本当? って思いません?

勿論、ジャーナリストである著者がそう書いているだけでどこまでが真実なのかは不明です。ジャーナリストは注目を浴びる為、往々にして真実以外の虚構を作り出し、真実かのように語るので為政者同様に疑ってかからねばならないとは思うのですが、本書全体を通して受ける印象では、誇張は抑制気味で著者自身の判断はできるだけ避けているし、取材や調査によって自分の知りえた内容を伝えようとしている姿勢はうかがえます。

他の情報などで確認しないと安易に信じる事は危険ですが、バチカン側の主張や実際にエクソシストを行う司教側の主張が微妙に食い違い点や公表されているとして紹介されている事実などは、非常にリアリティがあります。

イエス・キリストが悪魔祓いをしたのは聖書に書かれているし、カトリックの教義の根幹にも関わることであるものの、それが乱用されたり、変に脚光を浴びて世間から誤解やあらぬ注意を集めるのは避けたい。というバチカンの姿勢などは、まさにいろいろなニュースから伝わってくる内容と一致しているように思いました。

と同時に、実際に悪魔祓いを必要とする人々は増加するのも事実らしく、知識と経験豊富なエクソシストが従来以上に求められている時代が現代というのも本当らしいです。

通常、悪魔祓いにはイエスの名の他、聖人の名前もあわせて呼ばれますが、最近では「ヨハネ・パウロ2世」という名が悪魔に効果的というのは、ちょっと驚きますよね!

あと、悪魔祓いにはラテン語が一番効果的なんだそうです。だからなんですかね、ミサをラテン語で行う事を復活させたのもその流れの一環として捉えると、最近見るニュースの見方も全然変わってきます。

本書によるとヨハネ・パウロ2世は神秘主義的な傾向があったが、現教皇のラッツィンガー氏は神学者でもあり、ドミニコ会出身で教理聖省のトップだった経緯からして、論理性を重視される方なんだそうです。

その現教皇が現在、エクソシストに対してかなり踏み込んで肯定的な発言をされている背景などの説明は、実に興味深いです。今まで眼に触れていたニュースなどもこうした説明を意識しながら、見直してみると、非常に多くの点で気付かされる事があります。

率直に言って、本書の信憑性は不明だし、奥深い解説がされているわけでもありません。詳しい人には、物足りないとも思います。それでも本書で初めて聞く事があり、ここで紹介される視点は、カトリック関係のニュースを理解する時に大いに役立つような気がしてなりません。

良くも悪くもジャ-ナリストの書いた本ではあるるのですが、『いいきっかけ』になる本だと思います。本書をうのみにすることなく、関連書を読んだりして調べると絶対に更に興味深くなりそうです。

買うのはちょっともったいない気もしますが、眼を通しておいて損はない本です。

【余談】
本書の解説者だったか、訳者だったか忘れましたが、映画の「エクソシスト」に出てきた端役の司祭は、本物のカトリックの神父さんだったらしいです。つまり・・・バチカンの暗黙の公認の下であの映画は作られていた、そういう経緯が事実としてあるそうです。

いやあ~、驚きますね!! 世界中に広まったエクソシストブームは必要があってバチカンが関与していた結果だったそうです。う~む。情報戦略の一環ですね、まさしく。

そうそう、更にいうと、うちのブログでも先日紹介したニュースのハリポタの件。カトリック(のとある司祭)は、「ハリーポッター」というのは魔法の存在を信じさせ、悪魔崇拝などの現代的な病癖へ繋がる現実的危険と認識されているんだそうです。

私はいくらなんでも過剰反応では?ってコメントしてましたけど、実際にそういった現代の風潮から生じていると思われる危険があるならば、あながち否定もできないですねぇ~。なんでも知らないところで、いろいろとあるんだと改めて気付かされました。

まあ、天気予報と一緒に朝の番組で占いをみている人がたくさんあり、それを公共の電波を使ってTVで流してる国だからなあ~日本も。細木かず子が出ている番組が今も放送されているのも信じられないけどなあ~。ちょっと私には論外だし。すみません、余談ですね。
【目次】
第1章 現代の悪魔祓い師たち
第2章 儀式は聖水とともに始まる
第3章 歴史
第4章 横顔
第5章 悪魔に憑かれた三人の女性
第6章 悪魔崇拝者たち
第7章 教会内部の対立
第8章 懐疑主義者と精神科医
バチカン・エクソシスト(amazonリンク)

関連ブログ
法王大学で開講したエクソシスト講座の詳細
悪魔祓いの全国集会をローマ法王が激励
エクソシスト養成講座 記事各種
教皇庁立大学で「エクソシズム」コース開講
ルーマニア正教会が見習い修道女虐待で司祭追放
エクソシスト ビギニング  レニー・ハーリン監督
エクソシズム(2003年)ウィリアム・A・ベイカー監督
エミリー・ローズ(2005)スコット・デリクソン監督
教皇「ハリー・ポッター」には批判的見解
「現代カトリック事典」エンデルレ書店~メモ
悪魔祓い、についての解説
posted by alice-room at 18:29| Comment(0) | TrackBack(1) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

エクソシスト(悪魔祓い師)が足りない━ イタリア青少年の間に、悪魔崇拝者が増加
Excerpt: <記事概要> 「ローマ教皇、悪魔に宣戦布告」 ローマ教皇ベネディクト16世は、...
Weblog: 専門家や海外ジャーナリストのブログネットワーク【MediaSabor メディアサボール 】
Tracked: 2008-01-19 22:03