2007年09月11日

「神の植物・神の動物」ジョリ=カルル ユイスマン 八坂書房

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本書は、ユイスマンスの「大伽藍」 のうち、翻訳されなかった残りの部分を「大伽藍」の翻訳者・出口裕弘氏とは別人だが、知り合いである野村氏によって訳されたものである。

一部だけの翻訳の為、本書だけ読んでもあまり意味が無い。本書だけ見ると、キリスト教的象徴として、植物や動物が何を現しているかを書いているようだが、それはあくまでも表層的な見方に過ぎるので要注意!

本来の「大伽藍」全体の文脈の中で、シャルトル大聖堂という神の『聖域』において、ステンドグラスや彫刻に表現された図像の解釈があくまでも基本で、そこから敷衍して一般論になっている流れが大切!!

それもあってわざわざ冒頭30頁以上もつかって概要があるのだと思うが、翻訳部分との関係性を明示的に示してないので気付かない人は、何も分からないままで読んでしまうかもしれない・・・。いささか、不親切とも言える。

また、ほとんど頁で頁の上部には挿絵(植物、動物)が入っている。文章中の内容の理解を助ける意味もあるのだろうが、真実としては翻訳する分量があまりに少ない為、空白を埋め、頁の水増しを狙っている気がしてならない。

冒頭にある概要もそういう視点で見ると、頁の水増しの可能性が倍加してしまうのが悲しい・・・。

そもそも翻訳されていない一部分だけ訳すなんて怠惰な事をせずに、最初から全文を訳すべきでしょう。翻訳者が甘えているように思えてならない。部数が期待できないからと、内容が薄っぺらな割に、強引な価格付けもいかがなものでしょう?

今更ながら、『大伽藍』の翻訳者・出口氏が最初から全訳じゃないのがいけないんだろうけどね。出版社との関係や諸般の事情があったにせよ、本書の部分は、中世の図像学の点を踏まえても、原著者ユイスマンスの意図からも絶対に削って良い部分ではないと思うんだけどなあ~。

大聖堂が示す神の世界を現す欠く事のできない部分としての図像なんだけど・・・。この部分が、主人公デュルタルのキリスト教理解の深さを占めすものでもあるのに・・・。

かくいう私もエミール・マールの「ゴシックの図像学」を読んでやっとその深遠な意味に気付きましたので、えらそうなこと言えません(苦笑)。翻訳者さん、最低それぐらい読んでると期待してますけど、読んでなかったら、文字の翻訳はできていても内容理解の水準は低いかもしれません。

ずいぶんと前置きが長くなりましたが、改めて本書の内容を言うと、シャルトル大聖堂に描かれた植物や動物の図像を契機にして、物語の主人公デュルタルが神が望まれている象徴としての植物・動物の意味を探ろうとした話が述べられています。

やがてその話は、シャルトルに限定されず、一般化されていくのですが、例えば、柱頭飾りの植物や四福音書記者の象徴、葡萄圧縮機にかけられるイエスや製粉器を経て生成される粉としての聖書の聖句など。私的には幾つかの本で御馴染みになった象徴がたくさん出てきます。

(うちのブログでは頻出してますが、古書で購入した時祷書の挿絵にあった奴です。あと、宗教改革時のパンフレットに刷られていた図版とかのアレです。無関係にバラバラで得た知識がこういう偶然に結びついてくるのが、知識を習得した時に感じられる純粋な喜びですねぇ~、うんうん。)

この辺りの記述は、そもそも何故に『象徴』というのが出てくるのか、神学的な基礎知識が無いと面白みがないかもしれません。本書だけでは説明不十分かも? 逆に知っていれば、それが『大伽藍』の他の章に実に意義深く関わってくるのかに気付きます。

本書を読んで『大伽藍』にもっと深い意味があったことにようやく気付きました。個人的には、元々1冊の本を、わざわざ2冊購入して初めて理解できるなんて馬鹿な状況が解消されることを切に望みます。一人で訳せると思うんだけどなあ~。

世の中にフランス語ができる日本人はたくさんいるのに、ユイスマンスを興味持って訳してくれる人がいないのは悲しい限りです(涙)。人に頼らず、自分でフランス語ぐらいは勉強しないといけないのでしょうかね、やっぱり・・・。

ゴシック関係の文献も日本語や英語では限られてそうだし、フランス語を学ぶ必要性を痛感しつつある昨今なのでした・・・。さあ~って、どうしようか?
【目次】
『大伽藍』概要
神の植物(『大伽藍』第十章)
神の動物(『大伽藍』第十四章)
神の植物・神の動物―J.K.ユイスマンス『大伽藍』より(amazonリンク)

関連ブログ
「大伽藍」ユイスマン 桃源社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ゴシックの図像学」(上)エミール マール 国書刊行会
「ゴシックの図像学」(下)エミール マール 国書刊行会
「ルターの首引き猫」森田安一 山川出版社
posted by alice-room at 21:37| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
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