2007年09月13日

「聖なるものの形と場」頼富本宏 法蔵館

国際日本文化研究センター 共同研究の記録

国際日本文化研究センターで行われた研究会の成果ということで、かなり広範な分野の研究論文がまとめられている。

私はゴシック関係の部分だけに関心があり、そこしか読んでいないので本書全体の感想については触れない。

実際に私が読んだ部分は木俣元一氏によって書かれた章で、タイトルは、【シャルトル大聖堂「使徒伝」の窓における正餐の秘蹟の主題に関する試論】

以下、興味深い部分だけ抜き書きメモ。
シャルトル大聖堂に現在するステンドグラスの下端部には、職人、商人たちが仕事を遂行する姿が多数描かれている。これらは中世芸術の伝統にはない当時の風俗を活写する画像とされ、伝統的にそれぞれのステンドグラスの寄進者像として一面的に解釈されてきた。
 ~
シャルトルのステンドグラスが聖職者により精密に構築された、全体として一貫性のある教会神学的図像プログラムを基盤としているというのが、筆者の現在の主張である。
ステンドグラスで描かれたパン生地を小麦粉と水から練り上げる場面には、少なくとも三つのレベルが重ね合わされていることが、これらの祭壇で行われる秘蹟について論じたテクストからうかがわれる。
 一つはステンドグラスに描写されている世俗のパン職人がパン生地を作るということ。二つ目は、パン生地がキリストの身体であり、信徒たちの集まりであるキリスト教会を象徴するというレベル。そして三つ目に、これらのテクストが前提として語っている、教会で実施される目に見える徴としての秘蹟のレベルである。
基本的に、木俣氏が他の著書でも繰り返し述べられている主張がここでもされている。先行する研究成果を踏まえつつ、具体的な根拠を示しながら、反論や異論を唱えながら、新しい仮説を提示していくのは、まさに正統的であり、その論理の展開が大変説得力があって面白い!

タイトルが「試論」になっている関係上、本来の内容のごく一部分についてしか記述されていないが、それでも読むに値するだけの内容があると思います。

また、著者がこのテーマで書かれている他の文書よりも分かり易いので、その点でも読んでおいていい本でしょう。但し、非常に大部だし、高いし、必要なのはごく一部だと思いますので借りて読む本ですね。

なお、説明が大変詳しいのもポイント高いかも。抜き書きでは結論だけ抜粋してるのでイマイチ理解できないと思いますが、本書を読めば、きっと意味が分かります。私的には有意義な本でした。
【目次】
聖なるものの形と場
見えないものと見えるもの―聖と俗の密教学
中観派における勝義と世俗のあいだ―「言表される真理」と「不可説の真理」
戦う聖者佐々井秀嶺(アーリア・ナーガルジュナ)
インド的楽舞の受容と展開
チャイティヤと仏教信仰の習合―聖樹・聖柱・舎利・仏塔・聖地・表象
後期密教における聖なるものの形と場
インドネシア、ジャワ島に現存する密教遺跡の「聖なる場」
北魏金銅仏の同年銘像について
八部衆像の成立と広がり〔ほか〕
聖なるものの形と場(amazonリンク)

関連ブログ
ゴシックのガラス絵 柳宗玄~「SD4」1965年4月より抜粋
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「ステンドグラスによる聖書物語」志田 政人 朝日新聞社
「図説 大聖堂物語」佐藤 達生、木俣 元一 河出書房新社
posted by alice-room at 22:08| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
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