ただ、出版社の新人物往来社がこんな本を出していたんだあ〜っていうのが意外。あそこ、歴史物を中心に扱っていて面白いんだけど、結構、売れる為に無理した(=根拠の無い仮説、というかいささかトンデモ系の説)話が多くて、信憑性や信頼性に欠けるんだよねぇ〜。
だから、まともな研究者は書かないと思っていたんですが・・・(失礼!)。自称研究者や郷土史研究家ってたくさんいるし、大学の先生でも『?』のつく方って確実にいるからなあ〜。
渡辺氏が書かれているのに、驚いた訳が分かるでしょう。そして、本書の内容自体も、私には驚くべき事が多かったりする!(それでちょっと気になったんです)
例えば、異端が猖獗を極める南仏のラングドックは、普通、農業生産の豊かな経済的な先進地域であり、文化の先進地域でもあることが異端を支える条件の一つとして挙げられるが、本書ではラングドッグに新しい農業技術である有輪鋤は最後まで導入されず、むしろ農業生産性が低く、経済の後進地域であったとする。
元々は南部の方が農業生産性は高かったが、農業革命以後、北部と南部のそれは逆転したという。う〜ん、私が今まで読んでいた本では、全く聞いたことが無かったのですが、これって現在はどう評価されているんでしょうか? 学説って時代によって変遷があるからなあ〜。どうもすっきりしない?
あと本書では異端の考え方についての説明が大変詳しい。且つ、かなり明確になされている。カタリ派の考え方についての説明は、たくさんの本で何度も読んではいるが、本書を読んで今までの理解とは全然異なることに気付いた!
カタリ派が二元論を採り、善神によって支配される精神世界と悪神によって支配される物質世界(=現世)から世界が成り立つとするのは、知っていましたが、その帰結として出てくる内容には初めて知ることがあり、驚きを禁じ得ない!!
カタリ派は新約聖書を認めるが、旧約聖書を認めないんだそうです。旧約聖書には天地創造が書かれていますが、物質世界を牢獄と捉える以上、天地創造の意義は逆転し、旧約の造物主は悪魔となり、旧約は悪魔の書になるからだって。
また、イエスが善神であり、人の肉体を持って現世に現れたというのは、肉体が悪神によるものである以上、これも有り得ないと退けられる。イエスの現世への出現は、幻であったと解釈されるそうです。
同時に幻(まぼろし)であるイエスを生み出した母マリアが肉体を持っていることもおかしいので、マリアも幻であったそうです。う〜む。
そしてかつてないほどまでにローマ・カトリック教会から敵視され、完膚なきまでに殺戮されるに至る異端カタリ派は、従来の異端とは性格を異にしていたらしい。通常の異端は、あくまでも宗教の内部の在り方や方向性などに関しての異同が原因で生じ、妥協や方向性の修正など話し合いの余地があるが、カタリ派の場合、現世にある『教会』というのは、即ち悪神の支配下にある物質的存在であり、存在していること自体が『悪』に他ならない。
教義的にカトリック教会が善神の教会に成り得る可能性はなく、ひたすら抵抗し、攻撃し、滅ぼすべき悪神の手先そのものなのだ。
だからこそ、「悪しき教会とは、すなわちローマの教会。これこそ、偽りの母、大いなるバビロン、娼婦の家、サタンの祭壇。」と言って非難するのも道理に適った行為となる。
他にも「洗礼の水は不浄の物質、ただの水、悪しき神の作ったもので、霊を浄化する力は無い。貪欲な聖職者は、その水を売って金にするのだ。ちょうど、死者の墓のために土地を売り、終油と称して瀕死の病者に油を売っているのと同罪だ。」とか、辛辣な言葉が引用されている。
本書では他の本では見られないほど、分かり易く突っ込んだ内容が盛り沢山に、且つ平易に説明されている。読んでいて実に分かり易くて嬉しいのだが、学問的な正確さが犠牲になっていないか心配になってしまうぐらい。大丈夫かな?
でも、異端やカタリ派に関心があるのならば、本書は是非読んでみて欲しい本かもしれない。
具体的なアルビジョワ十字軍の内容と、その前後でうごめく国際政治の駆け引きが更に&更に興味深いです。
やっぱり、腹黒くてしたたかでないと世俗の勝利者にはなれないですね。現世は悪神の統治する世界っていうのも納得です。フランス王の家康張りのたぬき親父には、怒りを通り越して、畏敬の念さえ抱いちゃいますよ〜。
自分は可能な限り手を出さずに最終的に、あのラングドックを王家の支配下に組み入れる手際はまさに悪魔の手業かと思いました。ホント。
と同時に、十字軍に攻められると帰順を示しながら、ちょっと手薄になると即座に反旗を翻す誠意の無さは某○朝鮮や某○シアの国かと思っちゃいました(サハリン天然ガスのあの横暴さとかね)。う〜ん、日本の学校のようにルールを守りましょう、なんて教育では国際社会を生きていけないんだけどなあ〜。ルールなんて、権力や資力のある者によっていくらでも変更されてしまうというのが、実態なんだけどなあ〜。まあ、だから某横綱みたいなのが人生をエンジョイできるんでしょう。
余談が過ぎましたが、ころころと態度が変わる被征服地の住民や領主は、絶対に信用できなかったでしょうね。何度も裏切り、隙を見せれば後ろから、殺そうとし、あまつさえ身内や仲間が実際に騙し討ちにあってバタバタ殺されたそうですから、処分は過酷なほどの厳罰をもってあたり、街の住民を皆殺しにしたのも当事者としては、妥当な判断だったのかもしれません。
歴史はやっぱり一面から見たのでは分かりませんね。私は今まで、アルビジョワ十字軍は残酷で奢り高ぶったカトリック側の傲慢と、略奪目当ての騎士達によるものと思っていましたが、どうして&どうして一概にそうも言えないだけの事情があるようです。
歴史の面白さであり、難しさですね。どれもが一面では真実なのでしょうが、解釈次第で意味は180度変わってしまうのですから。
ただ、本書は大変面白い! これは誓えますね。でも、参考文献等は巻末に挙げられていませんし、初めて聞く内容が多かったので類書で確認していく必要がありそうです。一般向きの本だからでしょうが、念の為、ご注意を!
【目次】
聖ベルナールの怒り
南フランスの風雲
異端カタリ派
アルビジョア十字軍
百合の紋章
後日譚
「世界のドキュメント」シリーズの一冊。
異端者の群れ(amazonリンク)
関連ブログ
「中世の奇蹟と幻想」渡辺昌美 岩波書店
「巡礼の道」渡邊昌美 中央公論新社
「フランス中世史夜話」渡邊 昌美 白水社
「異端カタリ派」フェルナン・ニール 白水社
「異端審問」 講談社現代新書
「モンタイユー 1294〜1324〈上〉」エマニュエル ル・ロワ・ラデュリ 刀水書房
「オクシタニア」佐藤賢一 集英社
「西洋暗黒史外伝」吉田八岑 桃源社
「黒魔術の手帖」澁澤 龍彦 河出書房新社