【 目次 】
はじめに
仙術と哲学の混沌―中国
1説話の中で
2神仙思想の背景、道教
3「周易参同契」の三位一体論
4「抱朴子」の世界
5丹薬の服用と製造
6本草学との関係
7中国錬金術の発展と展開
魔術から科学へー西洋
1アレキサンドリアの時代
2イスラムの神秘と科学
3中世神学と錬金術
4妖術と近代科学
5東と西の交流
日本の錬金、錬丹術
1神仙たちの話
2四方拝から庚申待まで
3舶来丹薬の流行
むすびに
通常、この手の本にありがちなオカルトめいた雰囲気が全く無いのが最初、意外でもあった。非常に合理的な立場から、淡々と書物に残る仙術や錬金術、それに相当するエピソードを集め、その意義を自然科学者の真理追究の姿勢として評価している。当然、黄金を求めるという動機や方法論から、近代科学とは違っている点についてそれはそれとして認識したうえで過度にオカルトめいた見方や魔術師・山師として切り捨てたりすることもなく、非常に冷静な目でその現代的な意義を捉えているのが特徴的だった。
もっとも錬金術の現代的復権、そういった見方も最近はそれほど珍しいものではないが、初版が昭和38年であり、また薄手の本の割に実に、実に多彩な題材が採られている。資料集としても重宝できそうでかなり使える本と言えそう。
錬金術というと、すぐに暗黒中世の城にこもって黒魔術と一体化したような妖しいものをイメージしがちだが、勿論、それにも触れてはいるものの、本書はむしろ中国の丹術や仙術の類いをメインに採り上げている。
仙人になる、不老長寿を得る、おまけで金も獲得、そんな摩訶不思議な術が古代中国で隆盛を極めていたのは有名でした。本書では、具体的にそこで作られる物質や製造方法を現代的に解説し、予想される効能から解説を施している。中でもその素材の中心になる水銀についての解説は既知の知識も多いが、より総合的・統合的に解説されていて知識の整理にも役立つ他、それを取り巻く社会的な背景にまで及び読み応えのあるものとなっている。歴代皇帝が水銀中毒で早死にしたり、日本の奈良の大仏の塗金にあたり、水銀を使用したことなども定番情報だが、いい具合で説明されてます。あと、おおっと思ったのが塩化水銀の白粉を使用した伊勢白粉等。日本でもいろいろ使われているし、確か荒俣氏の「帝都物語」にも丹術関係の場面がありましたね。懐かしい~。
本書でも取り上げられる「神仙伝」「抱朴子」とか読んだ気がするんですが、例のごとく記憶が怪しいので再読しようかな? 特に「抱朴子」。意識して読んでないと内容が頭にのこらないんだよねぇ~。ブログにこうして感想文書くのも、記憶の定着化と後々のメモの為でもあるし。
錬金術に絡んで贋金作りの話もなかなか楽しい。そもそもこの手の話題に事欠かないが、単純な贋金と言えない合金作りが非常に興味深い。これは著者も指摘しているが、現代でも広く行われていることで22金、14金といった金の増量に他ならない。素人には見た目同じように金色に輝くし、何しろ安くたくさんの金が手に入るのだから、現代でもそれで喜ぶ人はたくさんいますしね。その際たる物が金メッキ。表面に金をつけているのだから、間違いなく金の輝きです、削れなければ(笑)。皆さんご存知の湯があふれだすことで比重というアイデアを発見したアルキメデスがまさに好例。彼は王様から金の王冠が純金であるか、混ぜ物があるかを調べて欲しいという依頼を受けて、その解決方法として比重を利用する訳ですが、いかに古代から合金が利用(悪用)されてきたかが分かります。
他にもグノーシス派キリスト教で魔術師とも有名はシモン・マグナスが出てきたり、果ては久米仙人や役小角まで。合理的な解説と共に、神秘主義的なエピソードの数々も脚色せずに淡々と紹介してくれるのも嬉しい限り。西洋中世に先進の技術として取り込まれ、当初支配的であったイスラム由来の知識についても説明されているのでとってもお徳ですね。
読了後に著者の経歴見てやっと分かったのですが、天文学科卒でご専門は科学技術史。どうりでねぇ~、あまりにも幅広い資料・文献から集められているので本業絡みで無いとなかなかここまで出来ません。後は、道楽の極みを尽くした書痴か、現代では失われた博物学者さんとかね。納得。
オカルト以外の側面からもご興味のある方どうぞ。こういう説明も結構好きだな、私は。数学を離れてだいぶ経つが、数式に耽溺するのも楽しいんだよね。全てが数字で処理できるのって理想の純粋世界でもあり、ある意味理想郷。現実では不確定要因であるパラメーターが多くて、モデルが不完全にしか機能しないし。もっともその場合は、モデルが不完全なのだけれど…。昔、株式市場の価格変動モデルを既知のものよりもっと精緻にしたいと思ったものだが…あの情熱はいずこに??? ポイントは人間心理をいかにパラメーターで採りこんで定数化するかだったが。
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関連ブログ
「錬金術」セルジュ・ユタン 白水社
「錬金術」沢井繁男 講談社
錬金術と言うとどうも中世ヨーロッパにイメージが飛びます。が中国の方はあまり知らない。
世の中数式で全部表現できると考えたことのある人って多いみたいですねえ(笑)
僕も、絶版の本を取り上げることが多いですが、興味を持った本が絶版というようなことが続くと嫌になります。
電子書籍で、復刊して欲しいものです。
私は、オカルトでも数学でも手段は問いませんが、世界の真理を自分だけこっそり知って独り占めしたいですね(とってもselfishな奴です)。
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lapisさん>そういえばそうですね、絶版でした。全然気付きませんでした。どこぞの古書店で1冊200円か250円で売っていて、週刊漫画を買うのよりは面白いかと数冊購入したものの一つなんです(ひどい扱い方?)。これからの季節、18切符とかで適当に電車に乗って行き当たりばったりの旅に出る時に、本とお酒だけがお友達なもんで(時々、寂しくなると携帯で電話しまくりですが)。
それはともかく、本がどんどん出るのはいいですが消えていくのは困りますね。本当に電子書籍とかでいつでも手軽に入手できる社会が実現して欲しいです。WORDで打った文章なんて、課金システムだけ確立すれば、いくらでも出せそうですよね。ホント。