
大好きな神林氏の作品なのですが、今回ばかりは期待外れでした。普通のどこにでもあるSFになってしまっています。氏の従来の持ち味である、どこか人間性の奥深いものを透徹している鋭い洞察と虚構なのにリアル以上の実感を伴う独特の世界観が本作品には、全く感じられません。
いつもなら読んでいる作中の虚構空間に囚われてしまい。読後に襲われる現実空間の奇妙な揺らぎが全くないのです。安心して読めてしまう神林氏のSFには興味がありません。私的には、残念としか言いようがない作品でした。
粗筋は、舞台は月に人が生活するようになった時代、その月社会でアンドロイドの開発製造を行う多国籍企業が身寄りのない子供を育てます。赤ちゃんの頃から、アンドロイドのママとパパによって育てられ、実の親と本人さえも慕っているのですが、その全ては、アンドロイドの優秀さの宣伝であり、企業の広報戦略の一環として行われたことでした。
しかし、その身寄りの無い子供は普通の子供ではなく、月社会から外れたアウトローであり、『ルナティカン』と呼ばれ、差別される特殊な集団の子供だったのです。子供を巡り、巨大な力を有する多国籍企業との間で争いが生じます。
まあ、粗筋自体はベタなSFですが、そこからが非凡な神林氏の手腕が冴えるはずだったのですが・・・(悲しい)。
生粋の神林ファンには、ちょっと満足できない水準の作品であるように思いました。お薦めしません。
ルナティカン(amazonリンク)
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