
相当昔に読んだ牧野氏の作品「MOUSE」をちょっと前に読み返して、感動を新たにし、是非、その後の作品も読んでみたいなあ~と漠然と思っていた時に見つけた作品です。
「MOUSE」のあの特殊な(露悪的擬似ファンタジー的?)世界観とは全く異質な作風とも一見すると思えるかもしれない。最初、読んでいて外したかなあ~これ?とか私、思いましたもん、実際!
確かにSF的、というか筒井的言語感覚の世界であり、ネーミングなのですよ~。まあ、著者は筒井康隆氏主催の「ネオ・ヌル」出身とのことでさもありなん、とは思うものの、それはほんの一瞬の類似であり、ある種の神林的世界観ともスレ違うものの、やっぱり違う。
最後まで読んでようやく、やっぱり牧野氏の世界であることをじわりじわりと実感する(させられる!)作品だったりします。
そうですね、改めて考えてみると「mouse」の閉鎖空間とは異なるものの、本作品で出てくる人の記憶を3時間毎にリセットしてしまう超常現象「レーテ」として生じる空間内も実は、別な意味で閉じた閉空間だったりします。
その限定された特殊な空間内で心理サスペンス劇のように広げられる、「敵は誰だ?」という探り合い。伝説の殺人者を追いかけながら、それを追う方が一人また一人と殺されていきます。
しかし、普通のサスペンスとは一味も二味も違っていて、SFが持ちうる類まれなる特性としての思考実験的な要素もあって、人間の心理描写が実に興味深い。
いやあ~、こういうのもイイ♪ 私的には大好き! 人間心理の嫌~なダーク面も含めてだけど。
恐らくこの作者の作風なんでしょうけど、常に舞台の背後に人間の心の闇を意識しているので、その辺が苦手な方はお薦めしません。そういうのも含めて、大丈夫な人ならOKかな?
あくまでも道具立てがSF的設定なだけで、基本は人間心理そのものを描くという作品だと思います。
ざっと粗筋。
理由は不明なまま、超常現象として確認された『レーテ』と呼ばれる空間。そこに入った人間は、3時間毎に記憶をリセットされ、それを何度も繰り返すと人は人格崩壊を起こして廃人となる。
しかし、その空間にいた時間や個人差により、単なる記憶忘却だけで大して被害を受けない者がいる。また、ある者はその特殊な体験により、記憶に関する特殊な能力を身に付ける者もいた。
『レーテ』後も生き残った者を中心にして組織された特殊な組織に組み込まれることになった、元敏腕刑事。彼もレーテで記憶忘却を経験し、何もかも忘れてしまったまま、組織の一員となる。伝説の殺人者を捕まえる為、彼はレーテに突入する任務を受けて遂行しようとするのだが・・・。
結構、暗~くて鬱っぽくなるから要注意! 一応、ある程度のカタルシスはあってストレス発散されるけど、それも重い。そういう点でも一般向きではないなあ~たぶん。
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「MOUSE(マウス) 」牧野修 早川書房