
近未来的なネット世界の描写は、書かれた2002年という時代的制約を加味しても古い。例えば、データを音声化して認識するというアイデア自体が20年以上前のもののような気がしてならない。
既に脳神経に電極を差し込む実験や治療が行われている現代、近未来なら直接データはバイアスの入る感覚器を通さず、神経系に接続されるだろう、どう考えても。著者なら当然知っているであろうに何故わざわざ音声化するのかが疑問だ?
あと色々と思わせぶりに出てくる人物がその場しのぎの使い捨てで有機的に生きてこない。場面場面では、生き生きとしているのだが、それが単発で終わってしまって、大きな意味でストーリー上に貢献している感じがしない。後書きを読むと、本作は連載物だったらしいのだが、そのせいでしょうか? キャラの魅力が全く生きていません。
それほど難しい話ではないのに、ストーリーがとっても理解しずらいのも細切れ感のせいでしょうか? 残念です。
ただ、マイナス面だけではありません。ドラッグ関係が出てくる部分の描写は「マウス」以来の著者の十八番ですが、やっぱり何度読んでも秀逸です。その部分だけを読む為に、本書を買ってもいいかもしれません。
それと・・・。
異様に、微妙に、感情のない登場人物達の特殊な感覚がシュールです。人と争う際のおよそ考えられる人間としての情感の欠如性が、大変印象に残ります。昨今の「ヤンデレ」に通じるような感覚でしょうか?
長編になっているのが失敗だったような気がします。短編の連作であったなら、読書の感じる印象も全然違ったものになったかもしれません。部分部分は、うまいし、さすがと思うのですが、全編を通した時、これが日本SF大賞受賞作なんだ、と思うと??? と思わざるを得ません。
あちこち複線(だろうと思う)として張られたものが、使われないまま終わってしまった、そういう作品だと思います。部分的には結構好きなんですが、作品としては×かなあ~(悲しい)。
傀儡后(amazonリンク)
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