2005年08月12日

「蝦夷(えみし) 」高橋 崇 中央公論社

以前うちのブログでもちょっと触れたことがあるが、うちの近所に将軍沢という地名がある。征夷大将軍坂上田村麻呂が、蝦夷征伐にこの地を通ったので、将軍にあやかって名付けられたという。正直それを知った時に、ただ道を通っただけでこんなに大騒ぎされ、地名にまでなるとは、当時どれほどの英雄として名が通っていたんだろうと不思議に思ったものだ。本当に今でも山の中にあるような土地だけに、歴史というものの奥深さを思わずにいられない。

それと、これはどっかの青年誌に出ていた漫画で征服された蝦夷の民が、遠く故郷を離れて日本全国に強制移住させられて同化政策を押し進まれていたことなどを知った。少なくとも私が読んだ教科書では、そんなことは書かれたいなかった。ただ、東北の蝦夷の反乱やそれを征伐する為の征夷大将軍派遣ぐらいのものである。日本人でありながら、日本のことなんて誰も知らないのが普通なのだろう。

その征夷大将軍坂上田村麻呂が京都の清水寺で戦勝祈願したことや、つい最近、征服された蝦夷のリーダーアテルイの記念碑がそこに建てられたことも誰も気に止めはしない。毎年あれだけ多くの人が清水寺に詣で、花見で賑わうがそんなもんだろう。まあ、私もそれと大差ないのですが、歴史は知れば知るほど面白く、そこに出てくる人身掌握のハウツーや国家運営、対外折衝テクなんて、下手な経営セミナーよりも役立ちますね。使えない大学のマネジメント論とかMBA講座を受けるよりは、リアルな歴史書を一冊読んだ本が役立つ! そういった実用性に加えて、私個人の興味から、蝦夷関係の本を読んでみたいと思っていた時、偶然見つけた本がこれでした。

通常の通史的な本では、1ページも割かれていない蝦夷のことが実に詳しく書かれています。勿論、専門書もあるのですが、いきなり読んでも大変だし、専門書と一般書の中間ぐらいを探していたので良かったです。薄いし。但し、書かれている内容って濃いなあ~。

東北の蛮人、中央王政府にまつろわぬ民、夷荻(いてき)等々、いろんな呼び名がありますが、当時の感覚的には、まさに異国の外国人であり、習俗・価値観とも共有しがたい脅威そのものであったようです。この本のすごいのは、まずきちんと蝦夷(えみし)を指す、単語の特定(複数の単語の使用例がある)からスタートし、その単語(用語)の示す内容の定義や、実際にそれが使われた様子を文献や発掘された資料から、きわめて慎重に推測していきます。常にしっかりと根拠を挙げ、ここまでは資料から推測が裏付けられるけど、ここから先はあくまでも仮定であるとかを、きちんと意識して述べているのが素晴らしい。論文ではないので、紙面の制約から個々に典拠は挙げられていなくとも、その姿勢が好感が持てるし、信頼が持てる。

小説と歴史はそこが違うので、それを認識していない方の書かれた本は小説としては面白いかもしれないが、事実を歴史を知りたい場合には役に立たない。今回は歴史を知りたかったので私の意図には合致していた。

想像以上に詳しいことが書かれていて私などの理解力を超えるところも多いのだが、今回読書して得た新たな知識としては、蝦夷征服後、蝦夷の有力者には位階を与えて律令制下の体制にしっかり組み入れていた例があること。全国のあちこちに移住させたものの、従来から農耕民ではない為、なかなか定着せず、しばしば良民(律令制下の一般人、租調庸の租税負担有り)に暴行を加えたり、暴動をおこす他、税を課そうとすると逃げてしまい、はなはだ処置に困る存在であったこと。彼らを手なづける為に租調庸を免除するばかりか、禄を与えて衣食の面倒までみていた例が多数あり。位階を与えすぎて、国家財政に悪影響を与える問題まで生じせしめたいた等、なかなか簡単な存在ではなかったらしい。

当然、それ以前に蝦夷の反乱を鎮圧する際にも莫大な戦費がかかり、同時にたくさんの労働力が失われ、国家的な損失も大きかったので、じわじわと律令制国家の衰退への遠因にもなっていたようで、非常に興味深い。その辺りがある意味一番面白いのに、歴史の教科書では出てこないからなあ~。そもそも歴史の先生の理解が浅かったりするので困ってしまう。歴史が好きでない先生に物事を教わる苦痛はなかなか絶えがたい。まあ、私は尊敬できない先生の授業は、無視して一人別な読書などをしていたけど。

ちょっと話がそれたが、如何にしてまつろわぬ民を教化、訓化していくか、多国籍企業のローカリゼーションの問題と実情はかなり近いと思う。如何にして現地従業員のやる気を出させるのか、現地の人の幹部登用問題など、まさに位階を与えて懐柔する中央政府と同一である。アメとムチは、言葉としては正しいが問題なのは微妙なサジ加減であり、何をどの程度実施するか、時代や地域を越えて普遍のテーマでもある。

まあ、そんなふうに大層に考えなくても、関心があれば面白いかも? 但し、ちょっと厳密過ぎるというか細か過ぎて、人によっては興醒めかも? コアな歴史好きにはいいかもしれません。

そうそう、そう意味ではカエサルの「ガリア戦記」。面白いです。これなんか如何にして、敵を手なづけるか? 如何にして敵を自分の支配下におくか? 学ぶところが大です。やっぱりカエサルは有能な人であり、英雄なんだと実感するとともに、超一級の政治家であることを納得させられます。くだらない経営戦略論や組織論より、よっぽど実践的ですよ~。

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posted by alice-room at 16:09| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も あまり知りませんが ローマ帝国にたとえられると なるほどという気もしますね
規模は違えど 征服者の思惑通りにはいかない・・
どころか 反体制派を育成しているような・・

奥州藤原氏以降でも 戦国時代など見ると やはり他地区と隔離した感じだったことなど思うと
蝦夷と言われた人達の子孫が 東北地方では大きな力を持ち続けたのは確実で 
その流れは現在に続いてますね
さらに 他地区においても 源氏 平家がそうとは言い切れませんが 
移住させられた人の子孫が その地域での有力者となっていることも少なくないなら
平安中期以降に台頭し 武家の名家となった中にも 蝦夷の家柄も少なくないかもしれませんね
Posted by 印南野きつね at 2005年08月15日 05:25
おっしゃられる通り、日本全国に潜在的な不平不満分子をばらまいてしまったのかも?薄めれば、目立たなくなりますが、人の恨みは決して消えませんから。荒俣さんの帝都物語なんかは、その辺のをうま~く使って描かれてますよね。

そうですよね、義経が逃げ込んだのも当時、東北がある意味、独立国的な存在であり、経済圏としても交流はあったものの、独自の文化生活圏であったからみたいです。

また、朝廷も蝦夷をもって蝦夷を制す、場合もあり、朝廷に帰順して蝦夷征討で活躍した蝦夷出身の人が、相当高い位まで出世していることがこの本にも出ていました。その人達が武家の方につながっていくのかもしれませんね。東国武士なんてのもやっぱりその系譜なのかも?
Posted by alice-room at 2005年08月15日 14:13
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