2007年10月03日

「中世シチリア王国」高山博 講談社

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以前読んだ「十二世紀ルネサンス」の中にスペインのトレドと並んで、シチリアが古典の復興に多大なる貢献をしていたことを知り、もう少し知りたいなあ~と思って読んだ本です。

あとここのシチリア王が、閉塞感いっぱいで成果の上がらない十字軍を尻目に外交交渉だけでエルサレムの支配権を獲得した話も他の本で聞いていたので、私の中に漠然とシチリア王国に対する関心を抱いていました。

上記の関心を本書が満たすかというと・・・。
十二世紀ルネサンスとの絡みでいうと、ほんの少ししか本書では言及されていません。著者の関心が中世の西欧世界に対するシチリア王国の影響という『従属した』視点ではなく、あくまでもシチリア王国を『主体にした』視点で捉えようとしており、古典の翻訳等は異文化が接触した際に生じる通常の『文化移転』の範疇であると看做していることによる。
(←学者は自らの専門的立場から、物事を見るのでそうなるのでしょうが、中世史的にみてシチリア王国の重要性がそれほどとは思えないんだけどなあ~私には)

一方で、イスラム勢力の内情を熟知し、どうすれば、自らの欲する所を得られるかを既に知っていたであろうシチリア王が「外交交渉」という手段を戦略の一つとして採用したのは当然であったことが本書を読むと自明となります。

支配地域の住民に多数のイスラム教徒を抱え、統治機構の運用者としてイスラム教徒を官僚に積極的に登用していたシチリア王にとって、イスラム世界を熟知していなければ、そもそもその存在基盤さえも揺るがしかねない状況であったでしょう。また、敵対する諸侯や都市勢力の抑止力としてもイスラム教徒の懐柔と利用は必須だったようです。

結論として、直接的な『十二世紀ルネサンス』を本書で求めても期待外れとなりますが、それを成し遂げることができた背景を知るには、好適書かと思います。

また、中世の西欧においてもっとも早く高度化した官僚制を採用したのもこのシチリアであったそうで特殊な政治的状況からそうなった背景も含めてその点でも興味深いです。

と同時に、シチリア王国の宗教的寛容も政治的要請によるものであり、トレドでレコンキスタ後にユダヤ人への迫害が強まったように、イスラム教徒を利用する価値が相対的に減少するにつれ、種々の制約が課せられていったことが述べられています。実に考えさせられる話ですね。『正義』が勝つのではなく、勝ったのが『正義』であり、何をしても許されるというのは、まるで現代に通じる国際政治のようです。

個人的にはシチリア王国のみは全然関心がありませんが、中世史に関しての独特の役割と、イスラム教文化圏とギリシア文化圏(ビザンチン)とキリスト教文化圏のそれぞれが交差する特殊的事情は大変面白かったです。そういう観点で興味のある方にはお薦めします。

もっとも、本書では、こまごまとした人名がたくさん出てきてしまい、眠くなる典型的な歴史の本となっているマイナス面があります。できれば人名は大胆に削って、本質的な説明部分をもっと明確にしてくれた方が理解しやすいし、役立つんだけどね。個人的には、王や諸侯の名前なんてどうでもよくて、その人が果たした歴史的意義が知りたいだけなんだけど・・・。その点は残念でした。

歴史に興味がない人には、最後まで読み通すのも難しいかもしれません。
【目次】
プロローグ もう一つの中世ヨーロッパ
1章 地中海の万華鏡シチリア―錯綜する歴史
2章 ノルマン人の到来―地中海とノルマン人
3章 王国への道―シチリア伯領からシチリア王国へ
4章 地中海帝国の夢―ロゲリウス二世の新王国
5章 強大な官僚帝国へ―ウィレルムス一世悪王と宰相マイオ
6章 動乱から安寧へ―ウィレルムス二世善王の時代
7章 南国の楽園―めずらしい果物の島、美しい建物の町
8章 異文化接触の果実―イスラム、ギリシャ、ラテン文化の出会い
エピローグ 混迷の時代へ
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ラベル:書評 歴史 西欧 中世
posted by alice-room at 19:30| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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