2007年10月04日

「大満洲国建設録」駒井徳三 中央公論社

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満州国建国の立役者にして、建国後は経済関係の最高の地位を占め、その仕組みをまさに一から作り上げた稀有な『文官』であった人物の手になる歴史的記録です。

現代の歴史的評価から見たら、納得できない部分(柳条湖事件の首謀者の件や、満州国の主要財源等々)が多々あるものの、教科書で安易に軍部の暴走でとか、日本の権益確保の為に戦争を起こしたとか『無知』としか言いようがない記述がいかに誤っているかを痛感させられる。

満州国は戦争に関わっている。戦争は良くない。だから、満州国は良くない。こういった幼児的三段論法レベルで議論をしている方々には是非一読をお薦めしたい!つ~か、これ読んでからでしょう!

まさに昭和8年という時代に、歴史的出来事の当事者が自らの行動の意義を世論に訴えんと欲して書かれた本書には、自らを捨石にして日本と中国の永続的協力関係を築こうとした人々の情熱と苦悩の姿が描かれています。

実際、著者は内地に隠居していたのを陸軍大臣から「明日の日本と中国の為に」と再三の要請を受けて中国に向かいます。その際は二度と日本に戻らない覚悟で、自分の財産を処分し、それらは全て妻子に分け与えると共に、仕事の支障になってはいけないと妻とは別れて単身で中国に向かったそうです。

著者自身が勿論、有能な人物であった共に幼少の学生時代から中国の重要性を鑑み、大学の卒業論文では農業による中国の発展を企図して「満洲大豆論」を書いています。その後、満鉄に入り、自らの信ずるところを為さんとして中国全土をくまなく歩いて回ったそうです。

それほどまでに深く、中国と人民を熟知したうえで両国の架け橋たらんとした人物ですので、行動には真摯な情熱と深謀遠慮が交錯します。

治安が悪化した危険の真っ只中で護衛もつけずに大陸を車で疾走し、兵士に銃を向けられて監視される中、中国の実力者と会見して日本にとって必須であった交渉をまとめるなど、まさに命がけで行動しています。

そうかと思うと、あの国連のリットン調査団に対しても満州国が堂々と対応し、外交下手な日本人とは思えないしたたかさを見せてますが、著者自身が書かれているように、その間の日本政府の対応のまずさ(外務省の事なかれ主義と偏狭な島国根性を酷評してます)も致命的なミスであったことが分かります。

諸外国の対応も教科書に書かれているような、決して一方的な日本批判だけではなく、その背後にあった国際情勢や各国の思惑なども書かれていて実に興味深いです。勿論、あくまでも著者の立場からという限定がついてはいるのですが、教科書やそれを教える教師がこれらの事情をどこまで分かったうえで記述しているのか、私にははなはだ疑問に思えてなりません。

本書を読んでいて、そこに指摘された中国民衆の特徴(小さな集団や家族を統治するに非凡な才能を有するが、極端に個人的利益に走る為、天下国家的大集団を統治することが甚だ困難)は、まさに今の中国的資本主義の弊害そのものに一致するのみならず、日本国内の諸問題についての指摘が、今も変わらず妥当しているのに驚かされます。

満鉄の理事に内地から現場を知らない者が送り込まれ、数年おきに交代してしまう。対応する中国側は同じ人物でその間変わることがない。とてもではないが、交渉する以前の問題で話にならない。

あるいは、国連で全権大使として交渉に当たっている人物に対してでさえ、外務省寄りの人物でないというだけで必要な情報の提供を怠り、十分な資料が無い為に、外交交渉が不首尾に終わる。それもこれも、些細な縄張り意識に凝り固まった島国根性と歯に衣着せずに語っている。

また、平時にいかに優秀且つ事務処理能力に長けていても、火急の緊急時に即座に対応できるか否かは、別問題であり、それなりの修羅場や場数を踏んでいない人間は使えないと手厳しい。

著者は高邁なる理想を追い求める理想主義者であると共に、冷徹な政治を遂行してきた極めつけの現実主義者でもあって、相反するような両者を統合していくその考え方や行動原理は大変勉強になります。と同時に、非常に感銘を受けずにいられません。

まさに『大志』を抱く人物だったのだと信じて疑いません、私。

満州国成立後は速やかに日本人が特権的に有していた治外法権を撤廃し、日本の属国ではないことを明確にする必要を述べているし、満州国と日本国の経済関係もあくまでも互恵的な立場にたって、日本側の利益だけを追い求めるような形ではいけない、などと主張されている。ラスト・エンペラーの日本人像は、あくまでも映画の世界に過ぎない。

全く本書を読むと、NHKのプロジェクトXなんて、まるで児戯にしか思えません。たかだか新技術の一つや二つ、あるいは一企業の成功なんてどうでもいいし、それに関係した人の情熱も申し訳ないが、たいしたことないように思えてなりません。

本書を読んでいて痛感したのですが、責任を回避することに終始する姿勢は、今に始まったことではなく、まさに日本の有する伝統的病(やまい)なんだあ~とつくづく思い知らされました。戦後何十年経とうが、日本って変わっていない。

誰も彼もが勝手に意見を述べ、誰も責任を取らず、マスコミはその無責任さを助長し、お祭り騒ぎにしてしまう。戦争が何故いけないか、何故それを起こしたのかを掘り下げない議論は、無意味なんだけど、日本の学校で議論なんて経験したことないもんなあ~。大学に入っても、あまりそういう機会無かったし・・・。

まあ、現代の憲法9条問題もいいのですが、過去を冷静に見つめ直すこともできずに表面だけ騒いでもしかたないような・・・。とにかく、本気で議論するなら、こういった本も是非復刻して誰もが読めるようにして欲しいなあ~。

とりあえず国会図書館に入ってるようですし、ご興味ある方は是非読んでみて下さい。得るものが必ずあると思います!!
【目次】
満州事変の渦中に投じて

事変直後の満州四頭政治
 人材に富める関東軍
 満鉄幹部の周章狼狽
 関東庁及び在満各領事の無力

馬占山説得記
 チチハル攻略前後
 軍使となって

建国工作の概要

建国直後の満州国
 新政府の経綸
 中央政府部内の雰囲気

満州国と連盟調査団
 国際連盟より見たる満州事変
 リットン卿会見顛末記
 国際連盟会議対策私見

新国家に対するデマの横行
 対満認識不足の悲哀
 国都建設を繞りて

満州国承認裏面史

満州産業開発管見

日本の経済政策並に政治政策より見たる満州国
 満蒙独立国家の建設と其経済的経営
 満州国経営上の政治問題

在満人問題に就いて

満州国要人列伝
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<付録>
新支那建設の一駒
満州国全法令便覧(満州国国務院法制局編纂による)
新満州国地図(満州国民政部地方司版に拠れる最新版)
大満洲国建設録 (1933年)(amazonリンク)
[駒井徳三氏の著作リスト(私が見つけた範囲)]
麦秋駒井徳三 (1964年) 蘭交会

大陸への悲願 (1952年) 大日本雄弁会講談社

大陸小志 (1944年)講談社

満洲大豆論(1912年)東北帝国大学農科大学内カメラ会 経済学農政学研究叢書;第2冊

南満洲農村土地及農家経済ノ研究(大正5年)南満洲鉄道地方部地方課 産業資料;其7

支那棉花改良ノ研究(大正8 )支那産業研究叢書発行所 支那産業研究叢書;第1冊

満洲国の今後 (1933年)大阪図書販売 時局問題叢書;第5編
今度、探して読んでみよっかな?

関連ブログ
「満洲帝国」学研
「最終戦争論・戦争史大観」石原 莞爾 中公文庫
古本まつり(西武百貨店)満州国の絵葉書


ラベル:満州 満鉄 書評 歴史
posted by alice-room at 20:45| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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